てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。

不法貿易というアメリカの暗い過去

 プラウン大教授のピーター・アンドレアス氏の米の知的財産権侵害の過去の話。面白いと言ってかくの忘れてたの今頃思い出しました。

 グローバル化の進展にともなって、トランスナショナルな犯罪もまた増えている。ホワイトハウスがこれを問題視していることはもちろん、国連薬物犯罪事務所(UNODC)も2010年に「グローバル化した組織犯罪は、いまや世界有数の経済力と軍事力さえ保有している」と表明している。

 ワシントンが対策を訴えてきた結果、各国政府は二国間合意や多国間合意に密輸対策を導入した。国務省の人身売買と国際的な麻薬取引対策のランクを年次報告で公表するようになって、多くの国がイメージアップのために、対策に努力するようになった。

 アメリカはこの数十年で反麻薬キャンペーンに数百億ドルを投入し、麻薬の密輸入を阻止しようと試みてきた。結果、アメリカは非常に多くの麻薬取引業者を摘発・投獄するようになったアメリカの刑務所には、西欧諸国合計しても上回る麻薬犯罪者の服役囚がいると。

 だがそのアメリカも、拳銃の密輸出をそれほど厳格に取り締まってきたわけではないというコメントを筆者がしていますが、どうもその社会対策がゆがんでいる、歪になっているという気がしないでもないですね。麻薬も銃犯罪も同じ好ましいものでないでしょうから、もうちょっと多角的・総合的な取り組みがポイントになるんじゃないでしょうか?

 さらに不法移民の対策として、1990年代に国境監視体制の規模を倍に拡大し、この10年間でさらに倍増。何百マイルにもわたって巨大なフェンスを築いただけでなく、メキシコとの国境上空に監視用の無人飛行機(ドローン)を飛ばすなど、ワシントンは国境管理に軍事テクノロジーも導入している。

 国境を越えた犯罪と不法貿易が問題を作り出しているのは事実だが、感情的な議論と闇雲な法執行の強化という現在のワシントンの対策は、どうみても行き過ぎ。アメリカの専門家と政策立案者はともに、これらの脅威を正面からとらえておらず、この犯罪を歴史的な文脈で理解しようとしていない。これらは目新しいものではなく、各国が数世紀にわたって同じような問題に悩まされ続けてきたもの。

 そして、アメリカは被害者であるどころか、世界のいかなる国と比べても、不法貿易の豊かな伝統を持つ国。建国以来、アメリカは不法貿易に手を染め、密輸をベースとする資本主義で経済の発展を支えてきた。もうちょっとこういう不都合な歴史的事実を認識すべきだと。

 自国の過去を見なおして自制せよ。強硬的な対策は、非生産的で逆効果と。不法貿易の需要サイドが相対的に放置されていると。

 ワシントンの政府高官はよく知的所有権問題で、中国政府に不満を表明する

が、こういう発言が出ること自体、自分たちアメリカがトランスナショナルな犯罪で利益を得てきたかという歴史的な知識が足りないことを意味する。

 アメリカの工業化が開花した18世紀末から19世紀初頭にかけて、アレキサンダー・ハミルトンのような建国の父たちは、繊維産業を中心に知的所有権の乱用、技術の不正人手と使用をあえて奨励していたと。

 ハミルトンは、1791年に著書『製造業に関する報告書』で、たとえそれが他国の法に触れることになろうとも、「ヨーロッパで使われているあらゆる機械を調達すべきで、そのためなら、適切な資金を出すだけでなく、(不正に伴う)必要な痛みも引き受けなければならない」と主張している。この報告書は、ほとんどの国が「自国で開発または改良された方法(技術)や機械の輸出を禁止し、違反にはペナルテイを課している」と指摘しつつも、実質的な産業窃盗(インダストリアル・セフト)を奨励している。

 19世紀には今の中国のようなことを米がやっていたと。積極的に不正コピーを取り締まることもなかったために、チャールズ・デイケンズやアンソニー・トロロープといったイギリスの作家たちの知的財産権は侵害されていたと。1831年に成立したアメリカの著作権法は国際的な著作権の盗用という問題を完全に無視していた。アメリカが国際的な著作権スタンダードを受け入れ始めたのは、マーク・トウェインなどのアメリカ人作家たちが著作権侵害の被害者になってからだった。これまでさんざん侵害してきたのに、自分たちが知的財産権を侵害される立場になってはじめて、その権利の保護を訴えだしたと見事すぎるダブルスタンダードですね

 北京が知的所有権の問題に向き合うことは当然としても、「自国の知的所有権が盗用の対象になるまでは、政府が知的所有権の適切な保護に努めることはない」というアメリカ史の教訓をまず思い出すべきだと。

 コロンビアの反政府武装勢力アフガニスタンイスラム主義の反政府武装勢力も麻薬取引などのトランスナショナルな組織犯罪によって資金源をえている。しかし、トランスナショナルな犯罪と紛争の結びつきも目新しいものではない。

 独立戦争前のアメリカの商人たちは密輸経済で富を得ていた。特に、ニューイングランド蒸留酒生産用に西インド諸島から糖蜜を密輸入していたことは有名。アメリカの反乱の理由の一つは、イギリスの密貿易弾圧にあった。

 イギリス当局は、アメリカの商人たちが18世紀半ばの七年戦争で敵の仏軍に物資を供給していたことにも強く憤慨していた。当然イギリスは独立戦争前の10年間に軍事的な密輸弾圧作戦をとるようになった。これに反発して反乱が相次ぐようになり、税関船が燃やされたり、税関職員・情報提供者がさらし者にされるようになったと。

