てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

河野談話検証について


河野談話の検証について色々思ったことを書きました。

 河野談話は内容をすり合わせて双方妥協する代わりに慰安婦問題はこれで決着という構造。そして双方、この件を「信義」として伏せておくことになっていた。で、先に信義破りしたのは韓国。日本は手打ちという言葉を信じて、文言に韓国の意見を取り入れたのに、韓国が一向に問題を解決させようという姿勢を見せないから韓国の信義が問われる。であるからこそ、この河野談話というものが一体どういうものだったか、どういう構造だったか、その経緯を明らかにしたと見るべきでしょうね、今回の検証(外交交渉のプロセス暴露という事件)は。

 中国の尖閣諸島についての密約で、日本が逮捕しないという密約のルールを破ったことを見れば、中国サイドに理があることがわかるように、日本も交渉経緯を暴露することで、自分達に理があることを示した形になりますね。韓国が密約・合意を破っているわけですからね。まあ、尖閣については石原さんじゃないですけど、それはそれとして、アホみたいに領海侵犯を繰り返して日本を挑発して、警戒心を煽っているという中国にも非があるといえばあると言えるんですけどね。

 まあ、そういう中国との密約はおいといて、今回の検証結果の暴露は、韓国サイドの変節を日本が取り上げたということになります。

 ある種の密約、トップ間同士の取決めとはいえ、外交においてはそういう約束というのは政権交代後も基本的に引き継がれるものです。だからこそ、外務省(外交を担当する機構)というのは、通常の官僚組織と違って強い権限=時に政権に対しても外交運営に従わない・はねつけられる過程を持つわけで。韓国が今回の暴露をすっとぼけて、対韓国外交的に今回の検証が有効でないことはありえても、韓国の国際的な信用が落ちるので、その点では有効かと思われます。

 まあ、例の如く、細かいことは知らないが、どうせ日本は男女差別・人権侵害的な国で、女性の人権を過去に侵害したんだから、さっさと韓国に謝罪・賠償しちゃえよ―的な偏見で語られる可能性もありますけどね。それはまた別の問題としても、外交をやる専門家にとっては日本の理を知り、韓国の非を知るという点で確実に意味があったとは言えるでしょう。

 いずれにせよ、韓国としてはこの問題で「河野談話」路線を継承するのか、それともその合意を破って新しいものを作るか、という選択しなくてはならない。新路線なら金泳三を証人喚問してプロセスの再検証とかしなくちゃならないですね。そういう色々めんどくさいことにパワーを割けますかねぇ…?


この件について韓国の研究者の浅羽氏のツイートが非常に参考になりましたのでそれをチラホラ引用したいと思います。
 浅羽祐樹氏いわく、今回の確認で、談話は金泳三大統領と宮澤喜一総理が了承した日韓両国の高度な政治的な合意であったと。その後、アジア女性基金の設立に動くも、韓国政府が国内の関連団体の突き上げを受け、当初合意の「読み」が甘かったことが露呈され、事実上反古する方向に行かざるを得なかったと。そういうことが今回暴露されたと。

 河野談話の検証結果報告書は、韓国政府を主語にして読むと、日本政府と韓国国内の関連団体との「両面外交」をしていたことがよく分かるし、力関係の変化も見て取れる―と。なるほど。「初の文民政権」を誇った金泳三の頃は市民団体が爆発的に増え、「代表の代弁」と形容されるくらい絶大な力を持ったと。ふむふむ。民主化して「市民団体」というのが良い意味でも悪い意味でも、力を持つようになった。価値観・問題の肯定否定をさておいて、市民団体の運動が政治を動かして、日韓外交を停滞させる・関係悪化させる力学として機能してしまったわけですね。その点においては初めて誕生した「市民団体」の暴走と言えるのでしょうね。ちょうど、日本の戦後の「市民団体」のそれと重なるところがあるのではないでしょうか?

