てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

イランの核武装容認で同盟を結ぶべきか?

フォーリン・アフェアーズ・リポート2012年2月10日発売号/フォーリン・アフェアーズ・ジャパン

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いまこそイランを軍事攻撃するタイミングだ― 封じ込めは最悪の事態を出現させる(マシュー・クローニッグ)を読んでいて、米はイランの核武装を承認する代償としてイランと同盟を結ぶべきではないか?というロジック・ストーリーを思いついたので、別枠にして書いてみたいと思います。

 イランを今アタックして核武装路線を放棄させねば、中東に関与政策を取り続けなければならなくなり、コストが跳ね上がる。よって叩くべきとこの記事では説かれています。
 イランの核武装によるリスクについて―核武装になれば、核拡散リスクはもとより、核兵器保有すれはイランの軍事的優位が高まる上、核をバックに通常兵器による軍事攻撃や配下のテロ集団を使ったイスラエルへの攻撃などしやすくなる。
 しかも、イランとイスラエルは、冷戦期に米ソが核戦争を回避するのに役だった一連の保障措置が機能しないと考えられる。堅固な抑止力として機能する第二撃能力や、緊急時の意思疎通のためのホットライン、弾道ミサイルが目標に到達するまでの時間的猶予に、核の兵器庫を管理していくノウハウもない。―というのが、まあ読んだ記事のメモ。でこっから思いついた話を少し。


 要するに、イラン核武装によるリスク・不安定化は計り知れないということですよね。まあ、核武装する前にこれらのことがなされていて、最終的な着地点が定まっていれば、ウォルツが主張していた核武装による中東情勢の安定化ということも考えられるのでしょうけどね。
 イランの核武装という主張はイスラエルの敵対心というか敵対外交によるものなので、イスラエルとの共存を図る。つまり協調外交を目的としたものでないと国際社会がイランの核武装を承認するのは難しいでしょうね。
 対立があるからこそ核武装という危機が起こっているのに、イランが核武装を達成する道を探すと、あり得るロジックは、エジプトのようにイスラエル敵視政策を止めなくてはならないという矛盾が成立しますね。
 そんなことは因果関係を逆転させているだろ!無意味な仮定だろ!と思われるでしょうけど、面白いIfなので少しいろいろ考えてみました。

 イランはどうやったら核武装が出来るのかという逆算をすると、イランに核を管理しても問題がない、リアリズム外交を実行出来る軍事政権でも誕生しない限り難しいという計算になります。
さらに逆算を進めて、このような選択肢を成立させるとすると、核武装を容認する代わりにイランの軍人達に政権を運営させる。軍事政権によって国内のイスラム勢力を抑えこませるというストーリーが考えられます。
 イラクでもエジプトでも、まあそういう流れがかつて存在したわけですが、イランでその可能性はありうるのでしょうか?あるとするならば非常に面白い。軍人なら戦争も辞さない!米何するものぞ!という強硬派のイメージが有りますが、そういう勢力も多いでしょうが、軍人は大抵リアリストですから、そんな馬鹿なことをやって勝てるはずがない。それよりも、改革開放路線。近代国家として富国強兵を選択しなければ、イスラエルに最終的に勝つなんてことは無理、ここは一度米と手を結ぶべきだ!―なんてことを考える改革派(?)また対米穏健派なんてのがあってもおかしくはなさそうなのですが、そういう可能性はないのでしょうか?軍人はイスラム革命系の人達が多いとか?そういう構造になっているのが現状なのでしょうか?


