てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

『胡椒 暴虐の世界史』

 

胡椒 暴虐の世界史

胡椒 暴虐の世界史

 

  読んだので、レビュー。『胡椒・暴虐の世界史』

 よく調べられてはいますが、それほど興味をかきたてられるような話ではありませんでしたね。データ羅列系というわけではありませんが、情報の羅列感アリというか。ポイントポイントが章立てでまとめられているというわけでもないので、読んでていてスピード&爽快感が出ませんでしたね。まあ拾い読みして流しました。この時代・地域=インドシナに興味がある人には良いかもしれないですが、個人的にはそこまで必要なものではないという感じでしたね。学者ではなく、ジャーナリストなんで当然ですかね?でもまあ巻末に文献・引用があるのでやっぱりまともな手法を踏んでいると思います。その点は大丈夫でしょう。


 p35、腐りかけた肉に胡椒をかけて食べるというのは誤り。有名な俗説なのかな?そういえば学生時代にそんな話を聞いた気がします。当時の支配階級は新鮮な肉の入手に困ることはなかった。天に近いほど尊いという価値観で、鳥肉が好まれた。対称的に地からなる野菜などは嫌われた。
 p37、胡椒を独占していたのはヴェネツィア。15世紀には西欧へ胡椒の輸入の8割を占めていた。17世紀にはイギリス・オランダがこれに取って代わる。18世紀になるとコーヒーや茶に関心が取って代わった。それでも胡椒の輸出量は変わらず多かった*1
 p39、エデンの園は存在していて、そこから南シナ海の芳しい風が吹いてくると考えられた。エデンの園が存在しないとわかると、散らばった種を集め直してエデンの園を再建するという情熱によって植物収集が行われたと。
 p42、胡椒は通貨として機能していた。持参金として支払われたこともある。ラテン語の特別な価値のあるものという意味speciesが語源。無敵艦隊が敗れて支払いに困ったとき、胡椒の蓄えが支払いとして使われたと。

 

【三章】
 こっから三章の話ですが、あんまりタイトルとか関係なく、時系列的にポルトガル→オランダ→イギリスというふうに進んでいきますね。まあ英と蘭はほとんど同時進行ですけど。そういう時系列が前後するのもちょっとマイナスポイントですね。

 ガマのカリカット初上陸は、囚人二人で、彼らの名前が残っていない。「キリスト教とスパイスのためにやってきた」というセリフが象徴的なシーンと言われるが、相手は現地人ではなく、チュニジアからきた商人だった。ヨーロッパの人々が交易ルートを切り開いたのではなく、すでに交易ルートは開かれており、その後追いにすぎなかった。また布教ではなく、プレスター・ジョンを探してやってきた。仏人ピラールを拉致して囚人として働かせるなど、お世辞にも立派な人物・探検団とはいえない。帰路ムスリム380人の乗った船を女子供含めて虐殺したり、ヨーロッパ航海・探検隊の非道合意は枚挙に暇がない。未だにポルトガルの国民的英雄とかスゴイ神経ですね。
 ポルトガルは乱暴狼藉をつくすので現地から嫌われていた。船乗りは妻を連れていくことは珍しく、奴隷女を囲った。犯罪者が乗組員として雇われており、交易の危険性が知れ渡ると、逃げ出さないように足かせをはめていたと。奴隷貿易宜しく、自国民ですら奴隷貿易に近いことをやっていたというわけですな。インド駐兵隊の兵士を補充するために約5200人を送り込んでも半数がコレラなどで死ぬという厳しい・悪い環境。
 ホルムズ・マラッカを占領して交易ルートを切り開くが、ムスリム商人は迂回してヴェネツィアに輸出していた。どうしてポルトガルのマラッカへの要塞建設など妨害しなかったのだろうか?独占などは到底無理だったから?
 男装して兵士になり、船に乗り込んだマーガレット・レイマーズという女性の例があるとか(p77)。虐待を受けたため、船乗りで儲けようとしたという。船医の助手にかどわかされて、妊娠してバレてしまったとか小説のネタになるくらい面白い話ですね。もっとドラマチックなのは、ブラジル生まれのドナ・マリア。縁組から逃れるため、男装して兵士になり、14年間隠し通すも船長を助けようとして負傷、秘密がバレると。でその船長と結婚するという見事なオチ。

