てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

フォーリン・アフェアーズ・リポート 2011/01~04

 2011のフォーリン・アフェアーズの残りを一気に。そんな大したものでもないので。11~12年を通して読んだ印象は、そこまで良い雑誌とはいえない感じですね。当たりもありますが、ハズレが多いという感じ。この雑誌が雇ってるスタッフはあまり当たらないですね。あと使いまわし多すぎでしょ、5年以上経ったものを、大事な話だからもう一度ってのはわかりますけど、1年ちょっとのものを再掲するのはどうなんでしょうかねぇ?

フォーリン・アフェアーズ・リポート2011年1月10日発売号/フォーリン・アフェアーズ・ジャパン

¥2,263 Amazon.co.jp

 ライスのインタビューがあります。フセインは中東で危険な存在だったとか、言ってますね。WMDを持ってるだろう、核保有もやろうと思えば出来るだろう。過去にクルド人に使用したのだから今後も使用しないとは限らない…。ではその危険なフセインを除いてどうなりましたか?中東は安全になったんですか?アホですね。

 メザニン集団の台頭 ― 国の内側から蝕まれる中東・南アジア諸国/マイケル・クロフォード、ジャミ・ミスシック

 メザニン=中二階という意味で、中東そこら辺の前近代国家、国民国家を形成できていない国の解説をしています。要するにヒズボラとかエジプトのイスラム同胞団とかそういった国家の正式な機構よりも力を持つ集団・組織ですね、そういう部族やら宗派やら過激派組織やらでイスラム系の国家は国家内国家がたくさんあって、国家・政府がその国の中で絶対的な権力を持てていない。そういう状況を説明しようとしています。まあ、なんてことはないよくある話ですね。メザニンという言葉で説明しようとするのがキャッチーって感じでしょうか。

 そういう武装組織というのは独自の論理で動くから、犯罪・腐敗が当たり前。正式な近代国家ではないものの有力な社会組織が犯罪とか手を出すのは近代国家の論理では捉えられないので発想を転換しなさいと。ですが、そのとおりに発想転換して、政府と協力して取り締まろうとしても上手くいくか?それをどううまくやるべきかが問われていると思うんですがそれについてはあまり言及がありませんね。そこがもっと聞きたいところなのですけどね。

 武装組織が犯罪に手を染めて金を稼いでいるところなんか、革命で諸勢力が闘争をして中国が統一される前の事情によく似ていると思いました。で、統一する勢力というのは、その勢力だけ著しく統制・統率が取れていて、腐敗・略奪をしないというのがキモになっているわけです。革命前の根拠・拠点で十分な富を確保して生活を約束するから腐敗・汚職が起こらなくなって組織が安定するわけですね。それを原動力に他の勢力を破っていって最終的に中国を統一するという流れになっています。

 しかし、イスラム系の特徴というか、あそこら辺の過激派組織って腐敗とかそういうことに対する倫理ってどうなってるんでしょうか?貧しい者などへの救済という点では過激派が面倒を見るという要素はありますが、腐敗を取り締まって公平な競争を保証する・確保する、経営の視点というのがどの組織にもあまり無いような?詳しい知識がないので印象論ですが…。

 だとすると意外と儒教のような反腐敗の倫理観の導入は近代国家化にうまく役立つのではないか?というような気がします。儒教も根本規範は家族原理ですから、血縁論理が強く働くアラブとかそこらには相性がいいんじゃないでしょうか?朱子学とか導入して統治階級の腐敗とか、近代国家に移行する前の権力の使い方とかそういうルールを考える際にある程度参考になるんじゃないでしょうか?

