てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。

地雷化する地政学?

たまにはまともに記事を書きたいと思います。「地政学」について少し。

 

 この記事がツイッターで話題になっていたので、読んでみたのですが、ギリシャ問題を「宗教」で説明するのはやや強引。無理がある。それはさておいて、この記事のタイトル、副題ですかね?そこには

 

地政学」で経済ニュースがよく分かる

 

 ―というものがついていました。どう考えても「地政学」は関係ない。「地政学」という言葉が濫用される傾向が最近目につくと思います。

 

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世界史で学べ! 地政学

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世界のニュースがわかる! 図解地政学入門

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地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図

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日本人が知らない地政学が教えるこの国の針路

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佐藤優の「地政学リスク講座2016」 日本でテロが起きる日

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最新 地図で読む世界情勢 これだけは知っておきたい世界のこと

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国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」 (講談社選書メチエ)

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China 2049

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  ―とまあ、こんな感じでやたらめったら出てくるわけですね。ちゃんと「地政学」を学んだ人はいいんですが、中にはどう見ても「え、何それは…」と言ってしまいたくなるようなことを書いている本もある始末。うーん、特に高橋さんのような経済が専門の人が地政学を語ったり、インテリジェンスで有名な佐藤さんが書いているのを見ると、とりあえず本を売るために「地政学」って書いとけという傾向があるのでは…?と思わざるをえません。

 

 奥山さんなんか、ちゃんと大学で学んだ人ですから、特に違和感を感じないのですけど、どうみても「地政学」を専門に学んだことがない人が、それをタイトルにして本を売るというのはどうなんでしょうか?

 

 で、そもそもなんですけど、何故か「地政学」が戦略の王道だ!!みたいな感じで、大々的に取り上げられる傾向があるのですが、ハッキリ言って、国際政治学および政治学の王道かと言われるとそうではないんですよね。むしろ学問的には傍流に近いと言っていいと思います。

 

 国際政治学では概してリアリズム・リベラリズムコンストラクティビズムという3つの有名な理論があります。地政学というのは、言うまでもなく「地理」政治学ですから、政治学の一分野ですね。政治学の一分野にすぎない地政学が何故か過大評価される傾向がここ数年目につきます。

 

 地政学というものをあえて国際政治学の中に当てはめて考えるとすると、リアリズムの一派ということになるでしょうか*1。それよりも軍事学の中の一分野・一分派と考えるほうが正確かもしれません。まあどちらがどちらだと明確に定義できるものではないのでしょうけど、要するに政治学と軍事学の両方から捉えることが出来る、錯綜する要素があるということを知っておいていただければいいかと思います。

 

 政治学サイドからのアプローチ、軍事学サイドからのアプローチ、まあ二つの方向性から考えられるものだとは思いますが、政治学サイドのアプローチが弱い。どちらかというと軍事学サイドのそれが目立つ気がします。

 

 軍事学をしっかり学んだ人、政治学のリアリズムをきちんと抑えた人でもよろしいのですが、どうもそういう体系的な理解をしたわけでもない人が目立つ気がします。学問を修めたわけでもない人が、やたらめったら「地政学」を連呼して、「戦略」を連呼している気がしてなりません。

 

 個人的に軍事学や政治学をしっかり修めたわけでもない人が、「軍事」「リアリズム」を語るというのはかなり危ういと感じています。というより地雷ですね。最近と言うか、結構前からそういう傾向があるきがしています。きちんとした軍事学・政治学(リアリズム)ではなく、俺軍事学・My軍事学をあたかも周知の事実・真理のように語る手合とたまにツイッターで遭遇しますね。本人たちは「ネトウヨ」みたいな勢力と一線を画していると考えているようですが、同じような危険性をそこに感じます。ネット内で軍事を語るということで、「ネトミリ」とでもいいましょうか。

 

 それはさておいて、現在書店や雑誌&Webの記事を賑わせている地政学もこのような「ネット地政学」に陥る危険性があることを理解しておく必要性があると思います。このようなことを書くと、地政学に否定的な思想を持っているように思われそうですが、個人的に、ハルフォード・マッキンダー氏を高く評価しているので、地政学という視点・発想は現代でも有益な視点を与えてくれるものであり、一度は誰もが触れておくべきだと考えています。

 

 「地政学的要衝」あるいは「~に重要」という言葉を、なんら深い知見・理解もなく、それどころか地政学を学んだこともないのに、ついうっかり書いてしまう人は少なくないでしょう。かくいう己も学生時代レポートなどに、枕詞感覚で使っていました。

 

 そもそもですが、地政学と一言で言っても、論者によって異なるわけです。マッキンダー理論なのか、ハウスホーファー理論なのか、マハン理論なのか、スパイクマン理論なのか、どなたでも良いですが、一体誰の理論を以って「地政学的に重要」と言っているのかわからないことが多いです。大抵、地政学的に重要という言葉が使われるときは、「A国またはB同盟圏にとって、地理上重要である」ということが多いです。別に地政学使う必要が無いんですよね。日本(米)や中国にとってシーレーンを握る台湾、マラッカ海峡が大事であるなど、そんなこと地政学というワードをわざわざ持ちださなくたってわかるわけですからね。

