てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

春名幹男著 『米中冷戦と日本』①

米中冷戦と日本 激化するインテリジェンス戦争の内幕/PHP研究所

全四回の感動ロマン長巨編になってしまいました…。以下、続編→春名幹男著 『米中冷戦と日本』②
 p4、保守系シンクタンクヘリテージ財団について。石原氏が尖閣諸島国有化を発表したことで一躍有名になったが、最近は事情が違う。中国系アメリカ人の女性政治家、エレーン・チャオ氏が一九九三年、ヘリテージ財団特別研究員となってから様相が一変。ブッシュ(父)政権で運輸副長官、平和部隊長官などを務めたが、大統領選での敗戦で下野。実は、米国のシンクタンクで最も重要な仕事は寄付金集めで、チャオ氏は中国本土で寄付金集めに動いた。父が上海交通大学江沢民と同級生だったコネでヘリテージ財団へチャイナマネーが流入するようになる。
 これまではアジアからの寄付金は台湾や韓国からが中心だった。 しかし、中国からも金が入るようになると、財団はそれまで中国の世界貿易機関WTO) 加盟に対して「反対」だったのが、突然「賛成」に変わった。そんな経緯をリベラル系ジャーナリスト、ジョン・ジュデイス氏がザ・ニュー・リパブリ ック誌で「汚れたヘリテージと題する記事で明らかにした。 チャオ氏はその後、ブッシュ(子)政権で労働長官に。夫は共和党の大物、ミッチ・マコネル上院院内総務。

 p28、尖閣諸島の最終的な主権問題について米国は一定の立場をとっていなかった。領有権を主張する関係国の間で、平和的手段で解決されることを期待するという立場。しかし一九六〇年の日米安保条約第五条は日本の施政権下にある領域に適用される―というところまでは従来通りの方針だが、そこから先の尖閣諸島への安保条約の適用については言及しなくなった。適用されるかと質問されたら、答えるというふうに変わった。
 麻生太郎自民党政権時代のことだが、当時の河村建夫官房長官は米国の見解は変わっていない」と発表していた。気づかなかったのか、明らかに不利な状況に置かれることになったので、あえて変更を確認しなかったのかは明らかではない(あるいは中国への配慮という観点から賛同したのか?)。
 オバマ政権発足後の金融危機で中国の協力を取り付けたいため、中国を「刺激しないよう配慮した」と、匿名の関係筋は共同通信に指摘している。つまり、対中融和策であり、聞かれたら答えるというトーンで確実に適用されるかわからなくなったわけだ(日米安保の条文自体だと、確か尖閣とかは日本が独力で守るようにも読めたはずだから不確実性があったはず)。

 p32、ところが10年のハワイでの外相会談(前原=クリントン)において、クリントンは従来のそれに戻す。適用されると会談の最初の方で明言した。日米中の三国で平和的に解決しようと会談を提案。これに怒った中国側は、ベトナムでの菅=温会談の実現を阻む。米は前原を好ましい政治家と考えており、明らかに彼にサービスした(ひょっとしたら前原の日中密約を否定して、漁船を逮捕し送検したというケースは、尖閣に対する米の外交姿勢の変化を自分の外交的成果と考えており、それを守るためだったのかもしれないですね。または自分には米が付いているという自信故、自分がトップであるかぎり、米は尖閣について守ってくれるからこれを機会に更に既成事実を積み重ねる。尖閣で結果を出した、前原!って形にしたかったのかもしれませんね。彼の外交姿勢は評価できませんが、そういった米をバックに実力を発揮した人物を献金云々で失脚する政治・社会環境ってのはどうなんですかね?自民党は米に好かれてる彼にヤキモチ焼いたんですかねぇ…。まあいずれにせよ、前原さんにせよ、石原さんにせよ公的な政治権力、適切なルートを辿って力を発揮するのではなく、独断でやることについては変わらないですね。なんで首相=トップの責任者を通さないのか、ちょっと理解できませんね。P37くらいに日中密約の話が出てきますし、当時の事務次官はストップかけたりしなかったんですかね?普通大反対しそうなものですけどね。そこら辺が伝わってこないということは何らかのパイプで米の有力者の了解・支援があったってことなんでしょうか?)。
 そもそも米に血を流してまで尖閣諸島を軍事的に防衛する準備はない。『エコノミスト』誌は二〇一二年九月に来日したレオン・パネッタ米国防長官に同行した米政府高官が、アメリカはこんな「岩(のような島)をめぐって」戦争するなんてことを考えていない、と『ワシントン・ポスト』紙の同行記者に漏らしていたことを報じた。そりゃアメリカからすると、アホくさいですよね。なんでこんな沿岸で、重要性のよくわからない戦争をしなくちゃならないんだって気になるでしょう。ただ、それと実際に安保条約を適用しないかはまた別の問題だと思いますけどね。

