てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

 

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

 

 報ステでロレッタナポリオーニさん観て思ったこと―でチラリと書きましたが、読んだのでそのメモを。まあ要旨というか、この本の喰いつくメイン所、ポイントはもう書いたので個人的な気になったポイント、感想ですね。

 

 中東に蔓延する不正・腐敗、弾圧下でISISは希望になっている。巧妙な情報操作でバグダディの神秘家に成功。預言者が彼の内部に宿っていると信じられていると。テロを非合法なもの、戦術としての犯罪と扱ってきた。故に公式な「敵」と扱われていなかった。が、もし彼らが「国家」を作った場合、正式な「敵」として対処しなくてはならない。その認識の変化があるか?

 

 今の米欧サイドには、ISIS然り、中東諸国への無知・無理解があって、それが外交上の失敗をもたらしている―そのような認識が著書に通底してあると思われます。今の現状の変化を正確に見極めなければ、そしてそれに対応した新戦略を打ち出さなければ…という著者の提言は非常に重要だと思います。

 

 バグダディが組織を率いる前のリーダーはザルカウィでした。彼は米よりも、ヨルダンにおける真のイスラム国家樹立に目標を置いていました。よってビンラディンの誘いを断って、イラクへ。ビンラディンイラクにおけるシーアVSスンニという宗派対立に乗り気ではなかったのを、ザルカウィが進めました。

 

 それは、そうしなければイラクナショナリズムが高まり、宗派の融和が進み、世俗勢力がイラク政治・社会の主体となる。そうなれば、自分たちジハード主義勢力が中心になれないと考えたからです。現状のISISの躍進を見ればザルカウィの戦略は誠に理にかなったものだっということが出来るでしょう。

 

 宗派対立を煽るために目をつけたのが、隣のシリアでした。シリアの内戦に介入してスンニとシーア派の宗派対立を煽る。そして国家をまたぐ支配圏を持つことで新しい「カリフ制国家」の再興というビジョンを人々に示したのです。苦しむ中東の人々に、それが魅力的なものだとPRすることに成功しました。

 

 ザルカウィの戦略は毛沢東のように、周辺から包囲して首都を孤立させるというもので、バグダッド・ベルトと呼ばれるものでした。06年そのベルトの大半を征服するも、07年米軍の増派にあって計画は頓挫します。しかし14年にそこから再びこの作戦を実行出来るまでにしたのがバグダディでした。

 

 不死鳥のように組織を蘇らせたバグダディ、彼の権威の一つがここにあります。収容施設に5年間囚われていたこと。その間おとなしかったことが、彼のリーダーとしての求心力は大したことないと過小評価する声がありますが、筆者はそれは違うと否定します。

 

 ザルカウィのように卑しい出自でなく、宗教的な家系に生まれて高等教育を受けている。神学を学んだリーダーは、ソのアフガン侵攻時代のアブドラ・アッザム以来。他アラブの独裁者のように個人権威を強調するものでもない。大事なのは神の教えで間違っていたら教えて欲しいという、これまでにないタイプであること。

 

 このような新しいリーダーが登場しているという事実、変化を正確に踏まえないと、ISISを中心とした今の情勢を見誤ってしまうのは言うまでもないでしょう。スパイ・密告のリスクを恐れずに新参者を歓迎すること、メディア戦術の巧さで組織を拡大、対外知名度を高めました。

 

 13年にシリアの「ヌスラ戦線」と合体して、現ISISがあるわけですが、この時アルカイダの統合反対を押しきって、独立することになります。ザルカウィもバグダディもアルカイダの言うことを聞かずに活躍しているというのを見ると、9.11時代からの構造の変化を読み取れるのではないでしょうか?

 

 著者は米欧諸国のイスラム国の誕生が予想できなかったという見通しを、PLOを例にあげて批判します。パレスチナはまさに偽装国家shell-state(経済的な独立を達成しながら、政治的な国家としての承認を得ていない状態)として成功を収めた。その前例があるのだから同じことは起こりうると予想できたはずだと言います。

 

 ISISにはシーア派系のイラン、ヒズボラ・アサド政権に対向する形で資金が流れ込みました。代理戦争としてスンニ派の支持を得た形で、サウジ・クウェートカタール資金を援助しました。14年のNATOでもクルド・トルコの有志連合での共闘はあっても、サウジ・カタールは不参加でした。

 

 シリア・イランの不参加は言うまでもありません。中東の構造上、頼りになる同盟国を見つけ出すこと、そして統制の取れた有志連合の形成が難しいこと。それを理解しないと中東での外交で成果があげられないことを理解できません。この認識の重要性を筆者は強調します。

 

 中東では誘拐はビジネスとして成立していると言います。誘拐された「商品」はあちこち転売されるものだと。そして代理戦争のスポンサーである国はその後ろめたさを払しょくするために気前よく身代金を払うのだと。我々の価値観とかけ離れた世界がそこにはありますね。

 

 バグダディは大国に利用される代理戦争の図式から脱するために、独立する重要性を理解していました。それが件の国家経営に繋がるわけですね。タリバンカーストの最上位のように君臨し、国を搾取した古いモデルだったが、ISISは地元の同意・経済利益を重視したというモデルの違いが強調されます。

 

 資金難がささやかれる今のISISがどうなっているのか気になるところですが、ISISの兵士はレンガ職人の月収よりもはるかに安い40ドル程度だといいます。信仰心で兵士がいくらでも補給できる構造があるとするならば、一度崩壊してもまた再び同じ組織が台頭するでしょうね。

