てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

ソ連崩壊と比較して中国経済分析続き

 

続きです。言うまでもなく過去記事の再掲です。

【固定された人民元の行方―万能の通過策などありえない】
 そしてこの方針が続くということは*1、中国に対するアメリカの抑圧・外圧が強まりこそすれ、弱まることは決してないということである。特に通貨問題に対して、アメリカは一層要求を強めてくるであろう。アメリカは金融緩和をして、一層のドルを市場に流すことにした。いかに固定レートで通貨をコントロール下におこうと、相手のドルがジャブジャブになれば、自然と元はドルに対して、切り上げられることになる。中国人民元の研究は『人民元と中国経済』『人民元切り上げ論争―中・日・米の利害と主張』などがあるが、人民元を固定レートにしておいて、中国が得をするか損をするか、一義的に語るのは難しいが、むしろ損をする可能性、リスクの方が大きいというのが、大体の共通した見方である。

 安い元を固定して中国は汚い!さすがきたない!などと思う人間は、まさかいないとは思うが、これはむしろ中国の富を失う可能性のほうが大きい、愚策、ヌケ作、孫策なのである(ま、愚策は言いすぎだけど)。有名な国際金融のトリレンマでいうように、 『固定相場制』 ・ 『独立した金融政策』 ・ 『自由な資本移動』どれか一つは必ず犠牲にしなくてはならない。資本の自由な移動がないため、柔軟な取引は行われないし、魅力的な金融市場の整備はされない。ま、この点はまだまだ先の話だからいいとして*2、決算を行う上で、人民元が高くなっていくのに決まっているのだから、なるべく決算、人民元を通貨交換するのを遅らせようとする。値上がりが見込まれるのだから、過剰に投資が回り、投資が投機となり、正常な経済活動が阻害されるようになる。この点はバブルにつき物であるから良いとしても、問題は人民元不胎化政策であろう。
 人民元の値上がりを防止するためにドルを米国債に変えてドルレートを保とうとする。これは人民元がどんどん値上がりする。ドルが値下がりするのだから、トータルで考えれば、むしろ国債を買っているのに利子を払う、かつ原価割れをしていてもおかしくない一方的な奉納、朝貢である。リスク以外の何者でもない政策だ。結局その元安のツケはまわりまわって回帰しているのである。俗にアメリカ国債を売って、アメリカを脅迫するぞ!という暴論があるが、そんなことをすれば、国債暴落で米中両方が大量の損失を抱えるだけであり(日本もだが)、世界を混乱させるだけで、外交の交渉材料としては機能しない。意味のない飾りの日本刀、それどころか竹光のようなものだ。

 経済をロクに理解もせずに、長々書いたが、要するに中国の通貨政策が卑怯だなどというのはたわごとだということである。万能な通貨政策などどこにも存在しないというごく当たり前のことだ。

【間違いなく値上がりする人民元&チャイナバッシング】
 日本時代に、通貨をこれでもか!これでもか!エイヤッットばかりに円高に追いやってきたが、問題の根本的解決に少しも結びつかなかったのは周知の事実。アメリカもこれまではそれを理解して通貨安を認めてきたかのように思えたが、そんなことは全然なかった。アメリカが金融緩和に踏み切っただけではない、経済規模が大きくなって、取引が進めば進むほど自然と通貨が強くなっていくに決まっている。そう思うだけでそうなる。当為が事実になるようなもの。さらには固定相場制が変動相場となって、自由な資本移動・取引が出来るのではないかと期待すれば、なおさら。そしてアメリカが外圧をかけなくても世界中の投資家がそう見ているのだから、マネーはそう動く。資本主義経済に舵を一端踏み切った以上、いかなる方法でもこの流れを止められないだろう。クリントンの日本叩きは、オバマかその次の大統領によって中国叩きになって復活する。そこまで露骨にならずとも陰に陽に、中国はアメリカの圧力に苦しむことになるだろう。

【アメリカに狙われる中国、元高=中国モデルの崩壊】
 「日本は同盟国であったが、中国はそうではない」―この違いは大きい。安全保障と経済政策は外交となってリンクする。安全保障上中国に便宜を図らなければならないならばまだ譲歩の余地もあるが、むしろ逆なのであるのだから経済政策で譲歩するはずがない。停滞する鬱屈感は確実に中国、世界経済第二位の、繁栄する新興国に向けられるであろう。問題は通貨が高まることによって、一体何が起こるかということである。中国は低賃金労働によって成立している。安くて質がよい労働力が繁栄の基準となっている。その労働力は膨大な農村を抱えている以上、まだまだ尽きることはない。しかし日本のように、最も競争力のある自動車・家電に合わせて対ドル・レートが設定されてしまったら、どうなるか?そこまで行かなくとも、元が高くなるということは、外資にとっての中国市場の魅力を低下させることになるのである。

