てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

フォーリン・アフェアーズ・リポート 2012/3

フォーリン・アフェアーズ・リポート2012年3月10日発売号/フォーリン・アフェアーズ・ジャパン

 なんか、もう触れる記事がドンドン減っていくので、一応書くことありそうなものだけ取り上げます。

石油も石炭も原子力も必要としない世界 ― 超素材と「インテグレーティブ・デザイン」の力 /アモリー・B・ロビンス
 インテグレーティブ・デザインという新しい構造を取り入れることでエネルギー効率が倍になる。これでエネルギー消費がぐっと減ると。成功したら面白い話なんでしょうけど、未だに話題になっていないところを見るとまだまだ実用化しないということなんでしょうか。再生エネルギーだけでまかなえるようになる!石油も原子力もさいしょっから要らんかったんや!みたいな感じの話ですけど、どうですかね?


イラン危機による原油市場の混乱を管理するには /ロバート・マクナリー
 イラン危機で戦争・空爆イスラエルのイランへの攻撃などの色々なパターンを論じています。イランの石油が入らなくなるし、ルートを通じた中央アジアの石油も当然ストップ。何より周辺諸国に戦火が拡大すれば安定供給が脅かされる。イランのホルムズ海峡封鎖などが起こった場合などを色々シミュレートしていますね。そうなった場合、原油の上昇がどれくらいで、世界への安定供給のためにはどのくらいの期間で事態を抑えないといけないとか、どのくらいの供給は確保できるのとか。まあ、要するにイランに対しては短期間で戦争を終わらせて安定供給を確保しなくてはいけないという大きな課題があるということですね。


シリアを擁護するロシアの立場― 宗派間抗争と中東の地政学
/ドミトリ・トレーニン

 ソビエトアメリカ、イスラエルその他の「帝国主義勢力」と対峙していた冷戦期、シリアはモスクワの同盟国だった。バッシャールの父ハフェズ・アサドの時代、ソビエトはシリア軍に装備と訓練を与えてきた。クレムリンからより多くの援助を引き出そうとするハフェズ・アサドは扱いにくかったが、エジプトのアンワール・サダトのように、ワシントンに寝返る恐れはなかった。特に、1973年の第4次中東戦争イスラエルに手痛い敗北を喫したエジプトがアメリカの調停を受け入れて以降、ソビエトはシリアのことを冷戦終了まで中東における中核拠点とみなすようになった。
 だが、ソビエト崩壊後のロシアは中東を地政学的に重視しなくなった。1972年、サダトは、ソビエトとの政治的決別に備えて、約2万人のソビエトの軍事顧間とその関係者に帰国を要請した。ムバラク政権が倒れた時もハルガダやシャルムエルシェイクのなどエジプトの都市で約4万人のロシア人が行き場を失ったがほとんどは観光客だった。ソビエトが軍事力により強い関係を築いてきた面影は最早影も形もない。
 シリアもそう。両国の関係が維持されたのは、ロシアの意向というよりシリアが軍備を必要とし、アサドがアメリカを信用しなかったから。現在も、ロシアがシリアにおいて限定的ながらも明確な経済利益をもっているのは事実。ダマスカスは、戦車から航空機、対空防衛システムにいたるまでのさまざま兵器をロシアから購入している。
 しかし、ロシアにとってシリアヘの武器売却は重要なわけでも魅力的なわけでもない。武器購入資金としてクレジットを提供しなければならなかったし、ソビエト期の数兆ドル規模のシリアの債務を帳消しにすることも合意しなければならなかった。
 2010年にダマスカスを訪問したロシアのメドベージェフ大統領は、シリアに原子炉を作ることを提案したが、結局、何も進展していない。モスクワはシリアのタルタスに燃料補給施設を保有しているが、一カ月ほど前に、ロシア海軍保有する唯一の空母が北極海から地中海に航海した際にこの港に寄港して以来、動きはない。むしろ、両国が共有する利益は、ロシアの軍高官、兵器トレーダー、外交官とアサド政権の高官たちの個人的なつながりによってささえられているとみるべきだろうと。