 まあ、さんざん言ってる通り腐敗は民主主義を殺さない、腐敗に対する取り締まりや反発こそ民主主義を殺すので直結させることは出来ないんですけどね。面白い思いつきだったのでメモ程度に。

 ※思いついたので追記、イスラム・アラブとかは中世くらいまで富があるわけです。トルコ・イランは近代入るまで、まあそこそこ大国として成り立つくらいですしね。『ヨーロッパ覇権以前』なんかにあるように生産力が低下しちゃうんですよね、あそこら辺。ずーっと昔から人がいる歴史がある国ですから。ちょうど華北・中原の生産力が落ちて江南が中国の富の中心になるようにね。んでその「江南」に当たる部分がないからあそこら辺は今でもどすこい&ドタバタしてるわけで。中国みたいに沿岸都市で近代国家を部分的にそのエリアに建設していって近代化・民主主義・資本主義を育成して波及させるという形しかないんじゃないですかね?

 そういうメザニン集団として「スンニ派覚醒運動」を利用したが、イラク軍に上手く再編入できずにいるとありますが、アホでしょ。何回同じこと繰り返しとんねんって話ですね。フセインビン・ラディンに、今度はISISですか?(これ、ISISとつながりがありますよね?こんなのありましたが、[FT]イラク、武装組織同盟に抗争の可能性 :日本経済新聞読む限りつながってますよね?あそこら辺よくわかんないな、ごちゃごちゃしてて。少数勢力多すぎだよ…(´-ω-`))

 非国家アクターとしての宗教の台頭 ― グローバル化時代の宗教/スコット・M・トーマス

 豊かになる途上国の都市で同時に宗教化が進んでいる。フランシスコ修道会も中世ヨーロッパ経済の拡大と都市化による貧困・格差の拡大において都市改革運動として始まった。途上国でこのような例と軌を一にするのは何らおかしいことではないと。

 広まりつつあるキリスト教―一般的に宗教の問題とはイスラム教に関することだと思われているが、キリスト教は急速に世界に広まっている。これが伝統文化との衝突を引き起こす可能性は十分にある。なるほど、面白い注目の仕方ですね。

 広まっているのはペンテコステ派福音派。2億5000万から6億8800万に及ぶと推定されている。既にインド・インドネシア・ナイジェリアで衝突を引き起こしている。ナイジェリアで2010年500人以上の死者を出す衝突が起こっている。

 格差故に階級・階層を超える求心力を持つペンテコステ派福音派が世界で広がり、さらにそこでイスラムや現地の宗教と衝突をするとしたら物凄い皮肉な図式と言わざるを得ませんね。米欧のアホそうな人はキリスト教が世界に広まってキリスト教だらけになったら平和になるんや!みたいなことを考えそうですけど、そうなったら米欧のキリスト教は富を奪い、貧困を輸出している!彼らのキリスト教は偽物・腐っていると糾弾されると思いますけどそういうことを考えているのでしょうか?クリスチャンのテロリストが続々出てきもちっともおかしくないですよね。

 中国でもペンテコステ派福音派は広まっており、世界基督教研究所の予想では2050年までに16%、2億1800万人に達すると見ていると。クリスチャンが増えて、社会構造が変化すれば当然、政治的影響は避けられないわけで、面白いですね。しかし法輪功みたいな事件が起きなければいいですが…。

 インドでは不可触民の最下層の「ダリット」が福音派に改宗してヒンズー教ナショナリストと対立を引き起こしていると、へぇ、面白い図式ですね。彼らがクリスチャンとなって、米欧から支援を受けて社会で有力なパワーを占めるようになっていったりするかもしれませんねぇ。

 ロシアが同じ正教会系のセルビア空爆に反対し、ウクライナで影響力を発揮しようとしているのはウクライナ西部の主流派東方典礼カトリック通り合いが悪いことと無関係ではない。

 サウジアラビアは厳格なワッハーブの戒律を世界に広めることでその文化力・影響力を強くしようとしている。同時にそれは各国のイスラム的慣習、宗教的寛容や共存といった伝統を覆すことになっている。この点、サウジアラビアのほうがイラクなんかよりよっぽど負の影響を与えていると言えますね…。方やイランはメシアニズムを帯びたスーフィズムを輸出するとともに、レバノンパレスチナイラクで、ヒズボラハマスシーア派がそれぞれ主導する宗派運動を支援し、攻撃的な宗教外交を展開している(まんまこの流れが今のISISI、スンニVSシーアですね)。

