てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。

東地中海天然ガス資源と領有権論争

東地中海天然ガス資源と領有権論争

 シリア内戦と資源領有問題、そしてロシアとアメリカとプレイヤーが連関して考えられる、繋がった話が展開されるので面白いかなと。こんな長く書く予定だったかは、定かではないですが、一応メモっときました。

 タマルとリバイアサンという二つのガス田、双方を合計すると26兆立方フィートの天然ガスイスラエル天然ガス資源の40%がエジプトからだった(それも市場価格以下)。「アラブの春」以降、供給は乱れ始め、その後、供給契約そのものが失効してしまった。

 二つのガス田開発が進めば、イスラエルの電力需要を今後30年にわたって満たせる。またイスラエルがエネルギー輸出国になる可能性もある。

 レバノンとの排他的経済水域争いに、ヒズボラの攻撃宣言が加わって戦力の乏しいイスラエル海軍は苦しんでいる。ごく最近まで、イスラエル海軍の主要な任務は沿岸防衛と海洋からのガザ封鎖を維持することだった。

 沖合の海洋資源開発インフラを守るために、4隻の軍艦の調達計画が承認された。さらにキプロスとの協調の強化に向かっている。

 2010年、イスラエルキプロスは海洋境界線合意。この天然ガス開発ブームから大きな恩恵を受けられる。イスラエルからヨーロッパ市場への輸送ルートとして理想的な位置にあるし、リバイアサン・ガス田のそばに7兆立方フィートの資源を埋蔵すると言われるアフロディーテ・ガス田がある。

 この資源だけで国内の天然ガス需要を数十年にわたって確保できる。だが、この領有権を、当然島の北方に位置する北キプロス・トルコ共和国も主張している(キプロスは北のトルコ系と、南のギリシャ系で分かれている)。

 後ろ盾であるトルコは、キプロスが近隣諸国と境界線合意を結ぶことを認めていない。よって北キプロスはこの天然ガスの収益を共有できないのではないかと気をもんでいる。さらにトルコは、キプロスギリシャを経由する輸出ルートは、カスピ海中央アジアからトルコを経由したヨーロッパ市場への天然ガス輸送ルート(ナブツコ・パイプライン)に対する脅威になると警戒している。

 こうした思惑から、トルコはイスラエルキプロスの合意と協調に反対し、海洋境界線でイスラエルと対立しているレバノンの立場を支持している。キプロスに対する自国の立場をより明確にしようと、アンカラは、資源開発企業がキプロスの資源を掘削するタイミングに合わせて海軍の演習を計画し、領有権論争のある海域に自国の資源探索船を送り込み、北キプロスのためにアフロディーテ・ガス田の試掘を開始すると表明した(アフロディーテ・ガス田の一部がイスラエルの経済水域と重なっている)。

 こういう資源問題上の対立がある時に、2010年にガザ支援に向かっていた民間人が乗船するトルコの船をイスラエル軍が急襲し、犠牲者が出る事件が起きた(マヴィ・マルマラ号事件)。この事件以降、トルコは、東地中海における民間の船や商船の安全強化に(トルコ海軍はフリゲート艦、コルベット艦、潜水艦、高速攻撃艇、輸送艦艇、補給艦を含む200隻を擁し、地中海周辺で最大の海軍力をもつ)。

 エジプト、シリアという残された二つの地中海周辺諸国政府は、国内情勢に手一杯で余裕が無い。77兆立法フィートの資源をもつエジプトはアフリカで2番目に大きな天然ガス生産国(資源の80%はナイルデルタ地帯と地中海に集中的に分布している)。しかし、革命後の混乱で、資源供給はおぼつかない。

 シリア・キプロス排他的経済水域に関する合意が存在しないという現状は、将来における不安材料。特に、アサド政権後に親トルコの政権がシリアに誕生した場合はなおさら。

 リスクは短期的には低いが、偶発事件が紛争へとエスカレートしていく可能性はある。緊張を緩和するのはいくつかあるが、多国間の軍事演習をもっと拡大して定期的に実施するのがよい。だが、合同演習の機会は少なくなっている。トルコ軍は、NATOの演習には参加しているが、2009年以降、イスラエル軍との合同演習は実施していない。イスラエル海軍も、米軍との二度にわたる軍事演習を例外とすれば、2006年以降、大規模な多国間軍事演習に参加していない。レバノンキプロス、シリアの小規模な海軍となると、さらに孤立した状況にある。このような状況を解きほぐして多国間軍事演習を進めることが地域的緊張緩和のポイントと。

 そうなれば、東地中海同辺諸国は安定から大きな恩恵を引き出せる。しかし、交渉でそうした合意を形成する機会は失われつつある。2013年半ばに、開発された天然ガス資源が国内市場、国際市場に出回るようになれば、イスラエルキプロスは既成事実をバックに、交渉上の優位を手にする。この点を認識しているレバノン北キプロス、トルコは、仮に現状で合意を形成できても、イスラエルキプロスが合意を順守するとは考えなくなるだろう。

