てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

日馬富士暴行事件の解説① 組織としての危機管理の認識の甘さとその能力の欠如


 相撲カテゴリがあるスポーツの方で書こうとも思いましたが、タイムリーな時事ネタで、他にあまり書くこともないのでこっちで。本当は選挙の話を先にしたかったですけどね。まあ、いつもの主張と変わることもないので目新しい話はできませんし、こちらから。

 

ポイント・要約
○報告義務を怠った加害者日馬富士だけでなく、部屋の管理責任者の親方である師匠伊勢ヶ濱親方に重い責任がある。 
○報告義務を怠ったという点では貴乃花親方も同じ。
○また協会への相談なき被害届の提出は理事という責任ある立場からして問題ある行動 
○我々が本当に問題とすべきは責任あるものたちの誰一人も報告義務を守っていないこと 
○問題発生→報告→担当部署→協議・処分という当たり前の順番の不成立。組織が機能していないこと
○常設の強力な機関・不祥事に取り組む専門部署を作るべきだったのにしていなかったこと=抜本的な不祥事対策をしていなかったことこそが本当の問題
○取りうる対策・監視員制度などを導入すべき
○今回も不祥事対策機関の新設・常設機関化を怠った。監視員も導入しなかった。問題の本質は変わってない以上、不祥事はまた必ず起こる。


■責任の所在は?一体誰が悪いのか?
 横綱日馬富士による貴ノ岩暴行事件によって、日馬富士が引退するということになりました。この件で誰が悪いのか、誰に責任があるのか?という視点から色んな意見が語られました。相撲協会及びそのトップである八角理事長、協会に報告せずに警察に被害届を出した貴乃花親方、加害者と被害者の当事者である日馬富士貴ノ岩日馬富士の親方である伊勢ヶ濱親方、果ては同席していた横綱白鵬までが悪い云々という意見が飛び交うことになりました。

 身内・相撲界の不祥事について協会に報告もせずに警察にいきなり行く、刑事や民事事件にまで発展させようとする貴乃花親方の振る舞いははっきり言って正常なことではありません。まず組織の人間としてしっかり報告すべきだった。経緯を見ると、日馬富士の親方である伊勢ヶ濱親方に相談、それを聞いた伊勢ヶ濱親方は協会に報告せずに示談してほしいと貴乃花親方に相談。それに不信感を持った貴乃花親方が警察に被害届を提出―という流れのように見えます*1

 貴乃花(以後親方略)としては、伊勢ヶ濱に話を通した際、彼が協会に報告をして、協会の裁き・処断を待つという態度をとると思ったのでしょう。ところが伊勢ヶ濱は協会に報告をしなかった。本来協会に話をして、それから協会の判断を仰いで今後どうするかの処分を待つべきだった。業を煮やした貴乃花は埒が明かない!と憤って警察に行った―とまあ、そういう流れのようです。

■一番責任が問われるのは報告を怠った伊勢ヶ濱親方
 この件について、他の部屋の親方である貴乃花から事件を知らされた伊勢ヶ濱は事態がどうなるにせよ、協会に真っ先に報告するべきだった。その上で貴乃花に色んな話をつけるべきだった。一番悪いのは、事件をこじらせた真の要因は、伊勢ヶ濱親方だということは間違いないでしょう。

貴乃花親方の行為は組織に所属する人間として逸脱している
 が、しかしこれは貴乃花の正当性を担保するものではありません。貴乃花伊勢ヶ濱の行動が不当なものである・間違っていて事態が進展しない時、すべきことは警察に被害届を出すべきことではなく、協会に事件の経緯を報告することです。組織の人間である以上、警察に行く前に協会に報告義務がある。これを怠った貴乃花親方が非難されるのは当然のことです。

 ここで抑えてくべきことは、貴乃花が間違っているわけではありません。貴乃花が警察に行く・行かないの是非はともかくとして、何よりもまずホウレンソウを怠ったことが問題になるわけです。暴力事件が起きて警察に被害届を出すこと自体は別におかしな話ではないのです。しかしそれより前に通すべき筋がある、協会・八角理事長に「警察に行く」という相談・報告を何故しなかったのか?なぜワンステップ挟まなかったのか?これが全く理解出来ない、言語道断な行為なわけです。