 で、もう一つメモ―実際、イランが核武装をすれば、イラン封じ込め戦略が必要になる。脅威を瀬戸際で食い止めるには、米陸海軍の部隊、核戦力を現地に投入し、数十年にわたって中東に大規模な戦力を配備しなければならなくなる。しかも、イランによる核技術移転の試みを監視するための情報インフラを現地に確立し、ほぼ永続的に運用する必要も出てくる。同盟諸国の防衛力強化、例えば、イスラエルによる潜水艦発射弾頭ミサイル(SLBM)の整備、第二撃能力を温存するためのミサイルサイロの硬度強化を助けるための大きな投資も必要になる。さらに、封じ込めを信頼できるものとするには、中東の同盟諸国に核の傘を提供し、「イランが攻撃してきた場合には、軍事力を用いて防衛する」と約束しなければならない。

 ―要するに、核武装したイランを封じ込めるには、中東から撤退しようとしている米の戦略に逆行することになり、米のコストは計り知れなくなるということですね。イランがアメリカの利益に対して敵対的な路線をとる限り、おそらくは数十年、あるいはそれ以上にわたって、現地にとどまらなければならなくなると。そうなれば米の戦略上、真に困ったものになるわけです。

 というわけで、中国の挑戦を受けている米にしてみれば、中東の安定を達成して、中国に全力を注げるような新同盟国を持つことはかなり選択肢としてありえると思うんですけどね。エジプトがムバラク政権が崩壊して、半軍事政権みたいな形でごたごたしていますが、エジプトと同盟(非公式ですが)を結んだ時のケースのように、イランと同盟を結んで外交的な革命を図るときではないか?という気がするんですよね。

 イランは今の米の危機につけこんで核武装という外交成果を達成するチャンスなんじゃないでしょうか?仮に50年・100年後情勢が変わって、イランは核を放棄すべきということになっても、じゃあイスラエルも核を放棄してフェアな環境にすべきだという話になるでしょうからね。

 まあ、米と同盟を結ぶような軍事政権が誕生して、イランの現実的利益を追求するようなリアリスト政権なら、そもそも核武装の必要性はなくなるのですけどね。前述通りイスラエルの核を放棄させることで十分でしょうし。それを含んで、五大国+独にイスラエルとイランなどを含んだ枠組みでパレスチナとかの安定化など外交戦略を追求していくでしょう。軍事政権の誕生はそもそも、イラン革命時代の宗教的目的を達成するという路線の放棄でしょうからね。これがなされれば中東情勢の一大転換、米欧・国際秩序維持派の悲願と言ってもいいほどの革命的変化でしょう。

 今、米は衰退・停滞の中にあって、チャンスだ!なんて考える国・勢力もありそうですが、結局国際秩序・覇権をコントロールしているのは米ですし、いくら中国が台頭しても、それに取って代わる力はない。現行国際秩序をコントロールする能力・新国際秩序を形成する能力はない。米が破綻するようなことになっても、新しい秩序がより米にとって不利なもの、米に対するコントロールが強まる形になっても、米が全く力をなくすことは考えられませんからね。米を中心においた形で、再編し直すということになるでしょうからね。

 つまり、米が衰えているからチャンスだ!ではなく、米が弱ってるからこそ、自分たちが有利な条件で講和をするチャンスなわけです。そのチャンスをイランは逃すべきではないと思います。このチャンスが過ぎれば、イラン有利の条件で交渉を締結できるような事態は二度と来ない気がします。

 イラクもシリアも不透明な情勢にあって、情勢安定に多いに役立つイランの軍事政権樹立というのは、今最も有意義な選択肢なのではないでしょうか?王族・軍人・イスラム勢力といった三つのファクターが重要な中東でイランで軍人が台頭する道はないのでしょうか(あと部族政治・部族の長老という要素もありますが…)?もし実現すれば、歴史的な転換点になると思うので非常に面白いと思うのですけどね。

 ※追記、イランが大国として歩むとするならば、軍事政権→文民政権への移行という形がベストだと思います。このステップがイランの地域大国化に不可避な流れですが、それにはイスラム大国・イスラムの価値観を我らが担っている・守っている!米欧主体の秩序なんか知ったことか、それよりイスラムの価値観に沿った世界のほうが大事!―という根底の規範が変化しないとなりません。軍人だけでなく、そういった思想・規範を新しく現代のものに合うように変えていく事ができる宗教家もまたポイントでしょうね。偉大なリーダーが2つの領域で必要になるでしょうね。まあそんな偉大な指導者が同時に二人もそうそうはでないでしょうけどね。