 p36、沖縄返還時に台湾の主張により、尖閣諸島の帰属が問題となり、尖閣諸島については日本帰属とすることになったことが当時のニクソン政権の文章を読めばわかる。

 p56、竹村健一さんも言ってましたけど、エコノミストが雑誌世界のスタンダードってのはどうですかね?個人的にあんまりおもしろい記事あるって気がしないんですけどね。そんなにまだ読んでないからかもしれないですけど。まあ、所詮元新聞なんでね、あれですけど。前にも書きましたけど、引くに引けなくなるような不確実性、潜在的リスクはたしかにありますが、今の中国が虎視眈々と尖閣狙って戦争しかけるような政権、また環境にないですからね。
 尖閣を巡って日中衝突みたいなのもこの雑誌エコノミストの影響があるんでしょうか?むしろ変に話題にしてしまって、中国のメンツに火を付けかねないような…。逆効果な気がするんですけどねぇ…。
 でこのエコノミストの記事を受けてオバマ政権が動いて、一二年十月下旬、安全保障が専門の四人アーミテージ元国務副長官、ブッシュ前政権の国家安全保障問題担当補佐官スティーブン・ハドリー、ジョセフ・ナイ氏、前国務副長官ジエームズ・スタインバーグ前二人が共和党であと二人が民主党日中に派遣したと。

 p58、セブンシスターズの七社に代わって今、石油埋蔵量の八〇%を握るのは、サウジアラビア、ロシア、中国、イラン、ブラジル、マレーシア、ベネズエラ七カ国の国営石油会社。

 p67、アメリカは中国に対しては「ヘッジ」と「エンゲージメント」という二つのカードを常に持っていて、時と場合によって使い分けてきた。ヘッジとは元々「垣根」の意味で、少し距離を置いて、警戒し、危険があれば抑止する、という意味。エンゲージメントとは前向きに取り組む、ということだ。「包容政策」とも呼ばれる。
 ブッシュ前政権時代の二人目の国務副長官でロバート・ゼーリック氏の「責任ある利害共有国」stakeholderから、オバマ政権には、更にそれを進めた中国に世界的な責任の一端を負わせる、米中「G2体制」の話もあったが、〇九年にジェームズ・スタインバーグ国務副長官が「戦略的再保証」Strategic Reassurance、という中国の台頭を歓迎しながら、周辺国との安定を求める既存の延長を打ち出していた。
 しかし、二〇一〇年に入ると、こうした控えめな対応が影を潜めていった。同年二月に発表された米国の「四年ごとの国防戦略見直し(QDR2010)」報告書は、中国の軍備拡張に警鐘を鳴らし、財政緊縮下で、①特殊部隊、②無人偵察機、③サイバー戦能力の向上を図る方針を示した。ここで統合エアシーバトル構想が始まったと。

 p70、パネッタ国防長官が米海軍力の配備比率を太平洋50大西洋50から、太平洋60大西洋40に変更すると明言。またパネッタ長官は、森本敏防衛相と、敵ミサイルを正確に追尾できる米軍の「Xバンドレーダー」の日本への追加配備に向けて調整を進めることで合意。前述の尖閣諸島情勢の深刻化を受けた来日のなかで行われ、当然欧米メディアはレーダー追加配備計画にくいついたが、日本メディアは食いつかなかったと。脅威は北朝鮮弾道ミサイルだとしているが、中国のミサイルを想定したレーダー。北は一九九八年以来、三回連続で長距離ミサイル発射実験に失敗しているため脅威足り得ないのは明らか。