 金泳三・韓国政府は、河野談話で国内の関連団体を納得させ、この問題を決着させられると「読んだ」が、パワーバランスが変化すると、事実上「合作」した政治的合意を後に反古した。アジア女性基金を受け入れた当事者もいた中で関連団体が拒否すると局外中立を装った。その過程が露呈された―と。

 河野談話は日韓「合作」そのものが問題というよりも、その線で決着させようとアジア女性基金に進んだのに、それでは解決にならないという関連団体に韓国政府が乗っかり、事実上合意を反古にした点が明らかになった。「信義則違反」をしたのはどちらの側かというのが検証結果のキモ。

 ―ここまで見ると、韓国サイドが一方的に悪いように思えますが、必ずしもそうではない要素があるようです。浅羽先生いわく、河野談話発出以前の93年4月の時点で、韓国側から「後々国内で騒がれてもたなくなったら、合意履行は担保できません」とあらかじめ示唆されていたと。で、そのとおりになった―とおっしゃってます。

 実際どういう構造かわかりませんが、金泳三政権にとって、当時の慰安婦問題=反日感情に対処することが国内政治においてどれくらいの意味を持っていたか。及び日韓関係の安定がどれくらいの意味を持っていたかというのが、この時代の外交を理解する上での一つのポイントになりそうですね。

 詳しいところを知らないので想定、推測ですが、おそらく日韓関係を改善、安定化したほうがいいというまあ当たり前の外交力学が働いて、この問題に決着つけようとした。あまりそこまで大した問題だとは考えていなかった。だからこそ交渉を進めていったわけで、双方とも解決に前向きだったのでしょう。しかし市民団体の反発を受けると、韓国サイドはあっさり方針を転換した。

 というのもその国内の突き上げを押し切ってまで、合意を形成して日韓関係を安定化・強化させなくてはならない理由もビジョンもなかった。国内政治の損失と国際関係の得点、どちらが上回るかという計算は冷戦が終わって未だに戦後外交の構造がはっきりしない中では当然のことでしょうね。

 日本側の宮沢政権サイドも、今の日韓外交においてここまで慰安婦問題が大事になる、あとを引くようなことになるとは想定をしていなかっただろうと思います。ちょっと謝罪して基金作れば解決する程度の問題だと軽く見ていたと思われます。当時の感覚敵に、この問題の性質を見れば、多分それで終わる問題だと考えていたと見るべきでしょうね。あちらさんが国内問題で揉めてうまくいかなくなることはあっても、こちらの国内問題になる。外交的に懸念されるトピックになるとは想像していなかったのだと思いますね。

 いずれにせよ、河野談話を発表して、この問題を集結に向かわせる&韓国との関係改善姿勢を示すというところを見ると、日本は韓国との関係強化に前向きであったといえるので、そういう姿勢を早々と示していることからも、日本の「誠意」や友好的態度が見て取れるでしょう。(※新書かなんかで朴槿恵が日本に誠意を求めている!みたいなのを読んで吹きました。誠意を見せろってヤクザかな?センス無いですねぇ…。)

 また同時に、宮沢政権の友好的態度にもかかわらず、今の安倍政権の日韓外交を進めようとしない姿勢は何だ!と問われる事にもなります。それは例のオバマ政権の安倍政権への分析、安倍政権はナショナリスト政権という例のルートに回帰する危険性があることを理解すべきでしょう(まあ今の政権にそういう理解・外交分析能力があるとはどう見ても思えませんが…)。自分達は韓国に対して前向き、有効的な姿勢であり、問題が解決した際には、外交・安保においてこういうことを進めて米日韓同盟に貢献するということ、目の前のエサを示す必要があるでしょうね。

 河野談話慰安婦の気持ち(=韓国側)を汲み取るということを主眼に置いて作られたといえるでしょう。そして今回の検証で、新河野談話なり、別の官房長官の談話なり、発表するということになれば、そこにおいては日本側の気持ちを最大限汲み取るものになるということになるのでしょうね。当然、ですから、韓国側が反発するんですけども。

