てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと 宇佐美典也著

30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと/ダイヤモンド社

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 さて、前回(体罰一考 本質は徒弟制&武道に体罰の発想はない)を書いて、続きとしてこれを選びました。ちょうどこれを論じるのには最適だといえるものだったのでね。

 古賀茂明批判でこの人のブログ(アメブロで色々書いているみたいです)があげられていて、本を出しているというので興味を持ち、んでみました。正直、ハァ~とがっかりして一日気分が塞がるような暗澹たる思いになりました。(´-ω-`)

 本の煽りを見てもああわかっていないんだなぁ、この人という感じですね。純粋に国を良くしたい!という思いを持って官僚になった若手が視聴率、票稼ぎのために利用されて、叩かれる。そして理想と現実のギャップに直面して官僚は辞めていく…。このままでは官も国も良くならない!―という煽り・キャッチコピーですが、まあ、もう本当になんとも言い様がないですね。

 官僚批判本はいくらでもあると思いますが、その中のどれでもいいのでそれを取り上げて、「~氏の主張はここはその通りで変えるべきだが、ここは現場・現実を知らない見当違いな批判である」―そういった建設的な意見は何もありませんでした。

 筆者はなぜ、官僚が叩かれるのか、日本の官僚制・霞ヶ関の問題の本質はどこにあるのか理解していない様子。表層な官僚叩き、なんとなく官僚ってずるい!汚い!的な思い込み、質の低い批判・バッシングしか目にしていないのではないでしょうか?

 天下りは一概に悪いとはいえない、キャリアとノンキャリアは職務の違い―こういった主張を見ていると、いやそりゃそうだろ、論点はそこじゃねぇからぁ!と突っ込まざるをえない。よくある質の低い問いを前提にしているからそれに対する反論も低くなるという、カウンターパート型の本・論文として前提をそもそもわかっていないから失敗したというパターンの典型的な失敗例になっていますね。

 本をテキトーに眺め読みして、感じたことはこの人頭いいなぁ~ということ。目の前に与えられた問題について、制限された問題について、きっちり要点をまとめて、答えを作ってくるというのはやっぱり官僚だけに優れていると感じました。しかしそれは尽くミクロの視点。マクロの視点がないから、そもそも見当違い、それを論じてもそもそも前提が成立していない、前提が無効になっているから意味が無いんだけどなぁという感想を持ちました

 末尾で本書は官僚本のリタイヤした内部告発型、キャリアを終えて学者などに転身した学者型、自分の生涯を振り返る、自伝・履歴書型の三つに分類していますが、途中でセミリタイアしたので変則の履歴書型でしょうが、それとともに内部告発の要素を持たないとこういう本は成立しないはずなんですよね。何から何まで内部組織に終始して、官僚制の悪に迫れ!とは言いませんが、内部告発の要素がない、内部組織の問題・腐蝕について全く不自然なまでに触れられていないのは奇妙ですね。

 官僚制の間違っている点、反省し無くてはならない、制度改革をし無くてはならないを指摘しつつ、世の官僚叩きは間違っている。官あって国(国民)がある、また逆も然りで国あって官がある、適切な関係をいて初めて日本が繁栄する!そういう風に持って行かないと説得力ゼロだと思いますが。官僚制の問題半分、官僚バッシングの間違い半分の半々で語らないとそもそも説得力がないですよね。なんでこういう構成にしたのか疑問ですよね。

 まあ、そんなことはおいといて前回からのリンクのを話したかったので、そちらに触れます。筆者がセミリタイアしたのは給料安い&残業多い(月100時間)ということです。まあ給料安い、世間で言われているほど待遇が良いわけではないというのは置いといて残業で身も心もボロボロに成ったと。この点は確かみんなの党の江田さんも言ってましたね。どの本か忘れましたけど、そういった一日中働きまくりで死にかけたと。そういうシステムを変えたいから政治家になったとも書いてありました(だったら、江田さんのように政治家に転身して制度を変えるのが筋だと思うんですけども…)。

【日本ブラック社会・企業の端緒は官僚制にあり】

 官僚の24時間働けますか!という制度を見ていると、日本社会の本質がよくわかりますね。官僚というトップの組織がブラック企業なんですね。だから必然、その他の社会、会社が同じようなブラック労働させていても、取り締まられるわけがない。それが常識だ!生意気言うな!俺だってこんなに頑張ってるんだから!北京だって頑張ってるんだから!お前らも死ぬまで働け!みたいな思い込みの上に成立しているのでしょう。