 p72、エアシーバトル構想は伝説的な戦略家、アンドルー・マーシャル氏が発案した戦略。ニクソン以来、ずっと歴代政権で純粋評価室長を務め、「軍事技術革命」などで、多くの論議を巻き起こしたと。RMAはともかく、このエアシーバトル構想ってどうですかね?既存の戦術の延長でしかないと思うんですが、違うんでしょうか?どこに革新性があるのかよくわからないんですけどね。ずーっと前からこういう空&海を総合的に使って対中国に取り組むべきだと言われていたと思うんですが…。中国が狙う第一列島線第二列島線とかね

 p80、CSBAの「エアシーバトル」報告書では日本側に求める支援事項として、次のような点を列挙している。
・特定の基地の設備を強固にし、滑走路の修理を迅速に行う能力を高め、地下深くあるいは山中に主要な作戦基地を設置する。
・陸上、海上の防空・ミサイル防衛システムを統合する
・日本の防空・ミサイル防衛施設を増強する
・第四世代戦闘機の在庫を拡充し、第五世代戦闘機を調達する
・対潜能力の拡大
琉球諸島の地理的優位性を利用し、米海軍と協力しで対潜作戦を立案する

 p82、軍事戦略的に中国が必ずしも合理的な武器調達を続けてきたとは言えない。米政府関係者は、「中国が米海軍の空母の戦力投入に気をとられている」と言う。まず、対艦弾道ミサイル「東風21D」の研究開発がそうだ。射程約一八〇〇~二八〇〇キロ。空母に対して発射し、撃沈することを目的としている。しかし、航行中の空母は移動しており、弾道ミサイルは、移動した目標に応じて誘導できないため、命中精度は高いとは言えない。米国もかつて開発を検討したが中止した経緯がある、いわく付きのミサイルなのだ。結局は、地上目標に対する地対地中距離ミサイルとして使われる結果になるかもしれない。
 もう一つは、二〇一二年九月に正式配備された中国初の空母「遼寧」である。ウクライナから購入した空母「ワリャーク」を改修したもので、全長約三〇五メートル、総排水量約六万七〇〇〇トン。約四〇機の戦闘機を搭載できる。艦載機の発着訓練などは現在実施中で、巡洋艦駆逐艦、原潜などを含めた空母戦闘群としての本格運用には、さらに五~六年を要する、と見られている。空母一隻では防御が極めて弱い。
 空母保有は「中国の悲願だった」と言われるが、この「遼寧」には多くの弱点がある。第一点は、カタパルトがないため、大量の爆弾・ミサイルを搭載し、燃料も大量に積んだ艦載機を離陸させられず、機動力が大幅に落ちることだ、と軍事専門家は言う。第二点は、空母戦闘群は全部で三、四群は必要と言われ、効果的運用を図ることができるまでには、なお二十年近くを要するとみられている。
 いずれも、領土問題がある東シナ海、ないしは南シナ海への配備が考えられ東アジア配備の場合はA2/ADへの使用も考えられるが、効果的運用には、まだまだ相当の年数を必要とするだろう。
 実は有事には、空母よりも戦略爆撃機B‐2や潜水艦発射巡航ミサイルSLCM)などのほうがよほど重要だが、中国をミスリードして対艦弾道ミサイルや空母の方に導くという手もある。

