てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

ロシア・ソ連分析⑤ スターリンモデル・粛清

【ロシアの過剰安全保障主義は消えるか?】
 日本が外へ出て行って戦争をした―日本の神風史観と対照的に(前回参照)、ロシアでは大きな被害をこうむった戦争は、全て相手の意思で起こっている*1。であるから、ソ連過剰安全保障主義になっているのである。現在、それはいかほど消えただろうか?何しろ独ソ戦から日本の非戦期間と同じ年月が流れているのだ。いまさら大国がロシアに攻めてくるなどとは誰も思っていまい。*2
 現ロシアは軍需にバカみたいに金をかけてはいない。そのことがどのように影響しているのだろうか?多少は配分が増えてましになった程度、小康状態で済んでいるのだろうか?モスクワ一辺倒の大国病で苦しんでいるのか?

スターリンモデルを未だに引きずるロシア】

 マルクスは、『ルイ・ボナパルトのブリューメール十八日』*3において、「ボナパルティズムは、一回目は悲劇として」「二回めは喜劇として」現われると言っ た。このようにスターリニズムがあまりにも巨大なため、彼以後の指導者はすべて何らかの意味でスターリン的にならざるを得ない。

 スターリンモデルは農業を犠牲にして、労働者から収奪して、重化学工業を発展させるというもの。さらに独裁権力で絶え間なく反乱を鎮圧。経済・市場原理を理解して、発展に導くという支配者像は考えにくい。さらにその強い指導者の下で高度経済成長を遂げたという過去の体験がある。強い指導者、わかっている人間が上にいれば、それで経済は発展するという誤った思い込みがある。プーチンはまさにそうではないか?今のロシアにはスターリンがレーニンに代わっただけという要素が多分至極にある。

【粛清は権力基盤=権力維持のため必要不可欠】
 また、レーニンもスターリンNEP粛清という過程を通じて自己の支持基盤を作っていった。この支持基盤があるかないかが政権の安定性となり、改革の成功の要素であった。ゴルバチョフの失敗、ペレストロイカの失敗は、スターリン時代のノーメンクラツーラ(特権階級のこと)を粛清しなかったことが第一。プーチンは新興財閥オルガリヒを処罰した。これによってプーチンの支持基盤FSBとかシロヴィキ(強硬派)といわれる階層を構築することで、政権基盤を構築したと見てよいのだろうか?ロシアについて詳しいわけではないのでよくわからないが、気になる所。
 重要なのはロシアが新しい支持階層・支配階層を構築し、この支配者層が独占資本家のように、市場を育成し、その後分割されていって消えていくという信長時代のような楽市・楽座&株仲間。資本主義企業の育成と、その後の自由経済の過渡期への道を築いたような過程に足を踏み入れているかどうか?
 己は、メドヴェージェフがあんまりプーチン政権基盤のシロヴィキとかの高い地位のものだから世襲せざるを得ない―といったような見方はとってない。おそらく彼は朱鎔基のような実務官僚型。西欧式を取り入れないとマズいという事がわかっているので、西欧的なやり方・ノウハウ、市場経済を知り尽くしている実務官僚としてプーチンに使われているのだと思う。ある種のガス抜き効果を期待されてもいるのだろう。
 確かもう一人の候補が軍人で、その人になるかなどと言われていたけど、プーチンがその後また継承して一人ツァーリになりというプランを見れば、それありえないのは一目瞭然だったわけか。しかし、このような一人のカリスマに頼るやり方はきわめて危険だろう。結局、またメドヴェージェフが経済を担当することになっても抜本的な改革は行われないだろう。民主主義も市場経済も大して改革されないんじゃないと思われる(ロシア現代事情を調べたくなってきたな…。でも最近読んでなかった洋書がたまってるしな…)。
 
重化学でしか成功できなくて、その後ぐちゃぐちゃになったロシアと、家電・自動車だけで、後はずっと停滞している日本経済と相通じるものがある。もちろん日本経済の他国との違いを見て、その素晴らしさはいうまでもない。ロシアの後進性もいうまでもない。しかし一端決まった方針をいつまでもずるずると引きずっているところなどは、そっくりであるとしか思えない*4

【ロシア高度経済成長の秘密】
 なぜ50年代初期まで、スターリンが死ぬまで、経済発展と技術革新が可能であったかということについて。30~50年代くらいまでずっと高度経済成長をしていたその理由は何か?おそらく戦争と都市化による初期資本主義、都市化に伴うセイの法則の成立だと思われる。
 どんな国家モデルでも農村→都市で必然的に経済は成長する。ツルゲーネフの小説での農奴が成り上がったように、この時代になっていれば、もはやそういう差別どころじゃなかっただろうから、そう見ていいだろう。つまりロシア・ソ連人の誕生による経済成長。戦争での2000万人の死、粛清で血の入れ替わり。既得権益が一定ベースで保存されない。風通しのいい社会が出来たことにあったのではないだろうか?
 つまり意図せずして、戦争が絶え間なく起こっていたからこそ、戦死さらに粛清を通じて、経済で言えば倒産の効果と同じく、新しい組織が絶え間なく形成されていたことが、ソ連の成長を支えていたのではないだろうか*5。しかしドイツ以後、国民が犠牲になるような大戦が起こらなかった。粛清は必ずしも優秀な者を生き残らせるものではない。内ゲバに近いところがあり、マイナス・負の要素が大きい。この粛清と戦争が経済成長に大きく影響していたという要素を指摘しておきたい
 もしアメリカでもドイツでも日本でも、実戦ということになっていたら、、逆にソ連・ロシアはうまくいった可能性が高い。真の問題は社会の硬直性にあるように思われる。*6

*1:―正確にはそう解釈しているということだろう

*2:米欧に不当な圧力をかけられているという被害者意識は強いのだろうが

*3: 

ルイ・ボナパルトのブリュメール18日―初版 (平凡社ライブラリー)

ルイ・ボナパルトのブリュメール18日―初版 (平凡社ライブラリー)

 
ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日 (岩波文庫 白 124-7)

ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日 (岩波文庫 白 124-7)

 

 

*4:少子化対策に成功しているロシアの話などを聞くと、この見方も改める必要があるのかもしれません…

*5:これについては正負両面があって、一概にプラスだマイナスだと断定できないことは言うまでもない。あくまで滅多に指摘されることのないプラスの側面を書いたということに注意していただきたい。当然、これが許されるべきかどうかの価値判断はまた別の話

*6:―と書いてはいるものの、機能不全を起こしているロシア社会を再建するようなカリスマが出てこないと、またそういう指導者を支える集団が出てこないと無理だしな…。これはちょっと違うかな。社会の硬直性の問題というのはあるだろうけど。なんだろうなぁ、スターリンが機能的に粛清をして軍の掌握を図るのは必然とか、もっと面白い話書けるのに、すごい適当な事書いてるな、これ(^ ^;)。本当に次回にちゃんと繋がる前フリになっているのか?