 

 たとえばリムランド理論なんかがありまして、経済発展する重要な地域は沿岸部であり、その沿岸部を抑えるものが世界の覇権を握る。事実その沿岸部を主舞台として冷戦の武力衝突は起こりました。かのように戦争の発生の確率、世界政治のパワーゲームを理解する上で地政学的発想は、非常に有益と言えるでしょう。しかしそれも主権国家同士の衝突を前提とした時の話。現代では大国の戦争は殆ど起こらないので、欧州列強時代・冷戦時代から比較して相対的に重要性が低下していることは間違いないわけです。そのような地政学というものを、今に至って殊更特別視する風潮は違和感を覚えます。

 おそらく、平和教の反軍事思想のカウンターという意味合いがあるんでしょうけどね。タブー視されて語られない時代があったために、新鮮に映っているという要素があるとは思います。しかし現代ではテロ戦争が主体。パワーゲームの要素は小さくなってきている時に「地政学」…?とならざるをえません。

 

 あと、本当に基本的なことなんですけど、米の戦略(学者?理論家?)だったり、米の覇権や一極体制を前提に論じる国際学者というのは、あまり優秀な人でないことが多いんですよね。アフガン・イラク戦争に至って、現在の状況を見ればよくわかると思いますが、まっとうな国際政治学者(己が思うという意味ですが)は、イラク戦争のようなものは絶対に失敗する。戦後統治もうまくいかない、何より国際法違反は止めるべきだという意見でした。がそのようなまっとうな意見を主張する人は、決して多数派ではありませんでしたからね。

 

 そもそも米の戦略、米は今後どうあるべきか!なんていうビジョンを語る優秀な人は稀人であるわけです。その当たり前の前提を無視して、米の戦略のプロが!なんて言っても微妙になるだけなんですよね。フォーリン・アフェアーズで、元~~省のトップだったり、スタッフの文章が出てきますけど、「何を言ってるんだお前は…」レベルが本当多いですからね。

 

 優れた国際政治学者というのは、ナイなんかも言っているように、リアリズムもリベラリズムコンストラクティビズムも全て抑える。抑えた上で、では今後国際情勢はどうなるか?我々はどんな戦略を採用すべきか?ということを論じるものですからね。

 

 まあ、チラ見しただけですが、高橋さんは地政学と専門外について語りながら、おきまりの日米同盟って大事ですよね的な結論ありきの文章で、少し引きましたね。せめて、自分が参考にした学者の理論を分かりやすく解説するとかがあればわかったんですが…。

 ちょっと失望しました。そして菅沼さんという元公安の人が書いたものは典型的なんですが、もう完全に国際政治学ガン無視なんですよね。リアリズム=軍事、リベラリズム=非軍事みたいな変な解釈をする。リベラリズムなら戦争は起こらないというけど、第一次世界大戦では起こったみたいな???というのがありましたが、リベラリズムという学問は前身の思想・学問がそれ以前に潮流としてあったとはいえ、第一次世界大戦後に、リアリズムのロジック・均衡理論では戦争が起こりえないはずなのに、戦争が発生した。なぜ戦争が発生してしまったのか?という教訓を契機として成立したものですからね。無論、論者によってリベラリズムの端緒というものの捉え方は異なると思いますが、大抵の人はこの第一次世界大戦が重要な契機・ポイントとして確立された思想とみなしています。リアリズムの欠陥を克服する必要上から生まれたものだという基本すら知らないんですよね。

 「日本人が知らない~」というタイトル、新刊コーナーで何件か目にしましたね。本当はこうなっている!!真実はこうだ!という手合のものがよく売れているということなんですかね…。あと評論家の解説本も目立ちましたね。そういう非専門家のものって、

 ①「リアリズム」(言うまでもなく非学問的なそれ)を重視する

 ②中韓を否定的に記述する

 ③自民党政権を褒め称えるor民主党政権をこきおろす

 ―という傾向があるという気がしました。そういう手っ取り早くお手軽にわかったような気になれる本が粗製濫造される傾向がずっとありますが、今後も続くのですかね…。*2

*1:リアリズムというものが、マキャベリ君主論

に端緒があることを考えると、軍事学と関係が深いのはまあ当然のことなんでしょうけどね。政治的目的を達成するために君主権の確立を訴える。そのためには、軍事権を君主が掌握すべきというものですしね

*2:ひょっとしてそういう本屋の平積みコーナーを特定の思想で占めることが情報戦術上有効であるという観点から、自民党系の人が支援して本書かせているとかあるんですかね?そういう宣伝政策を意図的にやってるとしたらそれはそれで大したものだと思いますけどね