てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

慰安婦問題の合意解説②

 

 

慰安婦問題合意は米の勝利】

 続きです。安倍談話にせよ、慰安婦問題での日韓合意にせよ、その内容は見事にワシントンの意に沿ったもの。今回の合意について、日本が勝ったあるいは負けたなんてことが色々言われていましたが、外交において「勝ち」「負け」なんてことはそうそうないことです。これは不適切な価値観でしょう。外交を勝負というものさしで図っている間は、国益は確保されず、望ましい戦略構築など夢のまた夢でしょうね。

 

 日本の「勝ち負け」、あるいは韓国の「勝ち負け」を論ずることに視点が行って、肝心の米の「勝ち」という現実が見えていない。最も肝心のことがわかっていない人がかくも多いということなのでしょうか…。こちらでは外交云々論じていないので、このブログで拙ロジック初見という人はそうはいないと思いますが、一応念の為に書いておきますと、日韓関係というのは、米韓関係・米日関係の一要素に過ぎません*1。米抜きで日韓・韓日関係を論じても殆ど意味はありません。

 

 所詮、米日韓という大枠の一要素・一変数にすぎないということを頭に入れておかないと何も理解できないでしょう。

 

 そういや今度は徴用問題で、韓国サイドがごねるみたいなツイをどっかで見ましたけど、外交問題にして日韓関係を停滞させて米の指示に従わないことに怒ってきたのが米で、今回の結果。別の問題持ち出してきたら、そりゃもう烈火のごとく怒るでしょうな、米の韓国担当の人は(^ ^;) 。まあ、今回の合意が対米関係上の要請で定まった結果なので、それを反故にしようという動きが両国政府から出てくることは考えづらいと見ていいと思います。あるとすれば民間・野党からでしょうね。

 

【右の人・左の人がどう評価するかという話】

 「外交の要諦は、51対49で勝ちながら、相手には49対51で負けたふりをすること」ということが言われますが、今回のケースでは70対30くらいで日本が有利。これでは自分たちが負けたフリをすることすら難しい。まあ、慰安婦問題について、あれは売春であり、強制連行ではない。それについて謝罪も賠償も必要が無いと考えている人達にとっては憤慨モノですけど、そうでない人にとっては「負け」なんですよね、日本の冤罪・濡れ衣ですから。

 

 興味のない大多数の人にとっては、合意ができて、日韓関係の阻害要因が解消されるのならば良いのではというくらいの感想しかないでしょうね。

 

 まあいわゆる右の人・左の人というのは普段の自分の思い、こうなるべきだ!政治家はこうすべきだ!ということしか論じませんので、結局その中身はどうでもいいんでしょうね。いいぞ!かけしからん!でしか判断できないリトマス紙脳ですからね(笑)。

 

【左右無関係に強い安倍政権によるトップダウン外交】

 浅羽教授は「リベラルなポジションをタカ派がとったときの方がむしろ信頼できる」「『右派アベだからこそ信頼できる』というロジックがあるのだ」(浅羽教授:朴大統領は慰安婦像を撤去し「今度こそ決着させる」と本気を示せ)と論じていました。しかしだからといって、右派政権が右派的世論をおさえられるかというとまた別の話。

 ―という指摘を見て思ったこと。まあ、彼らが今後安倍政権・自民を見捨ててネオコンのようになるにしても、その受け皿が今はないですからね。右派世論を抑えるというよりも、彼らにとらわれないという今の安倍政権のフリーハンドにこそ注目すべきではないでしょうか。

 ものすっごい右の人、右端の人たちを切り捨てて、真ん中や左の人たちを取り込んで乗り越えるという戦略なんでしょうね。他にもライトな右の人たちがいますが、彼らは投票を棄権するか自民以外に投票するところがないですからね。せいぜい維新でしょうか?まあ「失っても構わない票」ですよね。彼らは安倍政権について一方的な支持を与えるだけの存在で、彼らのダメだぞ!アカンぞ!というNoは安倍政権にまるで響かないわけですね。「右派世論」の片思いという構造があることが今回はっきりしましたね。イケメン安倍くんは彼らを胸キュンさせて好き勝手に振り回し、彼らは振り回されるだけ。少女漫画の主人公のように「もっと私のことを見てよ!愛してよ!」と言っても、安倍くんはオラオラ系なので、自分の都合のいい時にしか応えてくれないわけです。

 というよりも、まあ彼の最終目的は憲法9条の改正であり、そのために米の指示を殆ど何でも聞くというだけの話ですね。

 

【右派世論はどこへ行く?】

 「右派政権」が「右派世論」を治める(鎮魂する?)とはちょっと違う話ですが。今回の合意を機に「右派世論」がどうなっていくか!?というのは意外に見過ごされている気がしますね。自民内に若手の強硬派を育てたり、次世代の党の若手バージョンが生まれたりとか考えられなくもないので。どういう形になるのかは10年後とかそれくらいのロングスパンでわかることなので、今はどうなるかはいえませんが、将来の火種であることには変わりないでしょう。

 