 警察に行くという確固たる意思を翻さなくても、「これこれこういう理由で警察に行きます」「警察に行かない限り真相は明らかにならない、業界の自浄作用能力が働かない」などきちんと説明しなくてはならなかった。きちっと報告して筋を通していたら、貴乃花の印象はまるで変わっていたでしょう。協会の理事という立場にありながら、協会・組織の意志決定に参画する者でありながら、なぜこんなことをしてしまったのか、理解に苦しみます。これは相撲協会の人間が反発するのも当然でしょう。どちらかというと、貴乃花の改革に期待する立場である己も、これには開いた口が塞がらない暴挙でした。

 もし、貴乃花がきちんと筋を通していたら、協会に報告をして、しかるべき部署(この場合危機管理委員会)で日馬富士に対する処分を話し合って、そこで処分を決着させていたら…。その後で警察に話を持っていったとしたら…。貴乃花に対する評価はまるで違っていたものになったでしょう。

日馬富士貴ノ岩も、伊勢ヶ濱貴乃花も誰も報告せず
 また、日馬富士貴ノ岩もこの出来事を親方に報告していなかった。この事件は時津風部屋の暴行死事件とは一線を画するもの。閉鎖的な一つの相撲部屋内部での事件ではない。兄弟子が暴行を加えたという点では同じですが、同じ部屋に所属している兄弟子ではないこと。そして何より親方が暴行を加えたという点で大きく異なります。親方と兄弟子=部屋の責任者と先輩では意味するものがまるで違うのです。
 今回の事件を時津風部屋での事件と働いている力学が同じとか、同一視するのは無理があります。角界の変わらぬ体質とか無理やり結びつけて論じる傾向が見られましたが、一つの部屋の腐った体質と部屋外部で起きた今回の暴行事件とは、次元が異なる話です(一つの部屋の―とはいっても無論、その他の部屋でも親方・兄弟子が弟弟子にパワハラ・暴力を加えることがないわけではないでしょうが)。
 今回の事件で角界の変わらぬ体質!!と大騒ぎをする人というのは、そもそも暴力事件が起こるなんてトンデモナイ!!という前提が故の発想・主張なのでしょう。暴力が悪い・許されないなんていうことは当然として、角界という世界を考えれば否応なく喧嘩や腕力に任せたトラブルが起こるのは必然。問題は、いかにそのような事件が起こらないようにするかということ。いかに発生件数を減らし、いかに悪質なものから軽微なものに抑えるかということ。そしてその不祥事をいかに裁くかというガバナンス・管理の問題なのです。例えるなら交通事故のようなもの。車がある以上、交通事故は避けられない。故にどうやって最少被害に抑えるかと論じるもの。理想論か現実論かという違いがわかってないのかもしれません。理想論通りになくせればいいですが、スポーツ選手・アスリートの不祥事をなくせというのはまず無理ですからね。格闘技であり荒っぽい世界であれば尚更です。

 話を戻します。本当に問題とすべきは、報告義務の無視・不履行なのです。今回のような事件が起こった際に、当事者が力士なら力士は、親方や協会に必ず報告をしなくてはならない。親方も同じで、親方が何らかのトラブルを起こしたり、把握した場合、協会に必ず報告をする義務があるのです。本当の問題は、力士・親方がそれを怠ったことなのです*2

■不祥事対策に取り組まなかった故の必然の不祥事発生
 野球賭博八百長などの不正行為、前述通り部屋内部での暴行などで協会の管理体制の甘さが問われた。不祥事を受けて、相撲協会は取り締まりを徹底的にしなくてはならなくなった。どんな些細な事件でさえ、親方や協会に報告義務がある。その報告を怠った日馬富士が引退に追い込まれるのはごく自然な話といえるでしょう。