 植民地の反乱に加担した寄せ集めの海軍が世界最強のイギリス海軍を打ち破ったのも密貿易の知恵があったからだった。アメリカの密輸業者たちは自分たちの不法な輸送方法、スキル、ネットワークを駆使して、アメリカの革命勢力に武器と弾薬を提供した。利益だけではなく愛国心にも突き動かされた密輸業者たちは、戦時に敵国と戦う民間の私拿捕船としても活動し、ジョージ・ワシントン率いるにわか仕立ての海軍に加わった(イギリス側はこれらの私拿捕船を海賊とみなした)。

 もし独立戦争に破れでもしたら、自分たちのシノギをするシマがうばわれることになるでしょうから、そら命がけで叩きますわな。彼らにとっては「密貿易をする自由」を奪われたら大変ですからね

 独立後かなり時間が経過しても、不法貿易はアメリカの台頭の強力な原動力であり続けた。特に、不法貿易を背景に、第一世代のアメリカ大富豪が誕生したことは注目に値する。ジョン・ジエィコブ・アスターは1848年に死去したときにア

メリカ最大の資産を持つ、最初のマルチ・ミリオネアだったが、それは密輸によるものだった。アヘンを東アジアヘ送り込んだだけでなく、1812年の英米戦争の際には敵勢力と取引をし、ネイティブ・アメリカンに毛皮を提供することで当時禁制品だったアルコールを入手し、売りさばいた。

 アスターが例外的だったわけでもない。1831年に死去した当時、アメリカ最大の資産家だったスティーブン・ジラードも、中国とのアヘン貿易など、様々な密輸を通じて財を築いた。フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領の祖父ウォーレン・デラノ・ジュニアも同様に不法貿易を通じて財産を築いている。もっとも、デラノは「公平で高潔であり正当な貿易」を行なっていると信じ、清が1729年にアヘン禁止令を出してもまったく意に介さなかった。

 いくらトランスナショナルな犯罪対策を訴えて国境警備を強化せよ!と訴えても、そもそも国境管理が効果的に機能することはない。アメリカの国境管理は常にずさんで、当初からアメリカとメキシコの経済関係は密輸によって規定されていた。アメリカとカナダとの関係も同じ。

 禁酒法の時代のデトロイトとカナダのウインザーには、現在のエルパソと隣接するメキシコのシウダー・フアレスと同様に確立された密輸ルートが存在した。さらに言えば、メキシコからの移民が最大の国境問題になるずっと前から、アメリカの南北国境地帯はどちらも、中国とヨーロッパからの移民の不法入国のルートだった。

 近年、アメリカとメキシコの国境警備は軍事化されているがイギリスが1700年代後半に海軍を投入して植民地の密輸を弾圧したときのように、取り締まりを軍事化して逆効果になった過去を忘れるべきではない。ベンジヤミン・フランクリ

ンもそうした軍事化路線を批判し、1773年に皮肉を込めてイギリスに忠告している。

 軍隊を反密輸部隊に仕立て上げることに対して彼が批判したことは的を射たもので、兵士は立派な警察官にはなれないのだ。兵士は誰かを逮捕したり拘束したりするのではなく、敵を殺すための訓練を受けており、市民の自由を尊重しないこともある。兵士の高圧的なやり方はまさに彼らが保護すべきコミュニティーとの関係を損なうかもしれない。密輸業者や他の犯罪者を取り締まる任務を兵士に与えれば、腐敗が兵士たちを蝕んでいく。

 アメリカ人は、現在のメキシコとの国境地帯における密輸問題の深刻化に自分たちが加担している部分があることを都合よく忘れている。あたりまえのことですが密輸ということは内なる犯罪組織が存在して初めて起こるものですからね。コロンビア人が1980年代に利用していたカリブ海と南フロリダを経由する麻薬密輸ルートの対策の結果、不法貿易ルートがアメリカとメキシコの国境地帯へと移動した。

 同様に、1990年代にメキシコ国境沿いの不法移民流入の取締りを強化した結果、多くの不法移民が密輸業者を頼って国境を越えるようになり、彼らに大きな収益源を与えることになった。取り締まりの結果、より巧妙な手口が必要となり犯罪組織が利益を得るって典型的な対策の失敗ですよね

 さらにリスクの高い密入国をするため年間数百人が命を落とすようになっていると。合法的なものを認めて、不法なものを取り締まろうというのは限界がある。執拗に外国からの密輸対策をしても得るものはほとんどなく、むしろ犯罪組織の利益になったり、アメリカ人が求める不法労働移民と麻薬に対する対策に逆効果になるだけ。

 政策立案者たちがこれらの問題の根本的な原因が時代遅れの労働市場規制、機能不全に陥っている移民制度、過度に懲罰的な麻薬管理制度、教育や公衆衛生政策の失敗ではなく、トランスナショナルな犯罪にあると考え続ければ、ほとんど進展は期待できないだろう。

 数世紀にわたって続いている不法貿易の伝統は今後もなくならないと考えた

方が無難。この問題は管理が可能な領域ではない。管理できないものを出来ると考えて封じ込めようと躍起になっても、混乱が起きるだけ。過去それによって失敗した英の対策で、米が利益を得たことを考えればなおさら。

 歴史を振り返ればアメリカが不法貿易の管理体制の強化をヒステリックに叫ぶのはどうみても問題がある。まあいつものように自分たちを正義と考えて、悪いことを外部に見出して失敗するというやつでしょうか。もうちょっと現実的な対策を取れば済む話だと思いますけどね、トランスナショナルだけの取り組みでは無理で、複合的な対策が必要でしょうけど