てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

日本の核武装を考えてみる

 

 

 ここで、核武装は日本の安全保障にプラスにならない。安易な核武装はダメだという話がありました。当時は冷戦中であり、今とは時代背景・環境が違う。それならば今はどうなのか?今、日本が核武装をした場合、安全保障上プラスになるかということを考えてみたいと思います。

 

対中国(尖閣)からの核武装               

 核はそれを保有することで、攻められなくなる。核武装をすれば、国際社会から孤立しようとも、100%確実に他国から攻められないという保険が得られる

 ―と思っている人はどれくらいいるでしょうか?まあそんなにいるとは思えませんが、冷戦中から核兵器は「使えない兵器」として機能し続け、今でも基本的にその図式は変わりません。そして今日本の安全保障で一番脅威としてあがっている問題は尖閣諸島。日本が核武装をして、中国に「尖閣への軍事侵攻は核兵器で反撃する」という選択をした場合、中国は核攻撃が怖いために尖閣攻撃という選択肢を放棄するでしょうか?

 まずありえないと思いますが、仮に日本がそういう方針を選択したとしても、中国が尖閣への軍事侵攻を止めることはないと思います。これは中国も核を保有している。ならば、こちらも核で反撃する。核による全面戦争だ!という反応・選択を中国がとるからということではありません。もし中国が核保有をしていなくても、局地紛争において核で抑止するという選択が国際社会から理解をえるわけがないからです。

 相手が間違っているとしても、過剰反撃していいとは誰も思わない。核兵器が威力がありすぎるために、尖閣を奪われた反撃として北京などに撃ち込んで何百万人も殺傷してしまえば、国際社会から非難を受けるのは間違いなく日本の方。日本が軍備を強化して尖閣を防衛することが出来る状況にあるとすればなおさらですね。 

 そういうことが想定される以上、中国も核保有をしたからといって、尖閣「奪還」を、日本の核保有によってためらうことはないでしょう。

 

 つまり、日本が核武装をして日本の安全保障上の懸念が解消されるわけでもない。そういう意味での核武装はありえないと考えていいでしょう。

 

対米、自主独立としての核武装                

 次に考えるべきは、「対米独立としての核武装」。中国の脅威や北の脅威を口実にして、核武装をすることで米の核の傘から離脱する。対米従属の国内体制の色々な歪んだ構造を破壊するために、核武装は不可避であるという考え。

 現在の政治・社会構造からそれが達成できるか否かはさておき、仮に核武装をすることで対米独立が達成され、日本が真の独立国になるとしましょう。そのために核武装は有効なカードと考える人は少なからずいるかもしれません。独立のために多少の批判、国際社会から孤立しても構わない。対米独立して、中国やインドと東ア新秩序を作ることによって、「米とさよなら」をするのだと。特に核武装をして長いこと孤立をしながらも、ようやく米の承認を取り付けたインドと組むのだと。日本独自の外交で世界を動かすのだとしましょう。

 それが良いか悪いかさておいて、目標・目的は「米からの独立」であるわけですから、米から独立をするという最終目標を達成するために、やるべきことはいくらでもあるわけですね。日中印トライアングル体制と日米同盟を秤にかけるということも考えられますから、日米同盟が核武装後も存続し続ける可能性はあります。というか高いですね。核武装と日米同盟破棄をセットで考える人は、核武装論者でも少数派ではないでしょうか?

 

 対米自主独立=米と敵対ではありませんからね。しかし軍事主権を取り戻す上で、日米安保を最小化することになるわけですから、色んな軍事コストがかかってくるでしょう。空母を何隻も保有したり、イージス艦だなにやら、最新兵器がどうした~という話になってきます。

 核武装をすれば、軍事コスト・巨額の防衛費を払わずに済むということはありえません。中国が核武装尖閣を諦めないことからも分かる通り。また安保理からの集団的安全保障の義務やら、PKOやらそのような負担は一層重くなるでしょう。そうでなければ日本の独立は国際社会から歓迎されませんからね。

 

