てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

東山翔さんのトレパク事件について

 今頃、このトレパク事件というものを知ったのですが、それについて一言。ググった所unlimited blue text archiveさんのトレパク騒動に終止符を(準備稿) という記事があって、まさにそのとおりだと思いましたので、これを紹介しておきたいと思います。

 ああ、そうだその前にトレパクというのは何かという話をすると、絵の構図を他から流用することですね。トレースとパクリを意味する言葉です。で、簡単に要約するとトレパクというのは著作権違反になりうるかどうか?法律違反になるのかどうか?この事件では著作権違反として作者が叩かれたわけですが、作者を批判する側も、擁護する側もポイントを外している。上の記事リンクにあるように、著作権があるものと認められて、トレスがその侵害にあたると認定されるものは著作権違反に相当するし、そうでないものは仮にトレパクであろうとも違法性はない。こういうことになると思います。

 有名なところではスラムダンクがこの構図流用をしているということで一時期話題になりました。漫画で出てくるシーンのいくつかが、NBAの実際の試合の雑誌の写真から模写したものが多々あるわけですね。

 今と違って当時はPCが簡単に使える時代ではない、あまり普及していない頃ですから、スキャナして画像を取り込んで、パソコンで絵をトレスしたということはまず考えにくいでしょう。ですから問題は構図をそのまま雑誌から無断転用してしまったことでしょう。

 仮に自分で実際に試合を写真に撮ったり、映像を撮ったりして、そこからこのシーンをそのまま使おうとなった時には、プロの試合のものでも問題ないでしょう。ただこのケースの雑誌にある写真を無断で作品に使ってしまうということは問題がないとはいえないと思います。

 例えば、おたくの雑誌にあるこの写真を本で使いたいから載っけてもいいか、あるいは写真をくださいということになれば、連絡して許可を得て©つけて、引用元を明記するのが普通ですね。このプロセスを経ていれば問題なかったでしょう。まあ実際©をつけるのではなく、ここを資料として使いたいんだけどいいかなと確認を取るくらいでしょうね。あるいはその雑誌に投稿しているカメラマンからその写真に関する許可を取り付ける、または雑誌に投稿しなかったものを資料として提供してもらうなどという形になることでしょうか(そしてコミックスとかに協力という形で雑誌名を記載する。話ついてるということを明示すると)。

 ただ、この写真の構図をそのまま流用することが著作権を問われるか否かというとまた別問題なわけですね。上の記事リンクにあるように、特定のポーズで著作権が発生するということはありえない。そうなると最初にポーズ取ったもん勝ちで、なんでもかんでもクレームつけて金を要求できてしまうわけですからね。

 少なくとも著作権の侵害ではありえない。そもそも「模写」ですからね。本人に似たキャラを勝手に使えば肖像権とかでまた話は変わってきますけど、ポーズだけですからね。引用記事にあるように、芸術性・独自性が認められる写真などから構図を流用した場合などにおいて、初めて著作権侵害が問われるわけですからね。

 実際、この雑誌がスラムダンクを訴えてその裁判結果がハッキリしていればわかりやすいんですけどね。実際相手側も訴えるようなことだと認識していなかったのでしょうか?そのような動きは起こりませんでした。スラムダンクは人気漫画でしたからバスケ関係者が誰一人として、あれ?これどっかで見たよな?と気づかないはずありませんからね。あるいは気づいた上で雑誌社サイドが、「井上先生になら大歓迎。バスケ業界を大きくしていただいた貢献者ですから、どうぞどうぞ」ということだったのかもしれませんが。

 多分、実際の裁判になってもこれが著作権侵害になるとは考えられないと思います。あくまで「著作権侵害にはならない」ということですが。描き手は本来漫画を描く際には、オリジナルの資料を用意するもの。その資料を用意する際に手間・暇がかかる=ギャラが発生するのは当たり前。その資料代を剽窃によって不当に浮かせた、払うべきギャラを払わなかったという点で攻めたらどうなるでしょうか?その論理も通用しないと思いますが(示談でいくらかもらえるくらいで、勝訴はありえないという意味で)、裁判の勝敗云々を置いといて漫画家としての矜持や良識が問われることになるのでしょう。

