フォーリン・アフェアーズ・リポート 2013/04
資本主義の危機と社会保障― どこに均衡を見いだすか
/ジェリー・Z・ミューラー
資本主義誕生の歴史とその問題について自説が述べられているが、個人的には「それで?」という感じ。拾うものなし。
<特集 イラク戦争の教訓>
/スタンリー・マクリスタル
新しい軍事オペレーションについて現地で指揮を取った人のレポですね。急襲作戦で20人必要なら120人用意するのが普通だったが、今ではその20人で作戦を遂行できる。マスコミが考えるような司令官が誰に変わって有利・不利になるといった劇的な変化はない。07年のブッシュの増派は活動を向上させた。
武装勢力が成功を収めるには聖地と戦場のアクセスの2つが必要。アフガンではパキスタンの国境封鎖が出来なかった。つまりそのアクセスを断てない状況であると。そして現地の正統政府に支持を受ける必要性がある。タリバン政権が人気があったわけではないが、代替政権も同じだった。現地の支持なしでは武装勢力掃討は成功しないといういい教訓。
現代の戦闘で米が負けるのは考えにくい、テロの根源の武装勢力とその能力で上回るのは言うまでもない。相手武装勢力を根絶する事こそ「勝利」。その条件達成のためには現地の支持・人気が必要不可欠という第一公理からやらなければ永遠に「テロとの戦い」を続けることになるでしょうね。それを無視してたとえ根絶に成功したとしても、親米政府が転覆すればまた武装勢力が支配する政権が出来るだけですし。
通常部隊や文民組織との協力・統合という話が出てきますが、まさに米民間人による現地人との交流・相互理解こそ「勝利」の鍵になるわけです。そもそもそれができたら銃がいらないわけです。銃の前に何があるか考えよ、人間は心がある!心を使え、銃を使うな!といったところでしょうか。
秘密作戦は短期的には絶大な効果を上げるが、長期的な解決策には成り得ない。イラクでのこの成功を万能薬とみなすことは非常に危険だと。かなりわかっていますね。さすが現地で体を張ってきた司令官だけありますね。
イラク戦争という間違った選択
/リチャード・ハース
WMDがあると思っていた&解放勢力として歓迎を受け、民主勢力に権力を委ねれば安定化に時間はかからないと政府は考えていた。CIAはその後の混乱について
驚くほど正確な予測を立てていたがそれは受け入れられなかった。言い訳してますけど、要するにアホアホだったということですね。まあ今更ですか。
<特集 東アジア・リスクを検証する>
ケビン・ラッドが語る北朝鮮危機、日中対立、アジア重視戦略と中国
前豪首相のインタビューです。習近平は開放的で国際協力にもオープンという、?という評価が書いてあります。まあ国内事情で出来ないというのがあるので、習近平自体がデビュー前に開放的な意見を持って対外要人と対談していてもおかしくはないですがね。
南シナ海・東シナ海の担当部署の統合。これまでは警察であれ、漁業監視であれ、密輸であれ部署が多すぎた。これでコントロール可能?トップがそういう人になれば安定もありえますが、そういうトップになる情勢がくるでしょうか?
