てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

小室博士のロシア・ソ連分析② ソ連は独に敗れていた 弱いソ連こそ暴発のリスク

カテゴリーミスで新規作成していますが、元は10/11に書いたものです。

 

続きです。

社会主義ではシェアが重視される】
 ソ連では貨幣は交換出来ないから。社会主義の場合利潤ではなく、企業の占有率にこそ目的がある。従業員・企業トップの生きがい―としか理由がない。なぜ社会主義の富が占有率になる?私有財の世襲がないから?特定の市場を占有すること=権力だからか?日本は欧米のように配当を最大にすることではなく、シェアを競うからこの点では全く同じであるという。そしてこの認識はいまだに改められていない。思うにプロテスタンティズムの富=名誉。金を稼ぐことが尊敬されていない、どこかやましいことのように思われる風土がある。これが最大の問題の一つであるのは間違いなかろう。
 福沢諭吉の『学問の進め』はあっても、金儲けの進めは未だなく、市民権を勝ち得ているとは言い難いのではないか?代表例がホリエモンマネーゲームという単語であろう。マネーゲーム実体経済が無茶苦茶にされるという言説を一時期聞かなかった日がないほどだ。一面正しいところもあるが、そのマネーゲームによって普通の人の暮らしや、汗水たらして働いている人を尻目に濡れ手で粟のような言説は、大衆を守ろうというものだったか?それよりは、既得権・官僚支配、必然的に起こる社会変革を阻もうという拒否反応のように思えてならない。
 わが国は未だ資本主義の社会から程遠い。そしてその先にある社会主義などさらに程遠い

ソ連はドイツ軍に破れていた―日ソ中立条約こそソ連を救った】
 あまりに長いから書きませんけど、スターリンの粛清の必然性、巨大な陸軍を完全にコントロールするためにやむにやまれないものだったという分析は見事ですね。ラパロ条約にいたるまでの流れ、近代軍化の記述のすばらしさは昔読んだときから印象に残ってました。

 もし、寒波の到来が一週間おくれていたら。もし、ドイツ軍がユーゴスラビア征服などで手間どらずに、六月二十二日ではなくて五月に侵攻を開始していたら。 もし、レープやルンドシュテットが、レニングラードウクライナに行かずに、ボックと合流してモスクワ攻撃に専一していたら?
 この三つの〝もし〟のうち、ただ一つでも実現していたら、膨大ではありながら指揮能力と訓練においてドイツ軍とは比較にならないソ連の全野戦軍は、モスクワ近郊において破滅的打撃をうけ、ソ連の兵器工場のほとんどすべてはドイツ軍の手に帰していたことは疑いない。つまり兵器生産能力をなくして、ソ連は負けていた。
 さらにもし、ブルゲが日本軍は北進することなく南進の予定であるという日本最高の機密を盗むことに失敗していたら、どうであろう。ジューコフとシベリア軍団とは極東を去ることは出来なかったに違いない。
 ―ソ連の勝利は奇蹟の連続だったわけなんですね。んでこのことによる中立条約の重要性は注意してもしすぎることはないわけです。ちなみにはるかに近代化が遅れた日本軍が、普通総崩れになるところを崩れもせず、最弱部隊で何とか抵抗したことから、
ジューコフ日本を恐れていました。もし日本が対ソ戦に全力を挙げていれば、ソ連は崩壊していたわけですからね。ま、こういう重要な背景というのは、よほど歴史に詳しい人でないと知らないでしょうね。日ソ中立条約こそが対独戦の勝利の要であった―こう主張しないことには話にならないわけですね。

人民解放軍との違い】
 軍需産業を奪われることによって国家の危機に陥ったことが二度ある。そして二度の危機は天佑神助で切り抜けるも、膨大な犠牲を避けられなかったという事実。こうなると軍需産業国民感情のよりどころとして動かしがたい存在となる。
 この点人民解放軍との比較は重要だ。別に膨大な軍隊ではなく、個人のゲリラ戦で勝ち取ったのだから、軍隊の問題という点では中国はロシアよりもかなり有利であると言える。もちろん、日本に対する危機意識は強いのだけど。アメリカならともかく日本が攻めてくる!なんてこと考えられないですしね(アメリカでも考えづらいですが)。軍のカリスマは人民解放軍にあてはまらない。そしてソ連も同じ、攻めていったが以後防衛戦に使うことはなかった。攻められるという実際の脅威が激減すればどうなるか言うまでもない。
 これ中国との比較に使いたかったけれども、書くの忘れてたから今ここで書きました。

ソ連暴発説についての反論】
 己が最も尊敬する小室博士ですが、今回はその説についての反論を。反論というか、質問に近いですけどね。博士、この点はこういってくださいよ、こっちの方が大事でしょ~っていうものに近いです。