 

 メディア戦術を重視するISISは残虐な処刑映像を好んで公開する。それがセンセーショナルに取り上げられることを理解している。絶好のPRになるので。事実、日本の大衆も人質殺害がなければ「イスラム国」とは?とならなかったでしょうからね。

 

 ネットなんかで真似するアホが出て不謹慎だとか、中学生が殺害される事件でISISの人質殺害を模倣したのか?とあるように認知度を上げる作戦なのでしょうね。無関心な人間を引きつけて、自分たちのことを記憶に植えつけるには、強い興味関心を抱かせるには残虐映像がいいと。ネットなんかでそういうのを好んで見る人がいるように、グロ画像で知名度を高める作戦というわけですね。

 

 ISISは「家族」をPRポイントにしている。兵士として活躍し、家庭を持ち慕われる「兄」や「父」になろうということを訴える。女性の拉致と強制結婚はローマ建国神話のサビニ族の逸話の論理がそこにはある。婚姻が進めば、サビニ族のように女性を通じた和議、血のつながりによる融和が可能になるという計算が働いていると。「家族」を築くことで、兵士の自己承認欲求を満たし、さらに周囲との秩序構築を可能にする一石二鳥の戦略というわけですね、女性の拉致と強制結婚は

 

 アメリカはイラク攻撃の理由としてザルカウィ神話をつくりあげた。いわく強力なスーパーテロリストがいると。これが却ってあだとなり、ザルカウィに支援が集まることになってしまった。予言の自己実現、同じことがISISにも起こりかねないと。

 

 現代版イスラムの「イスラエルを目指しているが、世界中のユダヤ人に参加を呼び掛けて、その参加が歓迎されたのに対し、シリアとイラクの現地人は外国人を歓迎してはいない。まあそりゃそうですね。もし「建国」達成しても、移住兵・外国人と現地人の軋轢は起こるでしょうね。軍のサマーキャンプ感覚で参加してくる若者がいるということですからねぇ…。

 

 MI6の長官曰く、最終的にはサウジ王室の打倒と新しい中東を作ること―とあるように、むしろメッカ・メディナという聖地解放のリスクこそ恐れるべきではないでしょうかね?兵士にとってシリア入国は神聖な聖地と戦いに参加するという宗教的体験になると。

 

 1994年にイスラエル・ヨルダン平和条約が結ばれる。ここにカリフ制国家の土地が含まれている故に、ヨルダン政府をひっくり返したい動機が出てくると。ヨルダンがこけたらイスラエルはますます不安定に陥るわけですな。

 

 シーア派への背教者宣告takfirをすることによって、支配地でシーア派の抹殺を行う。そもバグダディはアサド政権の打倒が目的ではなく、アラウィー派(シーア系)の抹殺が目的でシリア入りした。筆者はナチス的なものをそこに見出していますが、宗教対立なので少し違うような気がしますね。

 

 そもそもサウジアラビアのサウード王家にして、ワッハーブ運動・新宗派を興して、オスマン帝国に背教者宣告をして戦いを挑んでいった歴史があるわけで。中東では、血の論理と宗教の論理なくして、新しい改革運動が起こらないとみるべきでしょうか?そういう点でフセイン・ナセルは際立ってますね。

 

 有志連合によるイラク侵攻は、1258年のモンゴル・タタールバグダッド破壊と重ね合わせて見られている。イラクの前のアフガンは、ホラズム・シャー朝になぞらえられていると。そしてシリア・エジプトでモンゴルの波を止めたアイン・ジャールートの戦いがあったように、その再来を願っていると。

 

 繰り返しになりますが、スンニVSシーアの構図を作らないと、ジハード主義者がそこに参戦する余地がなくなる。手を組まれるとお払い箱になる。中東情勢を安定させるためには、ISISのような過激派を排除するためには宗派対立をさせないことを考えなくてはならないわけですね。イラクへの経済制裁フセインをスンニの不満を和らげるために宗派対立へ向かわせてしまった。女性労働の禁止など、彼らの宗教的要求に迎合させる方向へ進ませたと、つまり制裁は大失敗だったというわけですね。アホの一言です。

 

 結局この地域に働く力学・論理を正確に把握せずして、アホが外交やるからこうなるわけですね。言うまでもなくなんどでも同じ過ちを繰り返すでしょうね、米は。

 

 ※追記、サウジアラビア然り、イラン然り、宗教的動機から誕生して今に至るという国家があります。PLOはちと違いますが、宗教的狂信・テロを放棄して共存を選ぼうかな―という方向性になってきたのも似たものがあります。そもそもイスラエルにして、宗教的動機からの建国ですしね。イスラエルは未だに宗教的な右派が強いのも言われてみると当然の話ですよね、それが建国の動機なんですから。

 宗教的狂信から始まって、時間が経って後に現実的な路線が少しづつ増えていく―というロジックが中東にはあるので、ISISが後に現実的な国家路線を多少なりとも備えていくというのはありえなくはないでしょう。米英が武力で叩き潰す方針をとらない限りは。

 

 そういう風に見ると民主主義でコーティングしたキリスト教的宗教心で突っ込んできたアメリカのその中東的な国家として先祖返りしてきたと見えなくもないですね。国家誕生は宗教的動機が強くありますし、後退したとはいえ未だに宗教が政治に与える影響力が大きい国ですしね。