 つまり「米からの独立」をするために核武装はとりわけ必要ではない。間違いなく日本が独立をしたんだとわかる、インパクトとしては大きいですが、別に核武装をしなくても出来る。やるとしたら、一番最後にする話。手順で一番最初にやるのはただの馬鹿といいますか、結局混乱を引き起こして、政権が変わって次の総理が「核やめました」ということになるだけでしょう。

 

対北としての核武装                  

 というわけで、この対米からの核武装という視点もありえない。対中&米がありえないとするなら、北でしょうか?北は核武装を交渉カードとして使ってきます。ならば、それを無効にするためにそのカードは無意味だと核武装カードを一時的に選んで、北が核武装を放棄するまで、こちらも核武装をするという選択をするべきでしょうか?

 北の外交政策は「生き残り」を図るもので、現在の体制が保証されることが目的。決して挑発、攻撃、戦争が目的ではありません。北の外交方針・路線を変更させるには、体制変更をさせて、国際社会と共存させるためには、軍事的圧力をいくらかけても変わらない。ゴールデン・パラシュートで今の指導層の他国での生命の保証をしてやらなければ変わらない。

 日本が北を攻撃することをためらわないという強硬姿勢を取ることで、事態が打開されるか?中国や米、韓国などとの協調がなければ変えられない。核武装はその協調を破壊するものになりかねない。中国への交渉材料として、北の体制変更に協力しないと核武装するという脅しとして、進めるというのも考えられます。中国が北の体制維持のキーになっていますからね。中国も北の核を放棄させたいことはさせたいでしょうけど、ポスト北朝鮮が中国の思うようなものでなければ賛成出来ない。

 

 日本の核武装と北の体制変更どちらを選ぶか、耐え忍ぶかといえば、外交の現状維持の力学が勝って、日本の核武装を容認することになる可能性が高い。つまり不確実なカードなわけですね。それでも日本が核武装できたからいいじゃんと言えればいいですが、高い国際社会からの非難というコストを払って、目的の北の体制変更もできないのであれば無意味と言っていいでしょう。それまでに米からの独立を達成する条件を揃えていた、最終段階として核武装をする段階にあったなんていう背景があればいいですけどね、到底考えづらいのでやはりナンセンスと言っていいでしょう。

 

対露としての核武装                     

 結局今の日本の外交課題、対米・対中・対北すべてありえないわけですね。最後に考えられるのが、対露外交上の必要性、「対露外交上の核武装」。ここまではナンセンスという結論でしたが、実は意外とロシアに対して意味・効果がある。もし核武装という選択肢を取るなら、対露以外ありえないでしょう。

 ロシアというのは「力の信奉者」、軍事力を背景にしないと外交が成立しない。日本が軍事力を増大させる。核武装して北方領土を返さないのならば、核攻撃も辞さないという方針を選択した場合、間違いなく交渉はプラスに進むでしょう。要するに核武装を考えるとするなら、意味があるのは対露外交の視点からしかありえないというわけですね。

 かといって、対露外交上目的のみでの核武装ですから、米・中さんには関係ないですよーといって納得してくれるはずもありません。国際関係は、相互連関関係にあって複雑にリンクしていますから、他の二国間外交にも当然波及しますので、決断できるか事実上選択可能であるかという話は言うまでもなく別物です。

 そしてまた、対露上有効であるとはいえ(クリミア問題を抱えているロシアを東から揺さぶることで、欧州の関心を買える・プラスに評価されるなどという要素もありますけどね)、核武装は最後に取っておいてよい。最初に選ぶカードではないこと。対露戦争のために、戦争になったら軍事的なコストをロシアがどれくらい払わなくてはいけないのか?という計算を跳ね上げるためにするべきことはいくらでもある。軍備拡張が先ですね。

 

 結論として、脅威を排除するためだったり、相手国に言うことを聞かせるための核武装、安易に目的を達成するための「低コストの核武装」という選択肢はありえないということですね。

 当たり前の話ですね、どこの世界にそんな簡単に手軽に目的を達成できる魔法のカードがあるんだという話です。あったらとっくにやってます。核アレルギーがこれまで強いので検討されてこなかったんだ!―という話ではなかったということですね。