 ところが、当然こういった道理・常識を角界が共有しているとは思えません。こんな当たり前の道理もわからないからこそ、これまで数々の不祥事を起こしてきたわけですから。
 
 2012年に危機管理委員会が設置され、不祥事が起きた時の担当部署としてあるわけですが、常設の強力な組織ではない。無論名目としては、常設なのでしょうけど、不祥事が必ず起こるものとして重要なポストとして作られてはいないでしょう。

■危機管理意識の乏しさを証明する天下り受け入れと兼職
 ちなみに初代委員長は宗像紀夫氏(元東京地検特捜部長)で、16年に高野利雄氏(元名古屋高検検事長)が委員長に就任しています。典型的な天下り受け入れ人事であり、天下りさえ受け入れていればなんとかなるだろうという甘えがそこに見られます。

 危機管理部長は、鏡山昇司理事(元関脇多賀竜)で、 指導普及部長・生活指導部長・監察委員長・危機管理部長・博物館運営委員―と、かなり多くの役職を兼ねています。本来なら協会のベスト2や3と言った役職の人間、出世人事のルートとして花形役職にならなければいけない部署。それが兼職される一つのポストでしかない。こういう事実一つを持ってしても、いかに危機管理に甘い考えを持っているかわかるものです。

 ※ただし、 10人の理事の内、協会本部の人間とされるのは3人しかいません。そう考えると理事長以下ベスト4に入る要職にある人物ということも考えられます。それでも兼職ということで、不祥事に対する備えが甘いことに変わりはありませんが*3

■導入すべき監視員制度を導入しなかったツケ
 力士は、犯罪・トラブルを起こす生き物、暴行や窃盗など刑法に触れる行為をする。八百長もするし、違法な賭博にも手を出す生き物。そういう認識を持って、常に目を光らせないといけない。そういう力士の行為を取り締まる組織を作らなかった、その時点で今回の事件が起こることは必然だったといえるでしょう。

 相撲という興行から考えると八百長が一番の問題で、その次に野球賭博八百長に賭博が加われば相撲賭博となって、興行が金銭・金儲けのために崩壊するため絶対に許されないこと。

 それとは別の次元の話として、社会的な観点から、組織内部で上のものが下のものにパワハラのレベルを超えて暴行死させるという話があります。これはもう興行云々の話ではなく、社会が許さないこと。

 そういった興行上・社会通念上の二つの問題がある以上、取るべきことは相撲部屋に監視員を設けるしかない。あるいは抜き打ちで調査員を派遣することしかない。部屋の透明化・情報公開を徹底するしかない。部屋内部で「かわいがり」があまりにもひどすぎるということになったら、親方・部屋のトップとしての管理能力無しとして、指導資格を剥奪すること。また監視員による採点、チェックを年度ごとに公開することなどもポイントになるかと思います。

 そして「八百長」については、支度部屋や各力士の通信機器の不定期でのチェック・及び盗聴や監視カメラの設置。付き人制度を超えた相撲協会派遣の監視員を力士につけることなどなど、考えられる限りの対策を取ることでしょう。必要とあらば親方制・部屋制度の撤廃ということも視野に入れなくてはならないでしょう。そこまでやっても個人的に「八百長」というか星の貸し借りという習慣を根絶できるとは思えませんけどね。

■結論
 今回の日馬富士の事件は、度重なる不祥事にも関わらず、組織としての危機管理に対する認識の甘さと対応ルールの共有欠如=未熟さ。再発防止策として然るべき組織の整備とその部署の重視を怠ったことがもたらしたものだということ。今回の事件には組織として行うべきことを怠ったという当たり前の事実・背景を我々は決して見過ごしてはならないでしょう。続きます↓

アイキャッチ用画像

*1:※参照―貴乃花親方がバッシングされても相撲協会と決裂した本当の理由

*2:協会が一手に情報を集約して、マスコミが動き出すよりも先んじて会見を開かねばならなかった理由が書いてあります。いい文章なので一読をオススメします。【日馬富士暴行】相撲協会の「暴走」、貴乃花親方の「警戒」 |

*3:職務分掌 - 日本相撲協会公式サイトより