内需主導型=中国経済の死亡フラグ
 理想で言えば、日本が農村から都市への人口移動のあと、内需主導型に舵を切ったように、中国もそうなればこの問題は解決する。しかし中国の農村人口はまだまだ9億人はいるといわれる。日本のようにかの膨大な人口が全て都市化するなどありえず、どこかで都市化終了~!の笛の音を鳴らすしかないのである。己は常々中国には海中国と、陸中国二つの中国があると考えているが、海中国の都市化が完成してしまえば、ここで中国は方針転換をせざるをえないのである。するとどうなるか?膨大な農村人口・陸中国人は取り残されざるを得ない。為替レートがある一定の値を超えれば、外資は出ていく。中国企業は一応成長している。彼らは外資に変わって一応何とかやることはできるだろう。残る外資は低賃金労働に関係ないものが残る。経済の開放性は変わらない。このモデル転換をうまくなしとげることが出来るだろうか?

【未来の中国の経済モデル、中国人が中国人を搾取する】
 いわば、海中国の中国企業が内陸部に進出して、安い労働力を利用して、それを世界中に輸出する形になるだろうが、今まで外資が安くこき使っていたのが、中国企業に変わるわけである。これはつまるところ、中国資本家による、労働者の搾取に他ならない。彼らがそれをじっと耐えることが出来るだろうか?中国共産党が労働者を搾取する体制を容認する、こんな状況に耐えることが出来るのだろうか?
 経済が繁栄するうちはまだ富が回るゆえ良い。むしろこのシナリオはまだ好ましい方だ。元レートが高まるということは、失業そのものを意味する。安い元でなくては中国経済モデルは通用しない。高い元は九億人の残る低賃金労働者の失業である。そんなことが起これば暴動が起こるのは火を見るより明らかである。解決策は簡単だ。大量の労働力を生かす=職を作るためには安い通貨が好ましい。膨大な人口を抱える中国は低賃金労働を放棄することは絶対に不可能である。しかし、仮になんとしてでも安い通貨レートを維持できたとしても、それによって損をする高付加価値の企業は生産拠点を海外に移してしまうだろう。最も金になる、重要な企業、金の卵を産む鶏を手放さなくてはならないのである。そんなことをするだろうか?高技術者、高付加価値企業は共産党の要人と深く結びついているのに。

【別の中国経済モデル、高付加価値を手放す】
 どっちかを生かせば、どっちかを殺すという重要なジレンマに直面する。すなわち一億の高付加価値労働者を取るか、九億の低賃金労働者を取るかということになる。仮にそれを乗り越えて、後者を取ったとしよう。中国が存続していく以上、多数の九億の貧しい人間を無視することは出来ない。一億の中国人には涙をのんでもらうしかない―という選択をすれば、50~100年単位で見て、日本の都市化のように五~六億人かどうかわからないが、都市化達成→海外に出て行った中国人・企業を呼び込むというプロセスを辿る。短期的には損をするとしても、安定を第一とするならこうするしかないだろう。しかし、その後本当に中国に帰ってきてくれるかとなるとこれもまた別の問題である。低レートを維持できるというかなり難しい仮定をクリアした後の話でもあり、かなり非現実的である。アメリカなりEUなり、日本なりが制裁を発動しないという条件がつくのであるから。

【理想的な通貨問題の解決法―通貨レートをその経済圏ごとにもつ】
 そのどちらでもない、誰も損しないうまいやり方がある。それは中国経済圏を一国二制度のように、一国多制度として、経済圏毎に通貨レートを持つのである。つまり逆EUとなって経済規模に合わせて通貨を持つ、上海元でもいいし、山東円でもいいし、四川ドルでもなんでもいい。現実の経済規模に合わせて、通貨を採用する。これ以上好ましい理想な政策はない。沿岸部だろうが、大陸部だろうが、これによって問題は解決する。沿岸部は高いレートで先進国として高付加価値経済を追求し、内陸部は安いレートで低賃金労働に従事する、次第に経済成長に合わせて、レートを上げて経済構造を変えて発展していけばいいのだから。これ以上好ましい経済政策は存在しないと思われる。谷口智彦氏も中国経済は一ドル150円、450円、900円、三つのレートが存在すると述べていたし(
上海新風 、タテ読みヨコ読み世界時評 このふたつのうちのどちらか、どっちか忘れました)


