てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

ロシアは中東になった。

過去記事の再掲です。元は10/11に書いたものです。

ロシアシリーズラスト。
 ゴルバチョフは実は90年1月、バクー出兵をしています。アルメニア人保護を名目にアゼルバイジャンの首都バクーに侵攻。市民約200人が殺されたと。惨劇は「黒い1月事件」と呼ばれました。ソ連崩壊という危機的な時期に欧米の反発を買えばどうなるか?それでも国内の安定を図るために強行的な軍事手段に訴えた。革命的な改革をする指導者には軍事的カリスマが必要ですから当然といえば当然。サッチャーはじめ、欧州の指導者達はコレを認めました(制裁をしてゴルバチョフの失脚にでもつながればマイナスになるのでどうしようも出来なかったわけですね)。

 その後のロシアの行動を見ると興味深いことがわかります。ガスの値段を巡ってウクライナと紛争。ドイツ・EUはロシアの天然ガスを非常に重視しています。重要な資源供給先であるがゆえに、単純なEU(独)VSロシアという図式は成立しません。またシベリアのガスパイプライン構想グルジア南オセチア独立への干渉。言うまでもなく、プーチン自体がチェチェン制圧を機に大統領にのし上がった・権力を確固たるものにした人物です。時系列はばらばらですけど、ソ連崩壊後東欧から手を引いた後は、資源で脅しくらいはあるものの、東欧でEU諸国と決定的な対立をしていません。
 その代わり、中東では決して手を緩めることはない。一時対テロ対策でアメリカに軍事基地使用を認めたり、アメリカの準同盟国といっても良いような蜜月関係を築いていました。もちろん露国内情勢が解決すれば(チェチェン紛争)、終わる関係。イラク戦後、アメリカとの関係は急速に悪化しました。露仏の石油利権をアメリカがパージしましたしね。


ロシアのこの辺の話は広瀬さんの

旧ソ連地域と紛争―石油・民族・テロをめぐる地政学/廣瀬 陽子
コーカサス国際関係の十字路 (集英社新書 452A)/廣瀬 陽子
強権と不安の超大国・ロシア 旧ソ連諸国から見た「光と影」 (光文社新書)/廣瀬 陽子

 が詳しくて、お勧めですね。彼女はこの中央アジアを現地で学ぶ上で、遊牧民に拉致され、その地の習慣にある略奪婚の対象になって、危うく嫁ぎそうな羽目になったなど、ものすごいエピソードを持っている才媛です(^ ^;)

 チェチェンにしろ、グルジアにしろ、中東=資源が眠る地は決して手放さないということですね。東欧への軍事力行使はまずないでしょう。しかし中東では資源戦略の面から決して手放さない。

整理すると、ロシアは
 
①東欧から全面に手を引き、東欧へは軍事的強硬な態度をとらない。
 ②対照的に中東には軍事的強硬な態度も辞さない
 ③「資源大国」として資源をコントロールし、資源を重視する戦略をとる。
―という方針を選択していると考えられます。また、①+②+③から次の帰結が導き出されると思います。


 ④つまり露が望む資源の少ない東欧ではなく、より資源のある中東へ出る
 ⑤中東は軍事力が有効な外交手段足りうるため、露は中東への影響力を発揮し続けることが出来る。
露の国際的パワーを維持できるのは資源・軍事・中東、まあそういう図式が成立しているのではないかと思います。*1

 そういうことが導き出せるため、ヨーロッパ・東アジアという勃興する地域がある中、その二つに挟まれながらどちらにも属せず、南下してユーラシアから中央アジアにでる。つまりロシアという国は中東の大国化したわけですね。国内のイスラム圏もソ連時代に吐き出して、干渉しやすくなったでしょうし。

 ああ、そうそう。それでもコソボ独立への激しい非難なんかあって、バルカンについてはまだ干渉の手を緩めるとは思えないですね。そこらへんは、まぁ考慮に入れる必要があるでしょうけどね。ロシアの優先順位は、①中東②バルカン③東亜―ということになるんでしょうかね?軍事的緊張があればあるほど、ロシアにとっての地域重要性が強まり、その都度変動するのでしょうけどね。EUつまり東欧は重要でも、軍事的緊張がありませんから、それを考慮に入れない以上、彼らが「強硬な態度に出なければならないと感じる何か」がない以上、外交的な懸念・重視する要素の順位には上がってこないでしょう。東亜も不安定性があって、中国・北に何かあればどう情勢が変わるかわかりませんからね。そして大国がわんさかな地域ですし、今のところは②と③が入れ替わっているかもしれません。ただ彼らはモスクワから考えますから。バルカンを重視しているでしょうし、難しいところですね。

 プーチン自身は資源立国から、技術・イノヴェーション立国に転換したいんだとか。独裁的で透明性のかけらもない&自由競争が確立されない状態で何を言っているんでしょうかね?サンクト一極化のままですし、以前も書きましたけど、寡占状態で資本主義ルール浸透後は、自由競争への移行が重要なのです。

 最も興味があるのは、次の大統領に再選されたプーチンが自己の基盤を切り崩して自由・民主的な勢力をどのくらい育成できるのか。その転換を行わずに「ツァー リ(書記長)」になるならば、ロシアは21世紀ずっと、停滞し続けるでしょう。資源頼みで価格が暴落したらどうなるかわかりませんしね。

*1:④で東欧に資源がないと主張しているように思えますけども、あっても対EUなど障害が大きいのでそのリスクを迂闊には冒さないということですね