 ロシアは中東に対して確固たる戦略姿勢を持っているわけではない。しかしアメリカの今の戦略に同調できなくなっている。勝ち馬に乗って見返りをもらおうという姿勢ではなくなってきている。アメリカのシリアやイランへの戦略に懐疑的になって、警戒しているものの、確固たる戦略方針があるわけではないと。


サウジはアラブの春とイラン問題をどうとらえているか /グレゴリー・ゴース
 サウジにアラブの春が及ばない理由。産油国であり米欧の支持があること、政府のネットワークの力、反体制で団結して政府に向かってくるという可能性が乏しいことの3つが考えられる。サウド家はネットワークを構築している。皇太子が分担して部族やビジネスコミュニティを担当している。これで部族のパワーが抑えこまれている。宗教指導者・地方指導者・知識人もこのネットワークの中。
 アブドラ国王からナエフ皇太子の継承はともかく、初代イブン・サウド国王の子から孫の世代への権力移行というのは歴史的に先例がなく中期的に複雑な展開になる。
 エジプトでの選挙で超保守のサラフィ派のヌール党の台頭はサウジにも影響がある。サウジ政府は自分たちこそ真のイスラム、サラフィ派を代弁していると主張することで正当性を保ってきたから。サラフィ派がサウジの宗教指導者に体制の基盤を委ねることもありうる。当然サウジがその声に応えるとは限らないが。
 冷戦以後米とサウジは全てに足並みを揃えているわけではない。が、スンニVSシーアの宗派対立を煽らないというのは共通している。得をするのはアルカイダのような過激派だから。そのためシーア派イラクともっと接触する必要がある。湾岸とレバノン以外でシーア派の影響力は限られているのだからそこまで神経質になる必要はない。宗派対立→アラブVSペルシャ→イランの核武装でサウジも!が最悪の展開と。
 イブン・サウドの孫は非常に多い、有能な人から無能な浪費家・過激思想に米欧の高級街での生活が快適と考える人と様々。誰もが自分こそがサウジを支配すべきと考え、我々の改革に相応しいアイデアを持つ人物はいない。
 サウジからサラフィ派に資金が流れているというより、エジプトのサラフィ派がネットワークを持ってサウジから資金を引き出しているという形。エジプトに手を突っ込もうとしている感じではない。
 ナエフは改革派ではないが、アブドラの政治を覆すようなことはない。次世代の指導者の時代には議会導入か?クウェートのように体制は大きな問題に直面する。ナエフ時代が終われば民主化の方向に行く。
 サウジの外交イニシアティブは全て失敗している。レバノンでハリリを支持したが、暗殺され結局ヒズボラが政権を掌握。パレスチナに対してもイランとハマスの繋がりを断ち切ろうとしてハマスファタハを和解させようとしたがこれも上手くいかなかった。唯一の新しい展開は重視するバーレーンに軍隊を送り込んだこと。
 サウジはシリアを見限っており、ポストアサド政権のツールも確保していると考えている。選挙なくしてアサド後は安定しないだろう。カタールは一握りの指導者によって占められており、目立つことをしたがっている。それをサウジが厄介視している可能性ももちろんある。



アウンサンスーチーと軍の現実主義が支えるミャンマーの変化 /ジョシュア・クランジック
 アウンサンスーチーは(年齢故か?)最後のチャンスと考えて協力姿勢になっている。軍部を裁かないという示唆。選挙勝利→軍部を弾圧というのでは軍部は絶対に権力を手放さない。むしろ妥協して罪を問わないことで前に進めるべきでしょうね。筆者は東ティモール方式で責任を取らせるやり方もあると言いますが、手打ちを再優先して未来の可能性を重視すべきかと思います。これは北も同じですね。
 皮肉にも欧米とのネットワークが絶たれ中国との関係が強まったことで反中志向に。軍高官の多くが若い将校の時に、60~70年代にビルマ共産党と戦った記憶があるため。


本当はもう一冊一緒に上げる予定でしたが、時間が足りなくなったので断念。連続して更新しているのをと切らせちゃうとまた、もういっかー状態になってしまいそうなのでこれだけで。意外と文量多くなったし。