てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

米の後退戦略 Joseph Parent/Paul Macdonald

フォーリン・アフェアーズ・リポート2011年12月10日発売号/フォーリン・アフェアーズ・ジャパン

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 ーから、米の後退戦略・軍縮などの話が面白いので、これで一本独立して。まとめると長いし、そんな更新もできないし、じゃあ一本で独立させていけばいいかという短絡的な思考。今の米外交の基調だから、重要なんです。重要だからちゃんとわけたってことなんで、尺稼ぎも、まあ多少はね?

外国からの米前方展開軍の撤退を ― 軍事的後退戦略で米経済の再生を

/ジョセフ・M・パレント、ポール・K・マクドナルド (マイアミ大とウェルズリー大の政治学の人ですね)

 The wisdom of Retrenchmentとあるように、Retrenchment後退戦略の確立が重要だと主張していますね。ひょっとして9.11以後民主化ドミノ理論を追求していたネオコン以外に、イラク戦争で米の介入を減らしたいという一派の思惑もあったのでしょうか?このようなRetrenchment派が、戦争は反対だけども、そうなったらなったで、後退戦略とれるからまあいいかという勢力・思想を持った人がいたとかあるんですかね。

 まあ、そういうことでもし米が撤退すれば世界は不安定になるという人々がいるけど、同盟諸国と協調したり、やりようによってそういう事態は防げる。後退しても米が介入するという可能性を示せば、おいそれと軍事手段に訴えることはないですしね。

 対外コミットメントを後退させることで、アメリカはより大きな戦略的柔軟性と長期的な成長を促進する資源を手にできる。「対外コミットメントを後退させる戦略は抑止力を損なう恐れがある」、新興プレイヤーを大胆&増長させるというカウンターパートがあるが(カプランなど)、それは間違った前提に基づいたものである。

 「敵の冒険主義に対する最善の盾は前方展開軍による防衛である」とする認識を前提にしている。敵対勢力の国境近くに大規模な基地・軍事力による有事の際の迅速な対応こそが重要であるという考えだ。これは確かだが、今の米の問題、危機は受け身で防衛的な路線をとったときではなく、積極路線をとったが故であるということを考えるべきだーと。

 アメリカが主導したイラク戦争は、ドイツやトルコのような重要な同盟国を離反させ、結果的にイランの地域的な影響力を増大させてしまった。NATOの東方拡大路線も同盟関係を緊張させただけではなく、(拡大を警戒する)ロシアによる

グルジアウクライナヘの野心的な路線を誘発した。

 より一般的にみても、アメリカの前方展開軍が大国による領土的野心を抑え込む効果があるかどうか、いまやはっきりしなくなってきている。領土を獲得し維持するのは、これまで以上にコストのかさむ危険な行動になっているし、そもそも諸大国は、領土拡大への意図も関心もほとんどもっていない。一方、アメリカの主要な同盟国は、自国領土を防衛し、近隣のライバル国を抑止する力をもっている。

 もちろん、米軍の撤退によって、無謀なライバルが想定外の無謀な行動をとるリスクは排除できないが、そうした事態になっても、アメリカは通常戦力、海外展開能力の優位を利用して「迅速な介入」という選択肢を準備できる。実際に介入すればかなりのコスト負担になるが、後退することのリスクと現状を維持することのリスクを比較考量すべきだ。困難な財政状況にある以上、アメリカは優先順位を付ける必要がある。超大国にとっての最大の脅威は、地域的な危機に遅れて介入することではない。むしろ、帝国意識から過剰な関与をしてしまうことだ。これこそ、アルカイダのような敵対勢力がアメリカを引きずり込みたいと考えている構図に他ならない。

 対外的軍事コミットメントを低下させても、友好国やライバル国がアメリカの信頼性(クレデイビリテイ)を疑うことにはならないだろう。事実、憂鬱な予測がなされたものの、冷戦後における西ヨーロッパからの米軍撤退がNATOを衰退させたわけでも、アメリカのクレデイビリテイを失墜させたわけでもない。同様に、駐韓米軍の削減と再配備は、緊張が高まることも多かったワシントンとソウルの関係を逆に改善した。日本により大きな防衛上の重荷を引き受けるように求めた結果、日米の部隊の統合度は強化された(この流れで沖縄の基地縮小を主張していただきたいものです。一つ言えることは間違いなく今の米の流れにおいては基地縮小が不可能ではないということですね)。

