てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。

世界が注目するインドの軍備市場とアメリカのジレンマ

書くの忘れてたフォーリン・アフェアーズのやつです。

世界が注目するインドの軍備市場とアメリカのジレンマ

 スニール・ダスグプタ/ステファン・P・コーヘン ブルッキングス研究所

 2010年11月、オバマ大統領の訪印。インドの国連安保理常任理事国入りを支持すると表明した裏にあるインド軍備市場。ボーイング社のC―17輸送機やゼネラル・エレクトリック社のF―414戦闘機を含む、50億ドル規模の軍備契約がなされたとみられている。これによりロシア、イスラエルと並んでインドの最大武器供給国となった。インドは今後10年間で1000億ドル規模の最新兵器を調達する計画を持っている。

 2005年ブッシュのNPT体制に触れるにもかかわらず、民生用原子力開発への支援を約束し、米印原子力協定を結んだこと。この中・パの反対もはねつけたインドのブッシュへの信任は大きく高まった。インドに要請してパキスタンとの緊張緩和を求め、カシミールの安定化に協力する。その動きを受けてパキスタンは、タリバーン掃討作戦に従事させるために軍隊を東から西、アフガン国境付近へ移動。

 同年、インド政府はカシミール問題の永続的な妥結を目指して、パキスタンとの秘密交渉するまでに。が、これは2008年8月にパキスタンムシャラフ政権が倒れ、しかも同11月にムンバイ同時多発テロが起きたため、交渉は中断している。

 だが、後任のオバマ政権はブッシュ政権はインドに譲歩しすぎたとみて、インド路線見直しを図っている。インドへの特別待遇への見返りとして、アメリカのエネルギー・貿易政策を支持すること、アフガニスタンパキスタンでアメリカの行動の自由すること、米軍需企業との調達契約などを求めた。今後も急速にインドとの関係を強化するのではなく、段階的にすべきと考えている。最優先課題は、あくまでアフガニスタンパキスタンの安定化。

 インドとの関係強化は当然パキスタンの懸念を招き、インドに対する対抗戦力の増強をはかる。2005年以降、パキスタンはミサイル関連物資の生産を強化し、核起爆装置を水面下で増産し、ミサイル戦力を増強している。

 

 インドは逆にアメリカはパキスタンに肩入れしているとみなすようになり、パキスタンアフガニスタン安定化への関与を深めれば深めるほど、カブールはパキスタンの愧儡政権と化していくと警戒した。

 結局、2年間の努力は徒労に終わり、アフガニスタン情勢を改善するにはインドとの関係を刷新することが重要であることを浮き彫りにしただけだった。結局インドにかなり優遇措置を認めない限りはインドの本当の強力を取り付けることは難しいだろう(NPTの核レジームを逸脱してまで民生協定を結んだのにダメだったのは妥当なのだろうか?合意を取り付けられそうだったムシャラフ政権崩壊が相当大きかったということなのか?)

 これまでインドの武器はロシアが主なものだった。ロシア製は安く、アメリカのように兵器の最終用途監視合意を求めることもなく、自国の外交政策を支持することも要求しなかったため、外交や軍事輸出に制約がなかった。

 1965年の印パ戦争の際にワシントンが武器供給を打ち切った不信感もある。一方、ロシアは核技術の扱いについても緩やかで、2010年にはインドにロシアの原子力潜水艦をそっくりそのままリースしたほど。ロシアの軍需産業は、インド軍およびその研究機関である防衛研究開発機構(DRDO)と密接な関係にあり、この関係は冷戦期にまでさかのぼることができる。

 例えば、2006年にDRDOとロシアの軍需企業は「ブラモス」を共同開発している。これは、ロシアのミサイル推進技術と、インドにとってもっとも成功した軍事技術研究の成果である精密誘導技術を融合した超音速巡航ミサイルだ。ロシア製兵器は欧米製の兵器に比べて質的に見劣りするが、コスト面での魅力は大きかった。

 しかし、急激な経済成長を遂げた結果、国防予算が潤沢になると、インド軍は、戦車や軍艦、軍用機などの伝統的兵器だけでなく、無人航空機やサイバー戦争に使われる最新兵器への関心を高めるようになった。さらに2010年にロシアが空母ゴルシコフの値段を10億ドルから23億ドルヘと釣り上げて以降、ロシアとの関係はこじれ、しだいにインドはイスラエルや欧米からの兵器調達に依存するようになった。

 イスラエルは、サイバー戦争技術や精密誘導兵器などの先端兵器を求めるインドの要望の一部に応えた。ロシア同様に、イスラエルもインドに兵器貿易の見返りとしての自国の外交政策への支持を求めることはない。さらに、イスラエルの軍需企業もロシアの企業同様、DRDOにハイテク兵器の共同開発計画を持ちかけている。

 欧米の軍需企業もインドとの兵器貿易にはこれまで以上に積極的になっている。2004年、イギリスの軍需企業BAEシステムズはインド空軍に高性能のジエット練習機を供給する契約を受注することに成功した。さらにインドは2007年にはアメリカからトレントン級ドック型輸送揚陸艦を5000万ドルで調達している。ボーイング社は2009年に200億ドルで8機の海上哨戒機の調達契約を受注し、 ロッキード・マーチン社も10億ドルで6機のC―130J輸送機の受注に成功している。最近オバマ大統領が進めているC―17とF―414戦闘機の輸出を合わせれば、いまやアメリカはインドにとつてもっとも重要な兵器サプライヤーに浮上しつつある。