 最後に宗教を適切に理解することが外交で重要だぞ!と指摘していますが、米は外国のそういうものには無関心・無理解なんで、まあまず無理でしょうね。久々になかなか面白いヒット記事でしたね。

フォーリン・アフェアーズ・リポート2011年2月10日発売号/フォーリン・アフェアーズ・ジャパン

21世紀をリードするのは西洋か東洋か

/ティムール・クーラン

 弓型の地域「ヒリー・フランクス」 科学史研究ニーダムの問い一世紀前まで中国の方が科学で進んでいた。中東の科学も同じ。なぜ抜かれて追いつけなくなったのか?儒教道鏡イスラム教だから?答えになってない。

人類5万年 文明の興亡(上): なせ西洋が世界を支配しているのか (単行本)/筑摩書房

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人類5万年 文明の興亡(下): なぜ西洋が世界を支配しているのか (単行本)/筑摩書房

Why the West Rules - for Now: The Patterns of H.../Profile Books Ltd

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※一番下が洋書でその和訳ですね、上下の方は。

 1800年まで東洋・西洋の発展を示す「得点」は互角。しかし指標が経済インフラを無視しているために有効ではない。組織化能力を都市の大きさで考えることは誤っている。近代的な経済制度を導入しようとしても今でもうまくいってない。民主主義・個人の人権・市民社会、三権分立などがあって初めて資本主義・民主主義は成立する規模で東洋が上回ることになっても、西洋を上回ることは考えにくい。それをはぐくむよりもむしろ混乱し、西洋の優位は続くだろう。全く同感ですねぇ。

シビリアンパワーで米外交を刷新する

/ヒラリー・ロドハム・クリントン

 彼女のインタビューがあったというただそれだけの指摘です。特に何の役にも立たないですね。

アメリカ軍国主義批判― 非介入主義外交への転換を

/ウィリアム・パフ

 まあ、例の如く介入の失敗と撤退、戦略の見直しを要求するものですね。一応言及しておきました。

<CFRインタビュー>

アイゼンハワーの警告から半世紀、

アメリカの「軍産・技術・議会」複合体の現状

/レスリー・ゲルブ

 ソビエト崩壊後のクレムリンの公開された文書にも、ナショナルアーカイブスにもソ連スターウォーズ計画に対抗しようとしたことは確認できない。そも経済破たんでそんなことはできなかったし、今に至るまで有効に作用していないように、防衛構想はうまく機能するとは考えられていなかった。―なるほど。レーガンの強硬外交が冷戦終結をもたらしたという主張は結構通用していますが、そこに明確な根拠はないと。

フォーリン・アフェアーズ・リポート2011年3月10日発売号/フォーリン・アフェアーズ・ジャパン

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 人口動態でみるアラブ世界の民衆蜂起――「ユースバルジ」が世界を変える?

/ラグイ・アサード

 内容はともかく、人口動態、若い世代が多ければ多いほど、雇用の不安定=不満=デモ・政情不安ということになりやすいわけですが、中東の年齢構成見ると30代くらいが多くて40代ぐらいからどんどん減っていくわけですが、これは死んでいるのでしょうか?今の若者の平均寿命も50くらいということですかね?彼らは後30年位で死ぬものという意識・共通理解があるのでしょうか?