一つの中国で問題は解決できない―連邦で問題を解決せよ!】
 似たような政策は大前氏が『中華連邦』で述べている。中国は一つの地域ごとに巨大な経済圏が成立している。このまま経済の理屈、ロジックにしたがって、連邦制度に移行することで、台湾だろうがなんだろうが、中国の問題は全て解決するというものだ。多様なシステムがあればあるほど好ましいのは言うまでもない。通貨のことは確か書いてなかったはずだが、多様な中国を最も安定させるためには、「崩壊」を避けるためには分裂を率先してシステムに組み込んでしまったほうがいいということだ。大前氏が地域主権論者であるということを考慮しても、見事な分析といえるだろう。


【経済の理屈で連邦制に移行するか?可能性は低い】
 だが、経済の要請で見れば、それが正しいが、政治の要請で見たら一体どうなるだろうか?言うもさらなり、中国人は「国家の統一」、「中国人」、「国民国家中国」という形に非常に強い撞着を抱いている。国家を連邦制に移行させることへの拒否反応が働く可能性が高いし、領土という政治問題で、ノーベル平和賞で、強硬な制裁を発動し、世界の顰蹙を買った。合理的な判断によって連邦制度を採用できるだろうか?採用出来れば中国どころか、東アジアの安定に寄与し、一安心ヤレヤレといったところだが、そうすんなりいくだろうか。何より中国の反日デモ・暴動を見て、そういくとはとても思えないのである。人民のレベルもそうだが、共産党のトップが、民主体制への移行、不満をどうやってくみ上げて、どうやって解消するか、そのノウハウに研究が圧倒的に不足しているとしか思えないのである。根本的に連邦制への発想が欠如していれば、その実現も難しいだろう。

中国共産党の今後、デモ団体、民主団体と正面から向き合え、さもなくば滅びなん】
 デモをいつまでたっても封じ込められるはずはない。彼らの不満をいかにくみ上げるか、聞き入れるかが欠如している。江戸時代の為政者のように弾圧するしか頭にない。これでうまくいくだろうか?伝統的な宗教は信仰を認める、言論の自由は保障するが、実際の行動に出た場合は、徹底的に罰するなど、根本的なルール化が全く進んでいない。なにより重要なことは、中国で民主化を訴えている著名な組織が存在していないことである。彼らがデモの主導者となって、彼らと交渉が出来るのなら良い。最悪中国共産党が崩壊しても、その後彼らが中国政治を担えるからだ。何より、そういう集団・組織があれば、デモをコントロールできる。彼らの最重要な訴えは何で、今後10年で必ず選挙をやる*3言論の自由を保障するなど、不満を事前に解消できる。最早デモを散発的に認めてガス抜きで済ませられるようなレベルではない。彼らの不満の大きさはもう既に一つの歴史的ピークに達していると見てよい。中国共産党はデモ団体を登録申請させて、不満と向き合い、交渉のテーブルに着かなくてはならない。そういう時代にもう来ている。そうしなければ彼らは必ず滅ぶ。天安門どころか、多数の主要都市で大暴動、反共産党運動になってしまう。

 中国の道は険しく長い。中国はこの先生きのこれるか!

 

※今は経済よりも、安保上の問題が注目されるようになっていますね。まあ上海株大暴落だったり、経済成長率の水増し、正確には5%程度だろうという話など、そういう兆候があるにはありましたけども。経済政策で中国を締め付けても、世界経済の不安定化に繋がるだけだと自制したのでしょうか?次の大統領が誰になるかわかりませんが、韓国の二正面外交を止めさせたことを見ても、安倍談話の現行秩序維持のロジックに乗っかったことを見ても、少しづつ中国に対する態度が厳しくなっている段階。TPPなどが発効して、潜在的な対中包囲網が顕在的なそれになる可能性がないわけではありません。そう言う意味でも次の米の大統領が誰になるかというのは、一つのポイントでしょうね。

*1:自国の誤りを見ないで、相手に問題・責任を押し付ける姿勢

*2:6年前ならともかく、そろそろ自由な資本移動が求められる時期に来ていると思うのですけどね…

*3:明治維新の際立憲運動・国会開設運動のようなそれ、まあ10年後に国会開くと約束した明治政府によってその後迷走したが