てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

誇りを持って戦争から逃げろ! 中山 治

過去記事の再掲です。元は10/11に書いたものです。中身無いので再掲やめようとも思ったんですけど、時間がなくなってしまったので、穴埋めとして。
誇りを持って戦争から逃げろ! (ちくま新書)/中山 治

 

 この本の中に、小室直樹氏の引用がされていて、ちょっとブチ切れたのでこの本を取り上げました。小室直樹警察ですね(^ ^;)。 
 筆者は心理学者で、慶応の社会学博士号だとか。昨今流行りの地雷、心理学と社会学と言われる所以でしょうかね…。今ググったら臨床社会心理学でした。心理学なのか、社会学なのか…どっちだよって感じですかね。ま、いうまでもなくタイトルからしてアレですよね。で、いちいち、そんなくだらない本をあげつらって、ここがおかしいとか、ここが間違っているとかいってもしょうがないんですよね。なにせちくま新書ですからね。こういうのを出すところですから。

 まあなんといいますか、国際政治学も歴史学も何もわからずに、思想で反戦を唱えていればそれでいいという、念力・言霊主義者ですね。そうするのは勝手ですけど、せめて膨大な国際政治学の大著の一つでも引用して、国際社会のルールを踏まえた上で語っていただきたいところですね。

 心理学で優れていたとしても、関係ないジャンルの人間、素人に書かせるのは、はっきりって学問の冒涜です。専門分野以外に手を出すなら出すで、素人から見たらどう見えるかということを書きなさい。そして出版社もそうするべき。戦争に対する観念が抽象的過ぎる。戦争を論じるなら、経済、世界的なシステムなどの前提をまず整理してから述べるべきでしょう。どういう脅威があって、どういう軍事リスクがあるのか、そして日本は攻められるのか、巻き込まれるのかなどなど。そういった重要な前提がないので、ぜ~んぶ抽象的で終わります。抽象的な印象論、イメージで話が展開されます。そんなことで戦争を論じることなど、出きようはずがない。

 武装中立で、攻められたら逃げろってバカですよね。武装中立をするってことはアメリカの核の傘から外れること。となると、かつてのドイツのように両大国に挟まれることになる。そもそも大国間で戦争が起こることなど、ブレトン・ウッズに始まるガット以来の今のWTO自由貿易体制が崩れない以外ありえない。一体どう崩れるというのか?何を考えているのか、何が言いたいのかよくわからない…。

 ―で問題の記述です。p218、小室直樹と異なる点はマッカーサーのマインドコントロールではなく、自前の思想を育ててこなかった、精神的機軸がないから、アノミーになった―というところですね。精神的機軸がないとかあっさり行ってしまうところに危うさを感じますが、まあそれはさておきポイントは次。

 小室直樹天皇愛国主義に処方箋を見出したという記述。( ゚Д゚)ハァ?小室直樹がいつ、どこで、「天皇愛国主義に戻れば、日本のアノミーが解決する」なんて書いたのか?そんなこと初めて聞ききましたよ。小室博士は天皇教という構造=機能分析で、天皇教がユダヤ教の予定説によって、神に上り詰め、資本主義の精神を構築する鍵となったことを立証はしたが、じゃあ、昔のように、天皇教の方式に戻せば全て解決とは書いていない。いつどこでそんなことを言ったのだ?それで解決するなんてどこに書いてあるのか?

 おそらく三島を論じるうえで、国家の正統性orthodoxyは絶対に放棄してはならないと書いてあったのを、だから取り戻せ!っていっていると誤読したのでしょう。天皇教のメカニズムを解き明かしても、それで天皇という信仰復活でハイ、万事OKなんて一言も言っていない。
 つまり、リテラシーがないんですね。必要条件十分条件を誤読したのです。歴史教育で、愛国心、国家への帰属心・プライドを取り戻すことはアノミー退治の必要条件である。しかし十分条件ではない。それで問題が解決するというのなら、とっくに解決しているでしょうね。

 今歴史教育に政治が干渉しようとしているでしょう?仮に歴史教育が変わったとして、それでアノミー解消されると思いますか?言うまでもなく答えはノーでしょう。それは根本治療ではなく、対症療法にすぎないでしょう。問題の解決においては問題の相互連関関係・本質を解き明かして、複合的な対策が必要となる。単純な対処では問題をより悪化させるだけだと論じた小室直樹の主張を知っていれば、決してそんなこと言うはずがないのです。

 あんなにわかりやすく、諸学の概念を論じた小室博士の理論・業績ですら誤読される始末。これじゃ、マルクスが誤読されるわけだ。誤読するのは恥ずかしいことではないが、そうなると先人の業績を傷つけてしまう可能性があることに思いがよらなかったのだろうか…。ヤレヤレ