領土問題で日本と合意・安定化したいという意欲はトップに有る。ただうまい解決策を思いつかずモヤモヤしているという感じと。
今後10年の優先課題トップ5に間違いなくエネルギー安全保障が入っている。
中国が日本との戦争を望まない理由
/アレン・カールソン コーネル大准 短いので判別難しいがほとんど己の意見と変わらない。○な人かと専門も東ア&中国とまともですし。
尖閣(魚釣)を巡って日中衝突は時間の問題と思われたが、起こらなかった。ブルッキングス研究所のローリー・メッドカーフは北の核実験が起こってそちらが最優先課題になったため、衝突は緩和されたとしている。しかし中国には紛争を起こしている余裕が無いという理由のほうが重い。仮に現実に紛争になっても敗れるとは考えていない、これはインドの領土紛争でも同じ。だが勝っても、経済成長とナショナリズム激化を抑えるという2つの目的が達成できなくなるおそれがあるゆえに、まず決断はない。
戦死者=殉教=反日運動=中南海へのデモとなり、選択肢の幅を失わせるリスクが有る。
習近平が軍事手段による権力確保、中央の想像以上の機能不全でそういう判断を下すリスクは無論ある。しかしそれがもたらす結果がわからないアホではないだろう。不安定な平和状態が続くというのが現状。静かに棚上げしていくしかない。
アジア重視戦略が高めた軍事衝突リスク
/マイケル・クレア
短すぎ、ピボット戦略と資源の話で米(東ア)VS中みたいな既知な話なのでなんともいえないところ。
習近平の中国にどう対応すべきか
エリザベス・エコノミー、チェン・リ、エドワード・N・ラトワック
5VS4の常務委員会のバランスが今度は2VS7(2VS5)というアンバランスな状態。太子党の江沢民系が突出している。よって習近平に政治改革は出来ない、経済改革で人気をつかむしかないからその点は期待できると。習近平の期待は強く、改革派は彼を鄧小平と見て保守派は彼を毛沢東と見ている。でチェン・リ氏は、習近平は蒋経国になって政治改革を行うと。ホントかよ?という感じですが…。エリザベスさんが党に対する信頼感を集めるため、党の再生のためで、政治改革に興味はないという意見に同意ですね。
60ページに誤植というか「の」だけが強調表示されているのは何なんでしょうかね…。
<特集 自由貿易構想と不正貿易>
/ジェフリー・スコット
不法貿易というアメリカの暗い過去―米経済を支えた密輸と知的所有権の侵害
/ピーター・アンドレアス
面白いので別枠。
イタリアの政治的混迷と欧州民主主義の危機
/ジョナサン・ホプキン
イタリアの選挙について。欧州政治についてわからないのでなんとも言えませんが、5つ星運動のグリッロが行った伝統的な政治キャンペーンの否定、インターネットと国民投票による直接的な代議制にもっていくというもの。政治家・公共セクター職員の給与値下げ
と政党助成金の廃止。これらは緊縮財政廃止だけでなく、伝統的な政党システムの拒絶でもあり、このような伝統的な政治への拒否反応は欧州各国にありうることだと。/ジェフ・トルフソン
例の環境問題の話です。REDDプログラム森林により二酸化炭素排出を抑制する。途上国の森林保護に先進国がお金を払うというもの。ブラジルでルラ大統領が、先進国こそ先に環境問題に取り組め!という流れがあるにも関わらず環境保護に率先して取り組んだというのがちょっと興味深い話でしょうか。
軍事国家イスラエルの政治・社会構造― なぜ外交よりも、軍事行動が優先されるのか /アルフ・ベン
別枠、もしそんなたいして書くことがなければ、こっちに追記します。ここで書きました→
軍事国家イスラエルの政治社会・構造
内戦から宗派間紛争へ― 国家解体へと向かうシリア
/モナ・ヤコービアン
短いやつですね、これも。シリアでアサド政権は一定の範囲内で長期間にわたって影響力を持つだろうと。
プーチン・ドクトリン
/レオン・アーロン 目新しい物はないがポイントは抑えている人かな。
ソ連のような超大国もしくは地域覇権国として君臨することをアイデンティティとしている。
核の超大国としての地位の維持。故にNATO欧州ミサイル防衛がロシア相手のものでなかろうと反対してきた。核関連技術輸出を維持するために核の超大国の地位を維持する必要があると考えている。
2015年へのユーラシア連合にまとめていくこと。旧ソ連国のフィンランド化、外交権を奪うこともそこに含まれる。
「包囲された要塞」というビジョン。天然資源を狙ってロシアの領土を奪おうとしている!という例の自分たちの住む文化の中心以外は悪=病原菌だらけという思考法ですね。自分たちの住む聖域を侵そうとしてくる外敵というイメージでしょうね。
ロシアの市民の動き・変化があるという話など、まあ、これまでの話と同じですね。ロシアの進化を制御できるという「奢り」と何も出来ないという「諦め」の中間を選ぶべきと。