てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

日本いまだ近代国家に非ず―メモ程度に

日本いまだ近代国家に非ずー国民のための法と政治と民主主義ー/小室 直樹

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を、メモ程度に書きましょうかね。本書は『田中角栄の遺言』の再販なわけです。いわゆる時節に応じた本なわけですね。博士はそういう本多いですね。栗林中将とか、『中国共産党帝国の崩壊』も、天安門事件以後の緊急出版的なものがありますしね。だからこそ、『資本主義中国の挑戦―孔子と近代経済学の大ゲンカ』と内容が被っている章があったりもするんですよね。その後の『小室直樹の中国原論』のようなこの本で初めて語るというオリジナリティが多少薄くなっています。そして中国はインフレ&アノミーでもう持たないね。って言っているのにその後の説明はない。まあ、己は説明することが一応出来ますけど、イチャモンつけてくるアホがいますから、論理上別に矛盾しないとはいえ説明しておいた方がよかったと思うんですがね。それに博士の中国論・中国観といいますか、三国志演義を応用したり、ちょっと変なロジックというか不適切な応用・類推・アナロジーが多いんですね。まあ歴史学の前提がアレですし、そうなっても仕方ないという点もあるんですけども。ソビエト崩壊後、予言的中!なんてこともあって、じゃんじゃんソ連・ロシアの本も出しましたしね~。
 まあ、そんなことはさておいて、本著はまさに「田中角栄が死んで、民主主義の原則が働くことがなくなった」=民主主義が死んだということを説明する本です。

 デモクラシーを守るには金がかかる!デモクラシーさえ守ることが出来ればどんなコストさえいとわない!これこそdemocracies民主主義諸国の考える基本的前提、エッセンス。ところが日本人には水と平和はたダダと思っているように、民主主義もタダだと思い込んだ。だから金権政治許せぬ!とばかりに、民主主義政治家の申し子田中角栄を葬ってしまった。これにて、日本政治は民主主義政治とともに終わりを告げ、役人が三権一手に掌握する簒奪を成し遂げて、役人クラシー国家となりましたとさ。
 まあ、わかりやすく全体主義国家でいいと思うんですけどね。財務省のトップ、過去の事務次官上皇となって、「治天の君」とかで君臨するなら話が早いのに、誰がこの国を支配しているか意味不明な状態。まさに摂政・関白・上皇・執権・管領とうじゃうじゃ政治最高責任者が乱立する戦国時代以前と同じですね。自分達の利権を壟断する官僚・マスコミ・裁判所が戦国大名となって利権の城から領土を支配するわけですね。いや、徳川幕府に近いんでしょうかね?宮崎市定教授が徳川幕府を封建体制をとっているのは異常だと。変態的封建制と評価していましたけど、日本は治世には変態的封建制を採らざるを得ないのかもしれません。
 戻って要するに日本人は守るべきデモクラシーということがまるでわかっていないから、民主主義に、憲法に民主主義をモデルとする近代国家の前提がまるで理解できていないから、こういうあほな事になる。常識を知らないから平気であほなミスを犯す、間違いを繰り返すというわけです。賛同するにしろ、しないにしろ、まずモデルの前提・発想の前提を知らなくてはならないわけです。そういう意味で格好の基本材料を提供するのが博士の真骨頂でしょう。
 田中角栄が死んでなぜ民主主義が死んだか?それは彼が議会を有効活用したからですね。国権の最高機関は議会。浜田国松にせよ、斉藤・尾崎にせよ、議会でその言論を以って政治を動かしました。議会における言論活動こそが民主主義政治の原点・基本原則ですね。裏を返せば議会が有効に機能しなければ、民主主義政治は滅ぶんですね。言論を以ってして権威が天を衝いた桂内閣を瓦解させ、平民宰相を誕生させ、大正デモクラシーとなったのはまさに議会の力、言論の力そのものでした。戦前のデモクラシーは立派に機能していた。まあ南京陥落で一気にムードに浮かれて戦争万歳に走ってしまうわけですけど。
 角栄議員立法の権化、官僚操作の権化。役人をいかに使うかということを知り尽くしていた。日本に必要な法案は彼が一陣笠議員のときに作った。その恐るべき先見性を以ってして、法案作成能力・立法能力を以ってして、彼は今太閤という権力の頂点に上り詰めたのであった。
 角栄が政治の表舞台から消えて一体日本の国会はどうなったか?役人の言いなりになって、国会で自由討論は消え、政治家が自己の意を以ってして政治を動かすことが出来なくなった。官僚を操作し、政治家が戦略を以って国政を動かすことがなくなった。これこそまさに民主主義政治の死、そのものである。
 パンがなければお菓子をたべればいいじゃない。政治家がダメなら官僚が政治をやればいいじゃないというアホが稀によくいますが、官僚は運命の奴隷である。マックス・ウェーバーが言うように「最高の官僚は、最低の政治家」。政治に携わっているんだから同じでしょ?なんていまだにゲーム機全般をファミコンとか言ってしまうお母さんのような感覚でいてはいけない。わかりやすく言えば、ピッチャーと他ポジションのバッターを一括しておんなじ野球選手というようなものだろう。どんなプロ球団でも投手と野手を強制的に入れ替えさせれば、甲子園優勝チームにも勝てないだろう。役割が絶対的に違うことを認識しなければならない。
 さらに官僚は天下りという自己権限肥大化、自己の権力増大に執念を燃やす生き物である。そんな生き物に政治を委ねたらどうなるか、あれよあれよという間に国政・国の財は利権で食い尽くされてしまうに決まっているではないか。そして官僚は自己の分野にだけ精通し、そのほかのこと、全体の大きな方針には全く無関心である。そんな専門化された職人に何が出来るか?あえていうならタイヤ作りの世界チャンピオンに、トヨタの経営を任せるようなものだろう。世界一のタイヤは作れても企業運営など出来るわけないではないか。
 政治家は運命を操るのが仕事、政治学とは畢竟をいかに変化する、常なき世に対処するかということであるといっても過言ではない。それが全くわかっていないから、平気で官僚の言いなりにホイホイなってしまう。

