てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

ヤバイという言葉について思うこと

※言葉の話なので、身体論として語ろうかな?とカテゴリーで悩みましたが、めんどくさいので、このまま転載。
 「やばい」は褒め言葉?=「婚活」「イクメン」も9割浸透-国語世論調査・文化庁 とあるように、「やばい」という言葉が定着して久しい感じがあります。何時頃から根付いたのかな?とちょっと考えてみるものの、パッとは思いつかない。『ジョジョの奇妙な冒険』で、ストーンオーシャンで「ヤッベ!超ヤッベ」というセリフがあったのと、『こち亀』で家庭教師をやっている北条が、「やばい?良いんですか悪いんですか?どっちなんですか?」

 ーというセリフを見た記憶がありますが、まあ10年~5年くらい前には間違いなく根付いていたというか定着していたという気はします。

 言葉というのはプラスの意味の言葉が、マイナスに。マイナスの言葉がプラスに転用されるのは珍しくありません。わかりやすいもので、「適当」という言葉。「テキトーにやっといて」というと「いい加減」にちかい。気楽にやりなよという意味合いもあるかもしれませんが、「真剣味」を引いたような言葉となります。逆に本来の字義通りに「適切に当てる」適当なもの・こと・人を当てたという意味もあるわけですね。「理にかなった」という意味で使われもします。

 誤解を招きかねないために、後者の「適切」という意味では使わないことが多い気がしますけどね。

 例は違いますが、漫才がテレビで定着するに連れ、「おもしろい」という意味で「アホ」「馬鹿」という言葉でその面白さを評価する意味で使う事例が増えました。「こいつアホや」といえば、否定的評価ではなく、面白いということを認めるという意味合いがあるわけですね。

 「キレる」という言葉も昨今で少し意味合いが変わった気がします。「キレたら手がつけられない」という言葉は、怒らせたら大変だぞという意味で、中二病的な意味では肯定的な感じがあります。

 感情をコントロールして怒れる人間というのはちょっと想像しづらいですが、「キレる」という行為はどこかそういうニュアンスを含んでおり、「本当に怒らせること」という意味合いがありました。怒りスイッチを押させるなよ!という警告があり、とうとうお前は俺を怒らせてしまった…とジャンプヒーローが怒るのは定番のパターンでした。ドラゴンボールの映画では毎回最後に悟空が「キレて」勝つというパターンでしたしね。

 ところが、最近の「キレる」という言葉の意味合いには、そういう本当にやってはいけないことをやった場合、然るべき制裁を下すという意味はどこかへ言ってしまったと思います。

 身体性を喪失した昨今、我慢が出来なくなってちょっとしたことで怒る沸点が低い人間が増えた。そういう至らない人間が癇癪を起こしたとき「キレた」という言葉を使うようになったという感じがします。昔から大の大人が「何だと貴様!」と怒って喧嘩をするようなケースは多かった気がしますが(むしろ昔のほうが質的・量的にも質が悪いケースが散見されますね)、やはり現代的な怒り方とはちょっと違う。そういう変化を象徴するのが「キレる」ということなんでしょう。*1


 さて、肝心のヤバイの話を。「ヤバイ」という言葉の語源は諸説あって、「やはりあぶない」の略だとか、元々裏の人たちの隠語。つまり、こういう裏の仕事をするつもりなんだけど、この件はどうなっている?捕まらずに出来るのか?いややばいぞ―という感じで使うものだったと。

 あれ、ヤバイぞと、その筋の人達が使う言葉。すなわち状況の深刻さを伝えたい時に最適な言葉だったわけですね。「危ない」でも意味は同じで使えるわけですが、よりライトにつかうために4文字の「あぶない」よりも3文字の「やばい」のほうがいい。「ヤベエ、ヤッベー、ヤベッ」、女性だと「やばーい」ですかね?いずれにせよ言いやすいところがポイントでしょうか。

 you knowとかreallyとか、なんでもいいのでちょっと合間に挟むようなそこまで意味のないけど、とりあえず言っといて間を持たせる言葉として最適なんでしょう。