 こうした相互不信を乗り越えるためには強力な後ろ盾、調停および合意の強制が必要。ロシアがこの役割を担うのに意欲をみせている。世界の確認済み天然ガス資源の4分の1、1680兆立方フィートの資源を保有し、中央・東ヨーロッパは天然ガスの71%を供給している。ロシアのガスプロムはこれにかみたいと思っている。

 イスラエルキプロスは、ロシアの技術に注目しているだけでなくモスクワが領有権論争をめぐる自国の立場を政治的に支持してくれることを期待している。ロシアは同開発権利を認めることを表明している。

 ロシア海軍は1973年の第4次中東戦争期にはこの海域に96隻の軍艦を展開していたが、1991年までにその数は5~8隻へと減少。冷戦終結以降実質的にロシアの軍艦はこの海域から姿を消している。

 2011年から現在までに、ロシア軍は冷戦終結以降、有数の規模の軍事演習をこの海域で3度にわたって実施している。2013年1月に実施された最近の演習には、黒海艦隊、バルト海艦隊、北方艦隊から20隻の戦艦と潜水艦、さらには、第4空軍防空司令部から長距離爆撃機が参加。黒海および地中海地域で実施されたこの大規模演習は、災害管理にはじまり、対テロ、対空防衛、潜水艦戦争までのさまざまなシナリオでの指揮系統の柔軟性を試すことが目的だった。

 地域的大国とはすなわち、有事への対処能力災害からテロ・戦争に至るまで後見能力があるかどうかですから、ロシアがそれがあるぞ!と名乗りを上げたことがポイントですね

 この演習について、ロシアのラブロフ外相は地中海の安定のためにわれわれの艦隊のプレゼンスはあると表明している。だがシリア情勢はロシアに好ましい方向に向かってはいない。タルタスにある基地をロシア海軍は維持したいと考えているが、アサド政権が倒れれば、ロシア軍はこの基地を明け渡すとみられている。そうなれば、ロシアはイスラエルキプロスとのパートナーシップ形成をより積極的に模索していくと考えられる。だが、ロシアがイスラエルキプロスにタルタスの代替基地を確保できる可能性は低い。ロシア海軍の展開能力は、今後も当面は制約される。

 やはりその役目、後ろ盾になるのは米だろう。だが、バランサー、安定化の役目を担う存在としてのアメリカのクレデイビリテイが揺らいでいるのも事実。依然としてそれを果たす魅力はあってもトルコは、次第に「ワシントンの立場は公正とは言えない」と考え始めている。もっと重要なのは、中東におけるワシントンの戦略的焦点が依然としてペルシャ湾に合わせられていること、その一方で、アジア太平洋地域へのリバランシングが進められていること。

 冷戦期と1990年代を通じて、アメリカの第六艦隊は中東における圧倒的なプレンゼンスをもつていた。平均して、4隻の潜水艦、海兵隊遠征隊、618隻の水上戦闘艦艇に守られた少なくとも一つの空母戦闘群が現地に展開していた。その後、イラクアフガニスタンでの戦争によって、これらの戦力は削減されていった。現在、この海域に常時展開している軍艦は第六艦隊の揚陸指揮艦、USSマウント・ホイットニーだけ。

 東地中海の安定を保つには米軍のローテーション展開と多国間訓練・演習が必要だが、広く薄く戦力を展開している米軍にとって、この双方について選択的にならざるを得ない。

 新しい優先課題を抱え、しかも予算の強制削減が控えていることを考慮すると、アメリカが近い将来、地中海に冷戦期並の戦力を展開できるとは考えられない。

 ロシアの戦力への対抗バランスを形成し、アメリカの同盟諸国どうしの対立と危機を回避するには、ワシントンはヨーロッパ諸国の海軍力により多くを依存せざるを得ないかもしれない。だが、フランスとイギリスが緊縮財政に足をとられ、北アフリカやマリにおける作戦で消耗している現状では、オフショアバランシングでは、十分な対策とはなり得ないだろう。

 いまや、この地域における政治的手詰まり状況、そして、かつてない予算と資源の制約という二つの現実を見据えた、リアリステイックな東地中海戦略が必要。そうした戦略を信頼醸成、リスク削減、危機対応という三つの支柱で支えなければならない。

 前方展開戦力が存在しない状況で、アメリカのグローバルな軍事態勢がアジアヘとシフトするなかで危機にどう対応するかについての計画をまとめておくべき。地中海の安全へのコミットメントを示すには、「より小さな戦力でより大きな任務を遂行できるようにする」必要がある。

 天然ガス領有権の対立、キプロス、シリア内戦などなど解決が難しい課題ばかりで、しかも、これらの問題が密接に関連しており、この海域の安定化は容易ではない。紛争リスクはますます大きくなる。東地中海の今後の安定は、米ロなどの大国がどう抑制できるか次第。資源上の制約を抱え、外交ビジョンの下方修正を余儀なくされているとはいえ、やはりアメリカだと。

 外交ビジョンの下方修正というのが地味にポイントかなと思えましたね