 角栄のような有能な議員を殺したあと一体、日本の政治はどうなったか?言うまでもなく、官僚によって日本の国家はむしゃぶりつくされて息絶える寸前ではないか?たかが5億のような端金にこだわって、500兆にもなる日本経済を殺してしまった。なんと馬鹿馬鹿しいことこの上ない。政治、社会には独特の法則・ルールがある。それは個人・市井の論理、社会法則と全く違う独自の社会法則が存在する。それを理解せずに、自分達の庶民の目線でなどというたわけたこととを抜かして、社会階層上、上位にある者を殺してしまった。優れたリーダーを引き摺り下ろしてしまった。ソクラテスを葬り去ったアテネのように、最強の海賊白ひげが破れるきっかけが身内の裏切りだったように、どんな優れた個人だろうが組織だろうが外の力には勝てても、内の愚かさにはどうしようもない。特に日本のように政治家、首相を平気でバカにするようではどうしようもないでしょう。リーダー・才能あるものは社会の財産、どんなことをしても増やすことの出来ないかけがえのない財産。それを理解しない日本人・日本社会はおんなじことを何度でも繰り返すのでしょう。

 いちいち言うまでもなく、以前『日本の1984年』にチラと触れましたが、その著書にあるように、日本の行動様式、田中角栄を巡る言論の異常性。全体主義のニューマ。報道界の腐蝕。民主主義国家ならば守るべき最低限のルールも守らない日本社会の異常性について博士は何度警鐘を鳴らしました。そのルールを守らなければ、社会が簡単に暴走してしまうと、そこを止めるのがメディア・裁判所。そうしなければ国がたやすく権力の暴走を許す前近代国家になるんだと。アレほど説明したのに…。まさに巻末に書いてあるように「日本人に理解できるのかな」lと博士が嘆くのもむべなるかな。