 まあ当時の談話PRで韓国政府が賠償するってことを履行させたい所なんでしょうけどね。今回のPRでこの問題は韓国政府がそもそも民間賠償するものであった。韓国人・国内世論に、「どう考えても民間賠償なんてレベルじゃないのに、どうしてそうなりかねなかったの?」という疑問が湧いて、「なんだこれは賠償なんてできるわけないじゃないか、日韓関係樹立の時点で請求権は放棄されてるじゃないか。悔しいし、日本はむかつくけど、外交ルール上仕方ない」―みたいな方向に世論が進むことを期待したいんでしょうけど、まあ、まずそうはならないでしょうね。

 いずれにせよ、日本としては、次のことをはっきりさせること。何万回も言ってますけど、外交というのは双方のボールのやりとりですから、友好には友好の&敵意には敵意のボールが交換されるもの。ですから、韓国サイドが友好のボールを投げていないことをまずはっきりさせるべきでしょう。仮に日本が慰安婦問題で解消・解決させるというボールを投げ込んだら、あなた方が望むようなボールを投げ込んだら、お返しにあなた方はどんなボールを投げ込んでくれるのか?それを投げ込むことで日本は国内政治上、政権に多大なダメージを受けることが予想されるが、それに見合ったよっぽど大きな贈り物・ボールを投げ返す準備が本当にあるのか?あなた方は一方的に好意のボールを投げさせようという無茶苦茶なことを要求していないか?そんなことでは外交は成立しないと韓国の非をしっかり主張することでしょうね。まあ無理でしょうけど。

※記事移転ついでに追記。
 そもそもなんですけど、密約というのはきちんとした外交担当者・担当部署がなければ成立し得ない。担当者というのはまあ政治家及び政治勢力ですよね。ときの自民党政権の大物&大派閥、そういった強力な勢力がその密約を守ることを了承していること。そして、外務省などの役所が一貫してそれを守っていくこと。当然相手サイドのそれも同じ。今回の場合は韓国側のカウンターパートですね。そこがきっちり密約を守れるかという側面が果たしてあったのか?そういうアタリマエのことを理解せずに、とりあえず問題を今のうちにチャッチャッと片付けておけくらいの感覚しかなかったように思えるんですよね。このままだと!いずれ必ず日韓関係の深刻な問題になる!!みたいな危機感や認識はなかったと思うんですよね。とりあえず政権担当者として事務方の進めに従って良きに計らえ的に片付けたようにしか思えない。でなければ、金泳三と密約という発想にならないと思います。密約を守り続けられるような強力な政権・政治パワーがあるわけ無いですからね。形だけでもなんとか取り繕っておいて、しらばっくれるつもりだったのでしょうか?まあ、いずれにせよいつもの外交音痴・外交力学の欠如を露呈しただけの話だったように思えますね。


―おまけに面白そうなツイートを見たのでそれについての話を。
 日本人が韓国へ買春目的で行くという意味不明な行為について木村幹さんなどが自明のこととして語っていたが、その根拠は印象論に過ぎないお粗末なものだった。研究者ですら根拠を出せない状態なのだろう。

 それは、単純に出張した昔のサラリーマンがその地方の食べ物と酒とセックスをついでに求めてたという話(今でもそうかな?)。それが海外でも延長として行われていただけで、それに尾ひれが付いただけの事では?という指摘のツイートを見ました。

 なるほど。『日本人が韓国へ買春目的で渡航する』という謎論理もいわゆる「日本人、女性人権軽視説」の一種にすぎないのかしらね。木村幹さんがその論理の根拠を印象論以外で話してくれるといいんだけどなぁ~。まあ、ゼロとは言わないんでしょうけど、そういうことをする時間と金があって、めんどくさい手はずを整える現地人とのパイプがある業者とか色々考えると純粋にそれ目的で出かけるってのはそんな膨大な数ではないでしょうからねぇ。

 この話で、そういえば日本人の恥の感覚で売春というのはその範疇に入っていないというのを思い出しましたね。米欧、キリスト教圏でも売春は認められてるし行われるのだが、恥の観念に入っているから、こそこそ行うし隠そうとする。日本人は堂々と行うから目立つ、おかしいと思われると。
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