【四章】

 アチェの話。アチェといえばスマトラ津波・もしくは独立運動が盛んというイメージくらいしかないかもしれませんが、そもそも当時から栄えていた独立王国だったわけですね。なので、その話が出てきます。ポルトガルがダメになって、オランダが参入してくるのは、オランダは現地と上手くやった・現実主義的な交渉をするというイメージがあるので、そんなに残虐行為もしなかった、うまく現地住民を活用でもしたのかな?と思いましたが、全然そんなことはなかったですね。各地の港を砲撃&捕虜を虐殺と。
 スルタンは無敵艦隊をイギリスが破ったことを知っており(当時はスペインがポルトガル王を兼ねていた故にそのスペインを破った意味合いが大きいのは当然か)、艦隊の指揮官を毒殺。アチェのスルタンはマラッカを攻撃するなど、一方的にポルトガル優位ではなかった時代ですね。トルコに援軍を求めたこともあると、もしこれが実現されていたら…というIFは面白いですね。
 スマトラは英と蘭によって胡椒島となった。無敵艦隊との戦いに参加したランカスターもアチェの航海で命を落とすと。いかに西欧で軍事力として機能しようと、交易としては無力という時代だったわけですね、英の小型海賊船。そんなこともあって、英が西に勝利しても、すぐには覇権を握れなかった理由になるのでしょう。
 アチェで英女王の親書を携えスルタンに入港・無関税・商館建設を求める。ポルトガルの例があるので恒常的な拠点は許さなかったが、歓迎される。現地で買い付けようとした胡椒が、予想していたよりも値段が遥かに高いと知ると、ポルトガル船の略奪に出る。大型船に対して小回りが利くのは無敵艦隊の時と同じと、こういう理由から彼らがインドまではるばるやってきたわけですね。イザとなったら襲って奪えるわけですからね。ランカスターは一部をスルタンに献上して、スルタンの心をつかんだと。
 船長の病死に、帰還の難しさ。死亡率はやはり半分近くで、高いまま。供給過剰の胡椒。それでも対オランダを理由に東インド会社の独占権を訴えて、権利を勝ち取ると。1993年、難破船が引き上げられたが、積み荷は黒胡椒と金銀細工と中国の陶器。高々これだけのために命をかけたのかという代物。
 アチェ・スルタン、イスカンダル・ムガの大艦隊によるマラッカ包囲戦。ポルトガル同盟国のジョホールのスルタンの救援と。ここでも合従連衡があって、ポルトガルが生き残れたと。アチェが半ば強国であったが故、ポルトガルも生き残りができた。彼の義理の息子の時代が終わると、アチェは四人の女性が王となる時代になると。動物の闘技の見世物が盛んになり、象の所有数が権力の象徴であり、もちろんスルタンは一番多く所有していた。17世紀後半になると胡椒の独占が難しくなる。オランダはアチェを海上封鎖して供給を絶ち日干し上げた。

【五章】

 英は蘭によってバンテンから追い出される。商館だけでは守り切れない、拠点として要塞が必要不可欠。アチェはもちろん拒否。木で作るなら良いという条件だった。よってベンクーレンというあまり恵まれたところではない地の女性スルタンの了承を得て、拠点化&胡椒栽培をする。奴隷制による胡椒農園。そこへラッフルズ人道主義を持ち込む。スマトラの独占を狙って、アチェとの防衛同盟を結ぶも、のちイギリスはオランダとの取引であっさり反故にする。中国との貿易の拠点であり、オランダを監視できる要衝として会社の反発にあってもシンガポール建設をすすめる。
 1824年の英蘭のスマトラ=マラッカの取引の話は面白い。仏の脅威などあって、両国が取引を考えた結果。政府のさじ加減ひとつで本國から夢を追ってやってきた現地住民が翻弄される姿が印象的ですね。スマトラでは領主が譲渡式典でじっと見つめる無言の抗議をしたとか。異民族の奴隷どころか、本国の民の権利さえ守らないわけですね。

 p180、オランダ現地での域内交易・カントリートレードによって利を作る。日本銀とアヘン。安月給で各々勝手に商品を取引する「私貿易」・横流しが横行していた。

【七章】

 米クインシー・アダムズ大統領がスマトラセーラムに来ていたと。米のイメージがなかったが、胡椒貿易に参加してるんですね、まあ海洋国家である以上当たり前ですかね。英米の取引における不正。秤に細工をして相手を騙す。1831年クアラバトゥーで、1839年にはマッキーで、残虐行為を働くと。海賊とのいさかいがあれば町ごと攻撃するという蛮行。まあ流石というかなんというか、もちろん米人はそんな歴史殆ど知らないでしょうね。

 

 というわけで、適当メモおしまい。昔なんか似たような本読んだ気がするけど、どれだったかな?

東インド会社とアジアの海 (興亡の世界史)

東インド会社とアジアの海 (興亡の世界史)

 

  興亡の世界史シリーズで、読もうと思っていて、そういえば読んでなかったですね。これ。これに手を出そうかしら?意外と「東インド会社」というテーマで本が出ている感じですね。なんか一冊くらい読んだ記憶があるんですが、忘れました。昔インド洋での交易云々、家永さんだっけな?興味持って読んだ記憶があるんですけどね。比較のために東インド会社の本を読むかもしれません(読むとはいってない)

東インド会社 巨大商業資本の盛衰 (講談社現代新書)

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オランダ東インド会社 (講談社学術文庫)

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東インド会社とアジアの海賊

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イギリス東インド会社  - 軍隊・官僚・総督

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世界最強の商社―イギリス東インド会社のコーポレートガバナンス

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満鉄と東インド会社、その産声―海外進出の経営パラダイム

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*1:―とあるように、西欧各国の物質欲が引き起こす残虐行為をテーマとするならば、あまり胡椒というテーマにこだわる・しぼる必要性はなかったのかな?という気がしましたね。後半はもう胡椒というより、残虐・非道行為が中心でしたし