 今回の合意への反発というのは、要するにその与党と首相への信頼の話になるんでしょうね。「社会党の村山首相」がやるならダメだが、「自民党の安倍首相」がやることならいい。「いつ」「誰」が「何」を―の文脈問題。村山レフト政権がやるのは駄目だが、非レフトな安倍がやるのならというくらいの話なんでしょうね。村山政権時代の慰安婦問題については、村山政権が左翼だったから、こういう過ちを犯してしまったんだ!―そんな思いを抱いている人々が右派世論の中核をなしているでしょうしね。

 

 要するにどうでもいい、その人が敵か味方かで判断してイエス・ノーを言ってるだけで、中身はどうでもいいというものなので、そういう感情論で動く人・党利党略で動く人はこれまた無視してよいでしょう(そのような人間が増えてしまうと別の問題が発生するわけですが)。

 

アジア女性基金について】

 ―で今回の合意の10億円というのは安いのかな?と思ったら、過去のアジア女性基金は48億円なんですね。これにはインドネシアとかオランダも含めてのもので、インドネシアには高齢者社会福祉=インフラ?支援があるっぽい。多分日本サイドが一人に払う「償い金」は前回と変わらないように思えますね(詳しい事実がはっきりしないとなんともいえませんが)。要するにアジア女性基金の合意内容が納得出来ない!と合意内容を否定して、ずっと再交渉を続けたのに結果は殆ど変わらなかったということですね。つまりこの点では、間違いなく時間の無駄で外交的な敗北というか失敗だったわけです。

 

 粘り強く時間をかけて再交渉すれば、良い条件を引き出せるならば、時間をかけるべきですね。逆に時間を無駄にするだけで意味が無い・実りがないのならば妥協をすべきと言うのは交渉上当然のことです。韓国外交は完全に見誤ったんですね、もしくは世論がなんとしても国家謝罪&責任を!という理念にこだわって当たり前の現実を見なかったわけです。これによって失ったものはあれど、得たものはない。この外交の結果を韓国世論・政府・学術界は徹底的に直視・反省すべきでしょう。

 

 そしてアジア女性基金で、上野千鶴子氏が日本政府の責任を曖昧にするから反対。市民基金がよかった。市民が共感を示せば上手く解決できたみたいな話を目にしました…。なんでしょうか、この「市民の共感が問題解決に繋がる」というロジックは…。謎理論過ぎてまるで理解が出来ません。このような謎理論についての反省はもちろん、冬至この合意を否定して、再交渉すればもっと良い条件を引き出せると考えた彼らは自身の責任を取るべく反省&言論についての検証をすべきでしょうね。

 

 そのアジア女性基金というのは、住基がマイナンバーになったみたいに結局無駄だったとおもいきや、07年まで事業をちゃんとやって、それで解散しているんですね。アジア女性基金という取り組みが一段落したが、納得しなかった・受け取らなかった韓国の間に未解決の問題が残っている。その対応をどうするかで、ずっと話し合っていたということですね。

 アジア女性基金で元慰安婦への償い金が支払われたが、韓国の人は一部を除いて、国家の責任を認めていないという理由で、受け取っていないわけですね。その受け取らなかった人達にどうするか―が今回の話なんでしょうけど、そうするとなんで台湾の人達がまた出てくるんでしょうか?受け取ってない人がいるということでしょうか?

 

【韓国外交の失敗・敗北】

 二十年経ってわかったことは、どんなに頑張っても、外交的に「日本に国家責任を認めさせることは出来ない」ということ。ここで手打ちをしないといけない。償い金すらもらえなくなってしまいますからね。パクの妥協は正しい。もうこれを理由に日本と協力しないことが、米から許されなくなった。ここで合意を否定すれば、お金すら受け取れないことになる。この現実を目の前にしても、妥協を否定すれば…、言うまでもないですね。

 

※おまけ「蒸し返し」と合意についての本

 「蒸し返す」というテーマが話題になっていましたが、韓国サイドがこの件で蒸し返したとしても、もうそれを理由に外交問題に出来ない(二国間での協力中止が出来ない)ので、日本にとっては有利な話なんですよね。なんで蒸し返すな!という主張があるんでしょうか?

 「蒸し返し」たら、日韓合意がなくなり、補償はされないだけ。今回の交渉で両国の「外交問題」だった慰安婦問題が、完全に韓国の「内政問題」に性質を変えたということなんですけどね。つまり外交領域に上がってこないので、日本としては韓国の主張が限りなく小さくなる。無視しても問題ないことになるわけです。自分たちの国についていわれのない中傷をするという思いがあろうが、相手が勝手に喚いているだけということになる。問題の本質が大きく変わったのに、そういうことがわからない人が多いのでしょうかね?

 

 そういえば、今回のような 合意についてはこの本が参考になるということを教えていただきました。思い出したら読みたいと思います。

  国際「合意」論序説―法的拘束力を有しない国際「合意」について (現代国際法叢書): 中村 耕一郎

*1:中国もありますけど、同盟圏ということで今回は置いときます