大国ブラジルのアジェンダ/ジュリア・E・スウェイグ

 非同盟主義の軍事政権、90年代孤立主義から転換。国内的成功から、国外へと乗り出す。まま米のマニフェストデステニー路線とかぶる。多民族・多人種でありながら、流血を招く衝突がない。大国にふさわしいと自認する所以。

 ルラ大統領の外交、南アフリカ・インドとのゆるやかな関係。アフリカのポルトガル語系諸国との関係を深めようとしていると。中東系の1000万の移民(!)から中東外交へも乗り出すと。トルコ&ブラジル=イラン外交にはこういう背景があったわけですね、なるほど。

 軍事政権時代には対アルゼンチンから核武装のプランがあったが、民主化以降その路線を放棄してNPT・核不拡散レジームに参加と。そして国内に豊富なウラン資源がある(世界6位)。調査が進めばもっと埋蔵量が確認されると。つまりブラジルは核エネルギー大国としての戦略があるわけですね、そのための核エネルギー市場の安定と、顧客の確保という狙いがあったと。なるほどなるほど。

 当然、そういった観点からNPTレジームに関心が高く、インド・パキスタン・イラン・北といったそのNPTの外にある国を何とかしたいという戦略を取ってくるでしょうね。熱帯雨林から環境問題への意識・関心が高いと。水・石油資源も豊富であり、今後農地を広げて食料生産を増やす余地も大きい。ただ2010年のメキシコ湾での石油流出事故で、石油のコストが上がっていると。2500キロの大洋間高速道路の建設。

 教育の質の低さの問題、ファベラの「抵抗殺人」警官などが身を守るために殺人をするのが年1000件に及ぶと。麻薬などもあり、このブラジルの成長がもたらす国際関係の変化は面白いですね。国際政治の領域において、中国への感心が高まっているのは、この中国のパワーが地域・世界の構造を変化させるからなわけですが、それがままブラジルにも当てはまるようになりそうですよね。え、常識?今更かよ?遅いよって思いました?(^ ^;)。

イラン核武装の脅威と封じ込めの限界

――イラン、イスラエル、サウジによる核秩序の危うさ

/エリック・S・イーデルマン、アンドリュー・F・クレピネビッチ、エバン・ブラデン・モントゴメリー

 内容そんなに触れないですが、前にも書いたかもしれませんが、パキスタンの核はイスラムの核。そしてイランが核を手に入れればそのシンボル的な意味合いは大きい。パキスタンと通じてサウジが核を手に入れるルートが存在すると。

富める者はますます豊かに

――アメリカにおける政治・経済の忌まわしい現実

 これ以前単独で取り上げるといったやらなかったやつですね。忘れてました。そのうちやります。しかしこれは読んでも面白く無いので、残ったもう一つだけやると思います。こういう面白く無いのを再掲するのがちょっとセンス無いですね。

フォーリン・アフェアーズ・リポート2011年4月10日発売号/フォーリン・アフェアーズ・ジャパン

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 中国の対外強硬路線の国内的起源― 高揚する自意識とナショナリズム

/トーマス・クリステンセン

 やっぱりクリステンセンくんの論文を…最高やな!というくらい、まともな人・常識的な整理・分析をするのでこれ別枠で。以前洋書で取り上げた中で入ってた中国分析の人ですね。この人個人的オススメです。

トルコはイスラム、欧米のどちらを選ぶのか ― 誤解されるトルコの新外交路線

/ヒュー・ポープ

 トルコの足を引っ張るアルメニア問題。クルド民族・反対派への弾圧を理由にEUの傘下を拒否されていたのが、今はイスラム系の移民による国内雇用の不安定のはけ口にされてEU加盟が難しくなっている。サルコジメルケルはトルコのEU加盟が平均所得の半分に達するのが10年・20年先の話であるにもかかわらず、政治的理由からノーを表明した。イラク戦争もあり、野党のAKPは神権国家を作ろうとしている批判に対して、軍事力を重視しているという批判で答える。EU加盟という長期的ビジョン・コンセンサスは崩れたと。また03年AKPはキプロスギリシャ系80%・トルコ系20%の統合独立を支持したが、EUが04年ギリシャキプロス政府を認めてしまった。ここにおいてトルコ=EUの枠・ルートは完全に閉ざされたといえると。

 米内部ではトルコがイランと組んでイスラムブロックを形成するというネオコンイスラエル右派のピント外れな指摘。まあ外交オンチの発言は今に始まったことではありませんけどね…。