てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。

世界を変えたいなら一度”武器”を捨ててしまおう

世界を変えたいなら一度”武器”を捨ててしまおう/フォレスト出版

¥1,470 Amazon.co.jp

 日本人には戦略・アイデンティティがない―それが日本を国際社会で迷走させている原因。国際社会で生き残るためにはこれが欠かせない。これを導き出すために本書はかかれた。よくある戦略と戦術の違いに始まり、日本人は技術=戦術レベルでは優れているが、戦略レベルではそれがない、見えてこない。これが現在の低迷の要因。

 欧米は植民地・資本家という思想土台があるから、いかに効率よく人民・資本を利用して利益を上げるかという戦略的思考がある。しかし、日本にはそういった土壌がない。戦略のために基本ルール作り=グローバルスタンダードを自らの手で作ることが世界では重視される。そういう発想が日本には乏しい。

 ルールを自ら作り出すのが苦手であり、決められたルールに従うというのが、日本人の特性であるとはよく言われますね。んで日本の下士官は戦場での対応能力が最高だとも。欧米は宗教&歴史観でビジョン・ミッションがあるが、日本にはない。そういうものをしっかりもった人材こそが日本に求められている。

 目先の戦術・スキルに拘らずに、戦略・ビジョンを持つようにしよう!と言いたいわけです。今持っているスキル=武器から離れて一から戦略を考えよ!んで、それがタイトルの『武器を捨ててしまおう』になるわけですが…。うーん、タイトルがキャッチーじゃないなぁ。ぱっと見で読み手のハートを鷲掴みするような分かりやすさ、インパクトがないのはもったいないなぁ

 ウォルツのMan,the State, Warを上げて、「戦争は何故起こるか」というテーマで書かれた彼の政治哲学分析を論じます。ウォルツは過去の原因分析を調べた結果、戦争の要因を論述する本はどれも全て原因が3つのタイプに分けられて論じられていると説きます。個人か、特定の組織(ナチスなど)か、大きな世界環境か、この3つだと。

 戦争の要因はすべて、環境(特定の国家関係という小さい背景もあり)、組織、人間性のそれをもって説明されるのですね。まあ実際の分析は必ずしもどれか一つに絞ったものだけではなく、複合的に論じる物が多いでしょうけどね。そういう複合的な視点がなければ優れた分析にはなりませんしね。この観点からそれぞれ要因を分析しているかとチェックすれば、その本の出来不出来を判別する上でかなり有益なので、覚えてかれるといいかと思います

 んで、これをビジネスにも応用出来ると。自分、組織、世界―3つのカテゴリで外に行けば行くほど当然抽象度が高くなる。成功してきた人はこの抽象度が高い人だと。

 成功してきた人の特徴は、一社員の頃から自分がもし経営者だったら―という思考をしている、イメージ度・抽象的な思考をする能力が高い人間。であるから成功したければそういう癖をつけろ、戦略的思考(抽象的思考)をせよ!というわけですね。世界を変える人は組織を変える人、組織を変える人は自分を変える人だと。

 優れた人間でないと世界の範囲まで到底及ばない。ナポレオンなどは自分を変えることで、組織→世界を変えるということを強烈にイメージしていた。自分→組織→世界というプランを立てていた人。成功する人は稀ですが、いずれにせよ自分を変えなくては成功もクソないわけですから、どう自分を変えるかを人は考えなくてはいけない。

 成功する人は、成功に対して他人が・運が・タイミングが良かったとして、自分を成功の理由に置かない。逆に失敗を必ず自分の要因だと見つめて、自分を変える人間。すべての現象を自分の責任だと引き受ける人間こそ成功する―これは至言ですね。

 クラウゼビッツは政策・戦略・戦術の三段階で論じました。戦争は政治の延長で、目的を達成するためにある。ならば戦争の前に政治で決着がつけられるから政治>戦争という位置づけ、概念整理を行ったわけですね。さらにエドワード・ルトワックが『アメリカンドリームの終焉』で詳しく五段階で論じました。

 大戦略・戦域・作戦・戦術・技術、さらに氏の師コリン・グレイ教授はその上に二つ世界観・政策といったレベルを設けて論じたと(あと戦域を軍事戦略としているのが違いますが)。論理を深める上では面白い概念ですが、実際に応用する人、読者には微妙ですね。大戦略・戦略・戦術3つあれば十分かと思います

 で、一番上の世界観が大事だと。上に行けば行くほど抽象度が高くなり、下に行くほど具体性tangibleが強まる。仕事も同じ、経営者になって上に行けば行くほど抽象度が高まっていく。で世の成功本をピラミッドのどこにあるのか、今の自分はどの階層にいてどの思考をすべきかが重要だと。

 無形の価値、抽象度が高いブランド・デザインのほうが重要になる。具体性が強い技術にこだわってはならない。そういったものにこだわっているがゆえに日本企業は世界で通用しない。ソニーヤマハもヴィジョンをしっかり持っていた。ソニーはライフスタイルをヴィジョンとして提示し、ヤマハはピアノ普及のピアノ教室戦術に落としこんでいった。大きな戦略の発想があった。