 弱いソ連が危険という話。組織の機能的要請から軍の官僚組織が暴走する可能性を説く。組織が硬直化して、正常な判断が不可能になるという指摘。これは有効で重要な示唆に富んだ分析である。カリスマ・ビスマルクによって作られた組織は、彼以外では全く機能しなくなって、シュリーフェンプランのような無謀な計画、戦争に突入せざるを得なくなった。第一次世界大戦は誰も戦争を望まなかったのに、戦争になった。
 この応用として、ソ連が弱くなって暴走するという指摘。一面説得性がありながらも、結局これは当てはまらなかった。なぜか?当時とは客観的情勢が著しく異なっているのを無視しているからである。ソ連に対して軍事的に敵対する勢力、攻め込んでくる勢力がそもそもなかった。もしソ連が崩壊するさなかに東西から挟撃される恐れが少しでもあれば、そんなことは当然出来なかっただろう。この安全性がソ連を自ら崩壊させた。この事実はいくら重視してもしすぎることはない。*1

 ちょっと、話それて、アフガンもソ連の軍事的脅威のなさ、張子の軍であることを証明したことが大きな転換点であったと思われる。アフガンにおけるソ連の財政的支出は一体どのくらいあったのだろうか?その負担が何より重要だった可能性は高い。軍隊が自己の利益を求めてどこまでも固執する、それをさせなかった大衆の支持の欠如&大衆が軍を支持しなかったことについてはまた検討する必要がある。
 んで、本題。強いソ連より、弱くなったソ連が危険というのは内部統制が利かなくなり、軍部が独自の論理で行動することであるが、その軍部がすでに博士が言うように、力の信奉者である。そうである以上、暴走しようがない。外へ出れば必ず負ける。少しでも強い相手には戦わない。この力学からすれば中東に攻め込むくらいだが、それすらしようがなくなる。 せいぜい核をやったらめったら発射するくらいだが、それは必ず自分たちも死ぬ。降伏なら安全が保障されるのなら、イスラム革命共産主義革命のような新イデオロギーを持たない以上、暴走はありえないことになる。弱体化した国家の危険性という性質は常に注意する必要があるが、攻めればマイナス。守ればプラマイゼロなのだから、結果はむしろ明らかではないか?
 当時と決定的に違う点は日独がブロック経済圏という死活的な権益を握られて逼迫していたのに対し、それがなかったこと(注:博士は日独の戦争を望まなかったケースから論を導いている)、そして生存圏・文明論・人種論、生き残る民族、世界を主導する民族はただひとつといった観念がなく、欧の決して攻め込まな いというサインが非常に大きかったことをまた忘れてはならないだろう。自由貿易の原則の成立に、攻め込んでくる脅威がなかったことは当時と180度環境が異なるのだ。環境の違い、変化した要因を抑え切れなかった。ただ、当然80年の時には新冷戦最中の時代なので、その後の緊張緩和とはまた別。重要なのは緊張緩和によって生まれた脅威現象の可能性に言及すること、それがなかったのが残念である(あるいは雑誌で言及したかも?雑誌までは目を通していないからわからない)。
 博士には著作で外れた指摘に対する再言及がない。ソ連が暴走しなかったことについての言及に、エリツィン政権が長続きした言及。再分析がない。これはぜひとも聞きたかったところだった。補強するならば、↓にある大韓航空機の事例はまさに、そのケースに当てはまる事例であるといえる。それをもってよしとするか、あくまで可能性の一論として受け止めるだけで済ませるか。無論それでもいい。有意義な分析は当たった、外れたはあまり重要ではない、どういう力学・システムがあるのかを指摘することで十分だから
 しかしゴルバチョフを世界精神として表現する・分析することよりは、アフターヴィクトリーでアイケンベリーが書いたような、新しい国際政治における規範の誕生に注目すべきではなかったか?ソ連の崩壊というのは既存のゲームの延長ではなく、国際政治のルールが根本的ではなくとも、かなり新しいゲームの性質が加わった、システムが変わった重要な性質があるのだから。一神教的に言うと、神が新しい契約をもたらしたに等しいレベルのルールの転換。コレにぜひ言及していただきたかったなぁ。*2

 *3

*1:参照

*2:まあ当時の人間が、10年後以上改めて研究した上でセオリーとなったものについて予見しておけというのは無茶ブリにもほどがありますけどね。無論そういうことが言いたかったわけではありません。当時のそれはそれでいいとして、10年位経ったあとで何らかのコメントはして欲しかったですね。あの時は~考えていたが、今は~の視点とか。

 単純に近い将来に危険性・危機がありえるから、それに言及しておいただけにすぎないのかもしれませんけどね。それについていちいち再コメントの必要はないということかもしれません。

*3:例のごとくアイキャッチ用画像です

アフター・ヴィクトリー―戦後構築の論理と行動 (叢書「世界認識の最前線」)

アフター・ヴィクトリー―戦後構築の論理と行動 (叢書「世界認識の最前線」)