 最後のあたりの章では田中角栄裁判がいかに民主主義国における裁判として異常な裁判であったかを説明しています。法的にどこにも正統性がない嘱託尋問を裁判所が認めてしまうという世にも奇妙な、奇妙奇天烈な振る舞い。さらには反対尋問が許されないというおよそ裁判の何たるかを理解しない振る舞い。裁判所がコイツは反省しているのか?という態度で被告を裁くと言いますが、まさにお前は有罪だと、けしからん、懲らしめてくれるという態度で、何も考えずに巨悪を裁くなんて自分に酔っているからこういうことになるのでしょう。遠山の金さん気取りの大ばか者ですね。

 もしこのときメディアが民主主義下の裁判というもの、なんとしても冤罪を作り出さないんだということを理解して、田中角栄はあくどいがそれは許されない!冤罪の温床となるからダメだ!と警告すれば、冤罪大国といわれるような悲惨な裁判状況を作らなかったのに。日本の報道は冤罪作りの共謀者です。共謀罪で逮捕しましょう。

 最後の田中角栄死して、デモクラシー死んだ。日本の憲法は有効性を失い、事実上死んだという。小室学の傑作・白眉はこの時点で発表されたものだったんですねぇ。小室直樹の日本再生の、社会病因を鋭く抉ったのは
日本人のための憲法原論/小室 直樹

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痛快!憲法学 (痛快!シリーズ)/小室 直樹

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これなんで、こちらを読んだ方がいいかもしれません。というかこれを読まずして何を読むと?という本ですね。もう日本社会を知る上での古典といっていいでしょう。憲法原論は再販ですね。痛快の方は縦長なんで読みにくいかもしれません。
日本国憲法の問題点/小室 直樹

¥1,470 Amazon.co.jp
こっちはその続編といって良い本。ものすごい面白いのでぜひ読んでください。

 あとついでにアマゾンレヴューでバカなやついますねぇ。イスラム教原論でキリスト教を中傷している!とか、すべては憲法に問題があると言っているから、「すべて」なんてのは言いすぎだとか、憲法原論でもキリスト教賛美だなんてあるし…。スタンスが自己の政治主張表明に過ぎないとか。あのねぇ…本なんてのは筆者が伝えたい論理・モデルを提供するに過ぎないのに…、お前の意見と違うから酷評しているだけじゃねぇか(笑)。

 なんですか?カレーを論じますと、そのなかで野菜の切り方の話をしているのに、それは正しいきり方ではないとか、一工程段階に過ぎないのに、いやこういうきり方は適切ではないとか、イチイチ突っ込まないと気がすまないんですか?その続きも読まずにムキーっとなっている。全体のロジックを売り物にしているのに、その主義主張に賛同できなくても、まずはそのロジックを正確に理解しなかったら何も言えるはずがない。どういうロジックを踏んでいるのか、中継地点を踏んできたのかということを無視して、自分の都合だけで論じている。ここのこの論はこうだろう!とか。全て自分の意見と一言一句合わなければ、本は失格になるのか?アホでしょ。大学行ってしっかり本の読み方一から学んで来い。

 アメリカの逆襲のレヴューで巨艦大砲主義なんて意味ないじゃん。なんでそんな戦艦作れなんていうの?なんて書いてありますからね…。あのねぇ、当時はその戦艦こそ戦力そのものだと思われていたから、それを作って誇示したら、絶対に勝てないと向こうは考えるでしょ?そうしたら相手ははじめから多少の紛争・権益は日本に譲ってでも戦争を避けたいと考えるに決まっているでしょう。もちろんその後の戦争で巨艦大砲主義はその言葉が熟語になるように無意味だと戦術上の革新で初めて明らかになったんだから、何の矛盾もないでしょうに。理解できていないやつに限って、へんな感想を言うからたちが悪いですねぇ…。

 しかし議会が形骸化してしまい、役人がすき放題暴れまわるリヴァイアサン状態になっても危機・警鐘を訴えない日本のマスゴミとは一体なんなのでしょうね。

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