 欧米はハードで勝てないからソフトで勝つという方向にシフトし始めた。鯨=野蛮とか、慰安婦などのマイナスイメージは、ビジョン・政策レベルでイメージを崩そうといった発想だろうと。スキルが通用しなくなれば、抽象能力、人を使うことが求められる。目先のTOEICスコアより将来の戦略が重要。

 英のテストは論述試験だからそもそもカンニングが出来ない。自分の言葉で説得方法を考えなくてはいけないから。仏の大学入試にセーヌ川で自殺しようとしている娼婦に生きるように説得しろという問題があったらしい。ディベート・プレゼンもそもそも抽象能力=現実の説得能力を試すもの。こりゃ日本は勝てんわな。

 日本の試験も論述試験にディベート・プレゼンに変えない限り、世界に通用する人材など育ちようがないでしょうね。まさに目先の具体的な数値、細かい能力にとらわれている典型ですよね、日本の採用システムって。面接なんて本来、現実の応用能力、いかに培った学力を発揮できるかという観点から見るものだろうに。それを試せない日本の面接って意味あるのかね?きちんと測れている気がしないが

 世界観は死生観でもある。かつての日本人は強烈な世界観を持っていた。詩歌というのは抽象度がものすごい高い。人間成長すれば、文学はこちらが多くの者に触れるに連れ、慣れて感動しなくなるが、短歌など最小限の言葉で表現するものはスパっと感動を伝えるためにその凄みがわかるようになる。到底太刀打ち出来ない世界だと年をとっても感動する。なるほどね。

 JCワイリー著『戦略の原点』には順次戦略累積戦略という概念がある。前者は数値化された戦略、東京まであと何キロで東京に達すれば米は戦争で勝つといったもの。後者は日本の輸送船を撃ち落とすというもの(国際法違反だが)。それでいつかは分からないが、そうすることで確実にいつか日本が組織を動かせなくなる、機能不全に陥る

 目には見えなくても、いつか必ず目標が達成されるというタイプの戦略が蓄積戦略。見えない戦略であり、ある一点に達するまでは効果は見えないが、達成されると一気に効果が出てきて表面化される。ボクシングのボディブローのようなもの。

 ビジネス本で矛盾するものが時たまある。目標を人に話せ!or話すな!と人によって矛盾するものがあるのは、筆者によってそれを順次戦略と捉えているか累積戦略と捉えているか違っているので真逆の立論になっている。累積戦略は環境と習慣がキーワード。型のように積み重ねで、ある日ブレークスルーするもの。だから基本は見せないものになる。

 バブル時代の俺の目をじっと見ろ、そして俺に任せろというのは累積戦略の発想。日本には順次戦略の発想がなかったこともあって、最近売れているものは順次戦略を説いているものが主体。が古典的にヒットするもの、ベスト&ロングセラーはこの順次戦略と累積戦略両方をうまくミックスしたものが多い。

 累積戦略は殆ど信仰・宗教に近い形になる。だから大社長が成功した後も新聞配達を続けるといったことになる。時にはわざわざ車で移動して金を払って損してまでやる。それをすることで自分の力になるという信念に基づいているから=修行、精神鍛錬ですね。創発・閃きはこの累積なくしてありえない。両方の戦略がうまく絡み合って物事は成功する。

 オレンジ計画には順次戦略と累積戦略の両方あった。うーん順次はあるけど、累積あるかな?輸送船のことを指していっているのか?あれは例えであって、もっと抽象度の高いヴィジョン、信仰みたいな信念・思想、戦略の基本発想となる原点のようなものでないと当てはまらないような?成功の要諦は柔軟であれ、冷静であれ、選択肢をもてか。戦略・大局観を持つ重要性を指摘して本書は終了します。

 読んでてもっと改善点がある。もったいないなって気がしましたね。二回読みましたが、一度目は繰り返しが多くイライラして、あんまりスッキリしない。なんかちょっと違うなぁ?という違和感を感じながら読みました。だけど、二回目は構成がわかったので、ふむふむと納得して読めました。普通の人は二回読まない、そういった点でちょっとわかりづらい、スッキリした構成にすべきだったのかなと思いました。

 いわゆる自己啓発本のたぐいに分類されるのでしょうか?本書は。タイトル、文章、ほんの作りなどがそういったライトな感じをもたらしていますので、サラリーマンなど、もっと本読んでスキルを!キャリアアップを!というビジネスマンがターゲットのような気がします。

 しかし、それならばそういった層にもっと絞り込んだ、あなたでも出来る!教から実践する〇〇戦略!みたいなものを書いたほうが良かったのでは?経営者になるようなトップの階層の人間は抽象度の高いものを欲するのでしょうけど、そういった人は必然的に少数しかいませんからね。あえてもっと低い層、キャリアアップを望む大衆に絞り込むべきだったのではないか?という感想をいだきました。

 ノウハウを求める人は具体的にこれをすべき!こうすべし!というわかりやすいものを求めますから、そういった具体例を提供してあげればよかったのかな?という感想を持ちました。

 戦略・戦術、そういった観点を持つ氏にとってこの本はどういった戦略上書かれたのかということも気になりましたね。この本は戦略レベルで書かれた本だったのか、それとも戦術レベルだったのか。氏のキャリアの中でどういった位置づけに置かれる本なのか、それも気になりました。