 現在インドの軍備市場をめぐって注目されているのは、インドが100億ドルから120億ドルをかけて調達する予定の126機の多目的戦闘機の契約をどの国が勝ち取るか。今のところボーイング社のF―18スーパーホーネットロッキード・マーチン社のF―16、あるいはヨーロッパの企業3社によって共同開発されたユーロファイター・タイフーン、フランス製のラファエル、スウェーデン製のグリペン、ロシア製のMiG―35などが名乗りを上げている。

 ソビエトが1960年代に最初のMiG戦闘機の売却したから長期的な兵器貿易関係を構築したように、この契約を勝ち取った国は、将来の契約にも大きな優位を手にする。それらの戦闘機がインドで使用される限り、そのメンテナンスやサポートを一手に引き受けることになるからだ。もしこの契約が米企業に与えられれば、米印関係の絆をになる。

 米兵器の技術に魅力はあっても、軍事目的での技術移転を禁じるアメリカの法律が障害になる。一方、インドの指導者は、「米企業、あるいはアメリカに拠点を持つ米系軍需企業から兵器を購入した場合には、その兵器の製造過程や技術へのアクセスも認められるべきだ」と主張している。これもまた大きなハードル。

 ここで譲歩してもインドから望むべき対応が引き出されるという確証もない。加えて、インドとの軍事関係を過度に深化させれば、パキスタン関係、つまりアフガニスタンが危うくなるという懸念もある。アメリカの兵器を調達したインド軍が、それを用いてパキスタン軍と対峙すれば事態はややこしくなる。インドの軍備市場に進出して利益を確保したい米軍需企業も、その宝である技術をインド軍と共有することには前向きではない。

 すでに米印両国は軍事貿易を拡大するために政策面での譲歩をともに始めているが、まだ十分とは言えない。2009年、インド政府は、インドが調達した兵器をアメリカのチームが定期的に調査することを認める最終用途監視合意に調印。オバマは11月の訪印の際、輸出管理策の一部を撤廃するとともに、インドの宇宙研究機関、軍事開発機関に関わる貿易規制の一部を解除すると表明した。

 それでも、大きな障害が残されている。例えば、インドは不備の多い調達制度を改善しなければならない。近年、インド国防省は一連の軍事調達制度のガイドラインを公表してきたが、透明性や法的基盤が不透明な上に、汚職が調達プロセスを蝕んでいる。

 インドの法律は、外国のサプライヤーに対して部品の生産を国内企業に発注し、インドでの研究開発に投資するように求め、国内で100%の子会社を持つことやインド企業の株式の半数以上を取得することを禁止している。これらの法律や規制の狙いは、外国のサプライヤーが製品に用いている技術が最終的にインドヘと移転されるようにすること。しかし、技術移転に関するアメリカの法律が緩和され、インドが知的所有権の保護を約束しない限り、アメリカ企業がインドの要求を受け入れることはないだろう。

 さらに2011年8月にインド議会が成立させた新しい原子力責任法も、米印の兵器貿易の流れを大きく阻害することになるだろう。この法律では、原子力発電所が建設されてから100年間にわたって、原発事故の責任をサプライヤーが負うことを義務づけている。この法律は、サプライヤーが現地にプレゼンスを持っているといないとに関わらず、原子炉施設の機器を提供したサプライヤー、原子炉の建設を請け負ったコントラクターに適用される。当然、米企業はそうした責任を引き受けるのを回避して、自らを守ろうとするため、米印原子力協定のもとで合意されたいかなる原子炉建設計画もなかなか先には進まないだろう(へぇ、インド自ら原子力協定を事実上停止させる立法をしてしまったんですねぇ。興味深いですね)。

 インドは国の発展にとって技術が重要だとみているが、一方で、ワシントンは、インドの軍備増強を懸念しているパキスタンにもうまく対処していく必要もある。したがって、米企業はインドとの共同技術開発に関与しつつも、その結果がでるのが10年~20年先になるプロジェクトに関与を限定すべきだろう。そうした長期的なプロジェクトに限定すれば、米企業も技術移転に関する規制を回避できる。まだ存在しない技術であれば、それを保護する規定も存在しないからだ。

 但し、126機の多目的航空機の導入計画を受注できれば、別の大きな機会を手にできるのも事実。米企業は、インドの軍備市場に大きな足場を築けるだけでなく、その収益のなかでインドヘの再投資を義務づけられている分を、共同開発プロジエクトに注ぎ込むこともできるようになる。

 すでに、GE、マイクロソフトその他の米企業は、洗練された研究開発センターをインドで運営している。米軍需企業にとっても、インド企業をパートナーにして新技術を開発するのが、理屈からみても次のステップになるはずだ。

 だが、これまでのところ、オバマ政権は、このような大きな見取り図のなかでものを考えてはいないようだ。共同技術開発を真剣に検討しているわけでもない。このような態度は間違っている。短期的な立場の違いが、冷戦期に米印両国を離反させた。現状で似たような離反が生じることが、米印双方の長期的利益に合致しないのは明らかだろう。