てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

国際秩序とナチスの扱いについての話


 小ネタの時は物足りないからもう一本セットにするといういつものアレでもう一本。ナチスの虐殺が国際法で「事後法」の形で裁かれたのに対し、タスマニアだったか?英がオセアニアで虐殺を完遂したのにも関わらずそのことが裁かれなかったことについて。

 例えば英米でもインディアン・原住民の虐殺をやっているわけですよね。しかしその虐殺の非道性は明らかなのにもかかわらず、国際法で裁かれない。国際政治でそのことに対する謝罪・賠償、何らかの総括が必要なのにもかかわらずそれがなされていないことについてのコメントを若干書いておきたいと思います。

 ナチスの場合は、虐殺は虐殺でもかなり特殊なケースといえるわけです。社会ダーウィニズム・優生思想的な発想によって行われたものであり、当然これまでも虐殺という行為に偏見が作用したからこそ起こったものなのですが、ナチスのそれは少し違います。というのも大抵虐殺は戦争遂行上の目的がそこにある。そこまでひどいことをする必要性はなかったのに軽率な対応・配慮で虐殺を行った!非道行為をした!というケースも多々ありますが、一応背景に戦争遂行上の目的が探せるわけですね。合理的といえばちょっと語弊があるのですけど、そこに一応の理由・背景を探すことが出来るわけです。

 しかし、ナチスの場合そうではない。そこに理由を探しだすことが出来ない。例えばユダヤ人が今でいうテロリストのように放っておけば、テロをドンドン行って、戦略に支障が出る。任務遂行が出来なくなる。そのリスクがあるからこそ、先手を打って虐殺!とかならそれが正しい正しくないは別としてまだわからなくもないわけです。

 ですが、どう考えてもそんなものはないわけですね。ナチスプロパガンダとしてそういう説明があったかもしれませんが、どう考えてもユダヤ人が団結して国家転覆とかそんなことありえませんからね。むしろそういうことを信じるようになった背景こそがポイントといえるかもしれませんが、とにかく本来行う必要のない虐殺を行なわれたからこそ問題であると言えます。戦争犯罪を交戦中に起こる犯罪とするならば、戦争と本来関係のない虐殺なので特別な意味合いがあると言えます。

 ケースによって異なるのでしょうけど、国家間同志の戦争や民族同士の紛争は、基本的にアクターが対等だと思うのですね。ナチスのケースは明らかに国家VS民族とアクターが対等でないし、そこにテロのような危険性もなかったですからね。アクター(主体)が対等ではないということも一つのポイントでしょう。これでもし国家VS民族の図式で民族を倒したら、死活的利益を確保できた。国家の危急存亡の秋を乗り切ることが出来たとかならまた話は違うんでしょうが。

 んで、何故南米大陸や豪などで起こった非道行為はナチスの非道行為のように取り扱われないのか?ナチスだけ扱いが大きいのかということなのですが、ナチスがアウトで、南米・豪がセーフというわけではないのは当然のことなのですが、ナチス以外のそういった非道行為というのは現状の国際秩序にとって深刻な挑戦・課題というわけではないことだと思います。

 例えば、ルワンダ虐殺などが被害が拡大してしまったというのはそこに死活的な利害がなかったから放置された、そこまで関心が高まらなかったと言えます。現行国際秩序、大国の死活的利害に関わらなければ放置されやすいというのが現状の国際秩序ですからね。今でもself-helpが国際法の基本ですし。もしこれが丁度今のウクライナのような欧州にとってより身近な国であればまた違ったでしょう。そのウクライナでさえ今欧州からそこまで力を入れられていないのであんまりいい例えじゃないですが…。

 当時の列強、大国のウチの一つにナチス政権が成立する。内においてはジェノサイド、外に対しては侵略戦争で国際秩序に挑戦をする。対外戦争は既存のルールの延長ですから、それについてはともかく、国内・支配領域におけるジェノサイドの遂行というのは明らかに既存秩序にはなかった蛮行。それがアフリカやアジアと言った欧州とは関係のない地域で起こるならともかく、欧州という国際政治のメインランドでそれが起こってしまった。それがポイントなんでしょうね。

 国際法・国際政治上、その現行秩序を維持する・安定化させるということに主眼が置かれている。まず重視されるのは現行秩序の維持・安定なわけですね。ですから、ナチスのケースはそれを破綻させかねない、根本的に国際法体系・国際秩序を破壊させる危険性があったが故に、特に注目されている。今でも関心が高いということなのでしょう。もしナチスが再び欧州内に現れれば欧州どころか世界秩序が大きく損なわれますからね。

 ですから、「二度とそれを起こさないぞ」という関心の度合いが違うんですよね。あとじゃあ、英米の過去の虐殺・非道行為はスルーなのか!?ってのが上がってくると思いますが、その国際法・国際秩序の主体として覇権を握ってきた国は、その責任者であるがゆえに罪を免れるという性質は確かにあると思います。彼ら抜きの世界というのはありえませんからね。彼らのパワーあっての国際秩序ですから。

 大東亜戦争じゃないですけど、まさに英米本位の秩序ですね。パーティー主催者の特権と言えましょうか。敵の敵は味方のように、現行秩序の担い手だから自分達の罪は知らんぷり、責任を取らないという卑怯な態度が大きくなれば大きくなるほど、ネオナチのような過去にその秩序の主催者に挑戦した、脅かしてあと一歩というところまで言った国・勢力を支持する力が働くことになりますね。日本の例で言うと、現行社会へ不満がある故にその否定を掲げるオウム真理教に惹かれるってところでしょうか。今でも結構信者がいるわけでしょう?それってまあ、つまりはそういうことですよね。

 英米のそういう非道行為の責任についてどう対応するかというのは現国際法・国際秩序の質・透明性を高める上で一つのポイントになるのは間違いないでしょう。国際法の上に覇権国家がある状況ですからね、今。国際法の下に覇権国家がこないとアカンに決まってますからね。