 要するに、前方展開軍の重視は、冷戦時代の古い思考で現状にはそぐわない時代遅れのものだと。そのとおりでしょうね。

 ロナルド・レーガン以降の二つの政権は、議会の反対を抑えて、最終的に100の基地を閉鎖し、570億ドルを節約。2010年の国防予算でも、オバマ政権は、ロビイスト、議会メンバー、空軍幹部の強い反対にも関わらず、F22ラプターの調達計画をキヤンセルすることに成功した。さらに、海軍のステルス駆逐艦艦隊、陸軍の次世代軍用車のさまざまな部品の予算計上もキャンセル。後退戦略が政治的に非現実的・不可能だとか、これにより不安定化や衰退を招くだとか、国内政治要因によってこの改革が妨げられるとは考えづらい。世論を見てもこの戦略に賛成だし、議会でも民主党・共和党が協力する流れ、と。

 1870年以降、特定の大国がGDPで他の大国に抜かれたケースは18ある。このうちの15のケースで、衰退途上の大国は後退戦略をとって改革を実施したが、それによって攻撃を誘発することもなく、軍事対立は回避され、最終的に、かつての地位を取り戻すことに成功している。

 一方、改革と後退戦略をとらなかった衰退途上の3カ国、つまり、1880年代のフランス、1930年代のドイツ、そして1990年代の日本は、1880年代のロシア、20世紀初頭のイギリスを含む他の15カ国とは違って、かつての地位を取り戻すことはなかった。

 後退戦略にはさまざまなやり方がある。一つは、対外関与と資源投入の対象を周辺的な利益から中核的な利益へとシフトさせるとともに、もっとも価値の高いし理的、機能的な地域への投資を維持していくやり方だ。これによって偶発的な衝突のリスク、地域パワーが対決路線を選ぶインセンテイブを低下させることで、新興の敵対勢力との潜在的なフラッシングポイントの数を減らすことができる。ーとありますが、日本の後退戦略・オーバーコミットメントって一体何なのでしょうか?ちょっとよくわからない所ですね。

 後退により否応なく「巻き込まれる」立場から介入を選択できる立場に変わる事ができる。中核的な利益に絞り、周辺的なそれへの介入を減らすべき。ケート・インステイチュートのクリストファー・プレブルの研究によれば、アメリカの納税者は国防のために平均で2065ドルを負担しているが、イギリス、ドイツ、日本の一人あたり国防負担はそれぞれ1000ドル、430ドル、340ドルにすぎない。

アメリカの伝統的な同盟国は、われわれよりもはるかに小さな国防予算で、自国の死活的な利益を守っている。西ヨーロッパや日本の領土保全は脅かされてはいないし、アメリカの同盟諸国が、自国の領土を防衛するのに独自の対外展開能力を必要としているわけでもない。

 NATOリビア介入は多くの側面で欠陥を抱えていたが、アメリカが主導権をとらなくても、同盟パートナーが複雑な軍事任務をこなせることを立証した。このように同盟国に任せていくべきだと。

 ロシアは依然として「近い外国」に介入し、近隣諸国を自国の意向に従わせようと石油やガスの禁輸策をとっているが、西ヨーロッパは、ロシアが攻勢を強めても十分に対抗しているだけの資源をもっている。

 もちろん、より自立性を高めたヨーロッパが一貫した安全保障政策をとるようになり、ワシントンとは異なる視点で世界の出来事をとらえるようになるには、まだかなりの時間がかかる。しかし、アメリカが後退戦略をとり、対米軍事依存を減らさざるを得なくなれば、ヨーロッパ諸国は防衛、軍事力の近代化、戦略と能力の統合に向けてより多くの投資をするようになるだろう。ヨーロッパ戦域での米軍戦力を40~50%削減しても、ヨーロッパの安全保障が揺らぐことはない。

 ヨーロッパの自律を促す戦略で正解だと思うのですが、アジアにその視点はないようですね。ヨーロッパ並は当然難しいと思うのですが、技術援助とか二国間関係の促進とか既存ロジックの延長になっています。日韓の規模20%縮小とあり、緊急展開戦力で十分というのもこれまでのトランスフォーメーションのそれですしね。兵力削減=予算・人命であって、基地は頭にはないでしょうね、おそらく。つまりは日本とかそういった同盟国や駐留国の国内事情を理解した上でのものではないということでしょう。