 霞ヶ関のブラック環境を見ると、次のような精神が培われることが容易に想像出来ます。「若いうちに安月給で酷使される中普通の人達は余暇をやれリゾートだ、デートだと楽しんでいる。それにひきかえ、自分たちエリートは休む暇もなく楽しむべき若い世代の貴重な時間を犠牲にして、国家のために働いている。だから国家に自己献身的に奉仕したエリートたちは生涯生活が保障されてしかるべきだろう、天下りで生涯おいしい生活を過ごすのは当たり前だ。だから官僚が生涯に渡って大金もらって何が悪い。」

 ういう精神がやしなわれ、そういう官僚たちが天下りを確保する。まあ、こんな図式が成立しているのでしょうね。

 特権的な待遇で老後まで一生安心して過ごせるのは若い時に頑張ったからだ!―これを見て何か連想しませんか?そう受験制度と全く同じメンタルですよね。若い時に頑張って、それによって大きな対価をえるという、意味不明な等価交換(若い貴重な時間=高価報酬)を成立させる歪んだ社会制度。このシステムは学生という身分全員に与えられる通過儀礼ではなく、官僚・霞ヶ関に延長して適用される。彼らは更にもう何年、何十年もこの歪んだシステム下で生きていくんですね。

 日本社会の病理の根源の大きなものの内の一つとして、受験・科挙ありますが、ブラック企業・極めて劣悪な労働環境にまで直結していると見て間違いないでしょう。

 ブラック企業労働環境を社会の公理としてスタートするから、必然的に体育会系が重視される。よく企業で体育会系が優遇されるのは、優秀でも体力ないとやっていけないという面が大きいからでしょう。官僚の一日中缶詰というのを見るとまず体力がないとやっていけない、力仕事だというのがわかりますからね。要するに体育会系という制度は日本の制度に不可欠なものとして組み込まれている。そうである以上、そこにメスを入れない限り、体育会系の体罰という問題もなくならないでしょう。

 官僚制の問題の本質として、膨大な作業なくして日本の立法が出来ないという前提がありますね。法案作る際に全部の法案検討して、その法案に反していないかチェックをしないと立法が出来ないというアホな制度になっている。だからものすごく膨大な時間・作業を必要として、現場で働く官僚は死にかけるわけです。

 そんな馬鹿なことやめて、新法作ったら、昔の法律は自動的に廃止及び新法が優先される制度に変えればいいだけです。優秀な官僚が居なければ国が動かない―この前提がそもそも間違いであって、官僚にブラック労働させる必要がそもそもないんですよ。前提変えて労働時間半減させて、給料ももっと上げて、年金制度も整備すれば天下りはなくせますよ。逆に言うとその本質を押さえていない、天下り廃止!なんて威勢のいいことを言う政治家は掛け声だけウソ、リップサービスと見て間違いないでしょうね。

 日本の議員が立法出来ないのも、この立法制度の難しさにあるわけですからね。国会における立法革命をやらない限り、日本民主主義復活はありえないでしょうね。

BLOGOSに記事がありましたキャリア官僚だって人間

 半導体業界の国家プロジェクトの再編―こういう作業に従事して関係を調整する仕事などが官僚の本であり、素直に尊敬できる点ですね。

 古賀・高橋をドロップアウト芸人、仕組みを作れず・代替案を示せずに天下りが悪い、内部の官僚が抵抗して潰しているは陰謀論

 ―なるほど、制度的にこうすれば改革できるという代替案がきっちり示せていないという批判はこのような脱藩官僚系の主張において、本当に代替案があるのかどうかチェックしながら読むのは重要ですね。ただ古賀氏のやってることは官僚の役割からはみ出したことであり、ルール上アウトというなら、今霞ヶ関で起こっている官僚の行政権力の肥大化にも触れないと公平ではないですね。古賀氏の行動より、そちらのほうがはるかにたちが悪いですから。

 古賀氏と同じ年次の人たちがレアメタル対策をきっちりやってきた。いずれ問題になるからとだから中国のレアメタル輸入禁止にあっても対応ができた。こういう対応、優れた仕事をした人にスポットが当たらないのはおかしい。―その通りですね。まあ官僚の問題を報道できないくらいですから、功績もまともに報道できないんでしょうけどね。

 長妻は評判が悪かった―ここは抽象的すぎる、何がどう良くなかったのか伝聞をそのまま伝えているだけで分析になっていない。井戸端話レベル。

 事業仕分け天下りOBとの不正常な関係がある程度浄化されたのはいいこと。なるほど、しかしなんか浅いなぁ。ある程度???そんな小さい話で済むことかしらん?

 官民交流は大企業とやると既得権強めるから、ベンチャーでやるべし。ふむ。

―まあ、こんなの見ていると官の常識・価値観どっぷりですが、学習次第、出会った人次第ではまともな事を言うようになるかもしれないなぁと感じましたね。外に出て10年くらいで価値観が変化しなければ、まぁそのまんまになるんでしょうけども。そういう意味では変化したら注目を大きく浴びることになるかもしれない人ですね。