読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。

書評― シルクロードと唐帝国 (興亡の世界史) 森安 孝夫

 ブログ引越し&見直しの再掲です。元は09/12に書いたものです。

シルクロードと唐帝国 (興亡の世界史)

シルクロードと唐帝国 (興亡の世界史)

 

書評―シルクロード唐帝国(興亡の世界史) 森安 孝夫

 筆者は数少ない、西域の言語ゾグド語を介する研究者であり、漢民族の史料だけでなく、文章以外の周辺諸民族の史料、 碑文などを基にして中国という一王朝史のような枠にとどまらず、むしろシルクロードチベット突厥などの草原遊牧民の国家を含めたダイナミックな歴史の流れを説明しようとする。今までの書物では、中国を舞台にしてその周辺、あるいは一部としてしか語ることがなかったが、本書ではむしろ中国が一周辺として話題に上る。北魏などを始めとする征服王朝とは何か?安史の乱とは何か?ソグド人郷兵軍団の存在を指摘するなど、これまでとは全く違った府兵制の性格などを見せる。安史の乱は単なる異民族集団の反乱ではなく、唐の多民族的性質を如実に現すものである。安史の乱は早すぎた征服王朝だった。歴史的に見ても以後「征服王朝」―遊牧民族が農牧接壌地帯を越えて征服し、王朝を打ち立てるというケースが散見される。北が南を文章行政を通じて直接・間接に支配するというシステムがユーラシア全域にわたって見出せるのは世界史的現象であり、そこに歴史的必然性を見出すべきである。ソグド文字からそれぞれ独自の文字を創出したり、農耕民・都市民を少数でも管理できるシステムが完成したのがこの時代。十世紀ごろまで長い時間をかけて略奪・征服を繰り返し、またその住民との協調・同化の成功と失敗を繰り返して、その結果生まれたのが大人口の農耕民・都市民を人口的に下回りながらも安定的に支配する組織的なシステム。それが軍事的支配制度、税制、人材登用制度、商業・情報ネットワーク、文字の導入、文書行政、都市建設そしてそれを支えるのが遊牧民集団の軍事力とシルクロードによる財貨の蓄積であった。
 まとめると、この時代の歴史とは遊と農という二つの異なる文明間の衝突と結合の繰り返しによる遊農融合による新文化・政治の創生、新時代のための基盤作りとなった時代だった。そして結果生まれた定住・遊牧を取り込んだ新システムは歴史の主流・基礎となっていった。
 ○遊牧民と農耕民の交わる接点を「農牧接壌地帯」と呼ぶ。横長に広がるここを制すれば、王朝は繁栄し、失えば征服王朝などに対する戦乱の最前線になる。
 ○漢民族=農本主義などということはなく、中国農本主義の誤りを指摘し、北部では牧畜の方が生産が高かった。
 ○遊牧王朝は常に経済基盤が脆弱であり、旱魃、霜雪などの自然災害に極めて弱い。第一突厥帝国やウイグル帝国および大元ウルスも全て自然災害で滅びている。遊牧帝国は自然災害、疫病による家畜の大量死といったときに、経済的な基盤である農業地がないと存続できない。
 ―といったような興味深い指摘も数多い。突厥史を深く知りたい人間にとってとても優れているといえる。ただ、時系列的に淡々と述べられているものではないので、この時代や歴史に詳しくない初心者にとっては少し読みにくいかもしれない。むしろ井沢元彦*1のような平易に順を追って解説していくものの方が珍しいといった方がいいだろう*2

*1:今現在は、分かりやすかったらそれで良いわけではない。まあそんな考えにシフトしてきますが…

*2:あれ?出来が良いかはともかくとして、これひょっとして、初めてまともに書評チックなこと書いてない?(笑)。