 テロ・ゲリラ戦争での成果は少なく、人的・財的コストは大きすぎる。こうしたものからは当然距離を置くべき。

 アメリカが西ヨーロッパにおける中核的利益に焦点を合わせれば、そもそも関与するのが賢明とは言えない、グルジアモルドバの非ロシア系民族の擁護というコミットメントから解放され、ロシアとこれらの諸国との問題をめぐッて、ワシントンがモスクワと衝突する危険も小さくなる。アジアにおけるコミットメントの幅を小さくすれば、台湾の地位や南シナ海における領有権論争をめぐってアメリカが(中国との)衝突に巻き込まれるリスクを抑えることができる。

 ーだったはずですが、ウクライナの問題がある今、グルジアモルドバについては否応なく関与せざるを得ないですよね。さて、そこら辺どうなりますか?

 中東からの権威主義政権への関与を減らして、民主主義を標榜しながら支援するというダブルスタンダードの批判をかわせるようになると。これについては同盟結んでいる以上、どうあってもその批判を避けるのは無理のような…?アフガン・イラクから撤退して、予算を減らすことは当然なのでしょうが、では撤退後の安定は?がロジックとして弱いですかね。

 ゲーツ前長官が努力したにも関わらず、2012年の国防予算には、戦略価値があるかどうか疑間のある兵器システムの調達予算が数多く入り込んでいる。オバマ政権はさまざまな弾道ミサイル防衛システムに100億ドルを超える予算を計上している。また100億ドル近い予算をF 35戦闘機のために計上している。米政策研究所(IPS)で開かれた専門家による超党派タスクフォースは、米政府は、2012年国防予算の八つのプログラムを対象に770億ドルを削減できると結論づけている。新型潜水艦や、空母を2隻以上保有する国が他に存在しない環境で、11隻目の空母建設計画への事前支払いに5億ドルを計上するのが建設的だとは思えない。同様に、今後10年間に米核戦力に1000億ドル投入することに意義が大きいとはいえない。

 国防予算を大幅に削減すれば、ペンタゴンも、他のアメリカ社会同様に「変化する世界におけるアメリカの役割」を再検証するようになるはずだ。現在のペンタゴンの調達計画の問題の一つは、海軍の320隻からなる艦隊、空軍の2200の航空機編隊という現実を説明できる論理的な根拠や目的がはっきりしなくなっていることだ。

 「中国の攻撃から国際貿易ルートを守ること」が、こうした軍事プログラムを正当化する根拠として指摘されることが多い。だが、「アメリカの第3の貿易パートナーと衝突して、いかに自国経済を守るつもりなのか」という問いへの答が示されることはない。新たな兵器システム調達のコストとベネフィットついての評価が示されていないため、これも愚かな高い買い物に終わるかもしれない。

 米軍は空母、第4世代戦闘機、機甲部隊戦力については圧倒的な優位をもつている。いかなるライバルをも寄せ付けぬ優位を確立している領域の兵器システムのために、さらに資金を注ぎ込む理由はほとんどない。さらに、技術変化のペースの早さ、特に、対艦防衛、対空防衛能力のペースの早さからみて、生産を終える頃にはすでに時代遅れになっている兵器システムに資金を注ぎ込むのはばかげている。

 対照的に、すでに能力が立証されている兵器システムに穏当な投資をすれば、中核利益を有する地域での米軍の防衛能力を強化できるし、将来の脅威に対する最大限の柔軟性を確保できる。戦域ミサイル防衛システム、海洋配備型ミサイル防衛システムヘの投資より、既存のシステムよりも、もっと安価な代替システムを大規模に調達すべきとありますが、これよりももっと安く済ませることが可能なのでしょうか?だとしたら確かに今の財政を考えてそうすべきと言えますが、果たして本当に可能なのでしょうかね?

 議会は研究開発予算を認めるべきだが、明確な必要性が生じた場合に、新テクノロジーを速やかに配備できる程度の開発に留めるべき。調達スタイルを変化させ、アフガンとイラクからの撤退時期を少しばかり早め、陸軍部隊と海兵隊規模を削減すれば、少なくとも、年間900億ドルを節約できる。

 軍事予算を削減して、米経済再生に予算を当てろ。まあそのとおりですね。