 ヤバイという言葉は「危ない」の意味合いがあるように、褒め言葉では使えないはずですが、今ではプラスの意味で使われます。よく考えれば、「なにこれやばーい」は「なにこれあぶなーい」ですから、危なかったらダメだろと突っ込みたくなる所。

 それが違和感なく通じるのは、ヤバイというのは状況の深刻さを相手に伝える言葉として変化したということでしょう。超スゴイ!メッチャスゴイ!という時の、超やメッチャと同じですね。それは「やはりあぶない」の「やはり」の部分が作用しているんでしょう。

 やっぱスゴイ、やっぱ美味しい、やっぱカッコイイー何がやっぱなんだよと突っ込みたくもなりますが、まあなんか言葉を付け加えることで、より表現を盛りたてる効果で自分の感情をより伝えようとするコミュニケーションの原則が働いているんでしょうね。

 コミュニケーションのポイントで重要なのは共感と緊迫度を伝えることなので、ヤバイという緊急性が強い言葉で表現をすることで、相手に自分の意図を伝えようという動機からこの言葉が市民権をえたと考えることが出来るでしょう。「ヤバイ」というほど、危ない・緊急なことじゃないだろって時にもそういう過剰な表現を使うのは、まあそういうのが若者言葉なんでね。

 これのちょっと前にあったのが、「本気=マジ」なんでしょうけどね。真面目の略でマジでいいのに、本気と書いてマジと当てるからなんか一風変わった真剣味を表現したのが大きかったかもしれません。本当かよ、本気かよ?これがマジの二文字になるだけで使いやすいことこの上なくなる。流行らせたかったら略語を作れの法則通りなんでしょうね。

 アニメだってなんでも略して言われますし、人気日常モノは四文字作品タイトルにしておこうなんてのもありますしね。

 ヤバイは最初は本当にマイナスの意味というか、危険性を意味する言葉だったんでしょう。時間が間に合わないヤバイ!とか。しかしヤバイが根付く上で、緊急性・危機感を共有する言葉という言葉になって、それが「驚き」という意味合いに転換していった。

 驚きの言葉になれば、それはいいことでも使える。美味しい!で感動した=驚いたら、これヤバイ!ヤバくない?と感情を共有することが出来るということですね。物凄い面白い作品があったら、すっごい面白い感動した・驚いたからあなたも見てという意味合いで、「ヤバイ!からこの作品見て」といえるわけですね。

 これ美味しい=ヤバイ、これ面白い=ヤバイと、ヤバイ一言で感情・言いたいことを色々表現できる。とりあえずヤバイと言っとけば会話が繋がるわけですからこれほど楽なことはない。そりゃ流行るでしょうね。まあリテラシー低下には繋がるでしょうが。

 「すいません」ということばが、謝罪と感謝を意味するように両義性というか多様な意味を持つ言葉。このようにマルチな意味合いを持つ言葉として今後も定着していくのでしょうか。今の若者が60近くになっても当たり前のようにこの言葉を使うかどうかに左右されるんでしょうけどね。まあ流石に己は肯定的な意味合いではあんまり使わないですが。

*1:※身体論、スポーツ的な意味で、身体がキレる・技がキレるという意味で、肯定的な意味で使いますね。身体やスポーツの見事なパフォーマンスには身体が斬れていること、スパッと分離していることがポイント。その「キレる」というプラスのワードと、怒るという意味での「キレる」という同じ言葉を用いられてしまうのは問題ですよね。ブチギレるということから「キレる」なんでしょうが、ブチギレの方は爆発とかブチッブチッという汚い音感を伴う言葉なんで「キレる」という言葉使ってほしくないですよね。「チギレる」という言葉に変わってほしいなぁ