 p84、「統合エアシーバトル構想」(JASBC)は、公式的には、まだ二〇一〇年の「四年ごとの国防戦略見直し(QDR)」報告書に記載されただけの段階。米国家安全保障会議(NSC)で執行が決定されたわけではない。
 この構想から排除された形の海兵隊や陸軍は「金がかかる構想」などと批判し、政府内どころか、軍部内でも構想を推進できるかどうか、一致した意見はない。普天間基地云々あって、海兵隊VS海・空軍の図式は日本にとって利用したいところといえるんでしょうかね
 しかし、統合エアシーバトル構想は、前述したように、部分的には動き出している。沖縄では、海兵隊普天間飛行場の日本への返還は一九九六年の決定から十六年経ってもまだ実行されていないが、この問題とは切り離した形で、海兵隊の再編計画が二〇一二年にまとまった。それによると、海兵隊普天間、グアム、そして新たに二五〇〇人規模の海兵隊基地が建設されるオーストラリア・ダーウィンの三カ所の基地で、ローテーションの形で運用されることになった。
 これも事実上、統合エアシーバトル構想の狙いに沿った再編だったと言える。普天間飛行場も中国軍ミサイルの射程内に収められているため、海兵隊を分散配備することになったのであろう。しかし、海兵隊自体はエアシーバトル構想を実行する主体にはなっていない。中国の短距離ミサイルで全滅させられる沖縄に海兵隊、基地を置いとく意味は無いような気がしますが、辺野古の必要性はあるのでしょうか…
 オーストラリアでは、このほかインド洋に浮かぶココス島を米軍に貸与する計画も持ち上がっていると言われる。さらに、実現可能性は少ないが、フイリピンも米軍基地の再誘致を希望しており、米政府は何らかの形でのプレゼンスを検討中だ。フィリピン再誘致の流れを日本としても推し進めていきたいですよねぇ
 この結果、米軍から見れば、日本から東南アジアを経てオーストラリアに至るまで、中国側から見れば、東部から南東部、さらに南部にかけて、米軍に包囲される形となる。
 
 p86、海兵隊は自らの将来をオスプレイ配備にかけていると伝えられる。大統領選挙の年に、あえて海兵隊が抱える微妙な政治的問題に、オバマは口を挟まなかった。
 米政府内では、沖縄県民が言うように普天間基地が危険だとは考えていない。普天間の危険度は福岡の板付基地と同じ程度という声がある。福岡空港に併設され、米軍も不定期で利用している航空自衛隊板付基地と同じ程度の危険度だということは深刻な問題とは考えていないということ。
 しかし、それと同時に「純軍事的には普天間は不要」という意見も米政府内には強い。朝鮮半島有事でも、必要なのは「エアカバー」、つまり嘉手納基地の米空軍戦力だというのだ。ただ、次の二つの理由から、米海兵隊普天間から撤退しないのだという。撤退すれば、「心理的に」北朝鮮や中国に誤ったシグナル、すなわち米軍の防衛コミットメントの後退と受け取られる恐れがあること。そして海兵隊の政治力が強く、米議会でも海兵隊の撤退といった議論がしにくいということ。つまりこの二点を抑えないと基地問題の外交交渉は出来ないということですね。つうかミサイル射程距離であり、遠くからでも短時間で海兵隊が運用できるようになった現代においてそれはないと思うんだけどなぁ…。というか合理的な理由はないですよね、そこに

 p92、二〇一〇年三月上旬、中国の戴秉国国務委員は、訪中したジェームズ・スタインバーグ米国務副長官らに対して、南シナ海が「核心的利益」に属するとの新方針を初めて正式に通告。これまでの中国の「核心的利益」は、台湾とチベット、新彊ウイグルの両自治区だった。それに南シナ海を加えてきた形。
 対して二〇一〇年七月、ハノイでの東南アジア諸国連合ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議でクリントン国務長官は「南シナ海の領有権紛争の解決は米国の国益だ」と言った。紛争解決について協調的な外交プロセス、多国間協議の提案と武力の使用や威嚇に反対を表明。米・ASEAN諸国は一緒になって、南シナ海の「自由航行」の保証を求めたが、中国は「二国間問題」としてで個別解決すべきと米国に反対。―まあいつもの図式ですね。


 例のごとく、長いので分割します。Pagedown15回が限度かなと。本当は10回で区切りたかったんですがそうすると4つくらいに分割しなきゃならんので。10回位が文量として読みやすい範囲かと思ったんでそうしたかったんですけどね、残念。
続き→春名幹男著 『米中冷戦と日本』②