 本来プロの描き手ならば自前の資料を容易すべきだと思います。前述通り、カメラマンや雑誌の人と仲良くなっておいて資料をわけてもらったり、正式にギャラを払って資料を調達するべきなのでしょう。本来は。ただスラムダンクの件は、当時そこまで著作権云々かんぬんというのが厳しくなかった時代ですから、常識としてあまり根付いていませんでしたから、そこまでどうこういう問題では無いと思います。井上先生は優れた漫画家でもありますし、本人としてそういうことをしっかり説明して、雑誌サイドと話しあえば普通に解決する。相手側も特に問題にはしないと思います。というかバスケ業界の興国の英雄みたいなものなので、まず相手が難癖つけるのは考えられないでしょうから。

 時間が経った今だからこういうのは今更蒸し返すと面倒なことになるから、寝た子を起こすなという意見もわかりますが、きちんと処理しておかないと後々面倒くさいことになりかねないんですよね。井上先生のような誰もが知ってる漫画家がキチンと後進・業界のためにルール整備をしておくべきだと思います。

 そして、こういう権利関係云々は漫画家を雇用している会社サイドの問題だと思います。新人であれ、ベテランであれ資料用意というのは全部やる人もいるでしょうけど、基本的に会社が用意して提供するものでしょう。まあ用意は漫画家さんが休養を兼ねて取材旅行したいから自分でやるとなっても、その資料が問題ないかどうかのチェックをすべきと思います。工程・過程を編集サイドがノーチェックというのは責任放棄以外の何物でもありませんからね。特に週刊連載でキツキツだったスラムダンクでは資料を用意するのも大変だったでしょう。雑誌からサクッとシーンを選んでもやむをえなかったでしょう。ジャンプが資料を調達するために手配するとかそういう発想は当時ではまだ出てこなかったということでしょうねぇ。

 まあ、スラムダンクのケースはさておき、この東山さんのケースでは著名な写真集か何かからの引用=著作権にかかるものがあるので、それについてはきっとアウト。構図だけとはいえそこにオリジナルの著作権が発生するのでそれを軽率に使ってしまったことは問題でしょう。そしてそれ以外のもの、構図を流用するのが問題無いとはいえ、トレスがちょっと多すぎる。

 最近ではPCで取り込んで、パソコンで絵がかけてしまう時代ですから、そういう画像転用で絵のベース・下地を流用からささっと済ませてしまう。そういうやりかたで絵を描く作業を大幅に短縮するということが起こりかねない時代なわけです。プロの絵描きには、構図やコマ割りだったり色々なものを含めてそこにギャラが発生する。そのオリジナリティが評価されるので、それは犯罪ではなくても、オリジナリティの価値を毀損する。自分の絵描きとしての評価・ギャランティを著しく損なってしまう。そういうことが絵を描く人々、プロの人たちにもっと理解・認識されるべきだと思います。

 個人的には著作権の侵害云々、トレスは悪だ!犯罪だ!みたいなことではなく、そういう理解をすべきだと思います。実際PCで描いたことがないのでそれが大幅に時間や労力を減らす事になると断言できるわけではなりませんが、多分そういうことが問題になっているのだと思います。手を抜いて作った作品でギャラを貰うのはいかがなものか!?ということを問題と思う人がいるのは不思議なことではありませんからね。そうでなくても何より人はその人のオリジナリティ・独創性を評価しているのですから、そのオリジナリティにケチがつくのは本人にとって損なことなのですから、描き手にはもっと資料引用・模写には敏感になっておくべきことなのでしょうね。

 背景を描くときに、この服とかこの街・自然などの景色をここに描いてーみたいな指定がされるので、どんなものでも絵にして描きおこすこと・引用することはセーフなんだという観念を多くの漫画家が持っていたとしてもおかしくないですからね。出版社はこれはセーフ・これはアウトみたいなことを新人を中心にしっかり説明しておくべきでしょうね。

 そして今回取り上げた事件では、これによって連載が切られてしまったそうです。そうではなく、何がアウトで何がセーフなのかはっきりさせて、その上でしっかり説明をすべきだったでしょうね。結局、そういう事後処理があやふやで幕引きがされてしまったがゆえに、トレス=悪&アウトみたいな偏見が広まってしまいましたからね。アウトもあればセーフもある、というかほとんどセーフの領域ですからね。絵描きとしての創意発想能力を疑われるということであって。メガネの構図なんて因縁以外の何物でもないですからね。

 まあ、この漫画家さんがロリコン系の漫画を描く人で、そういう資料をそう簡単には用意できない・調達できないという背景もあったのかもしれませんねぇ。エロ漫画の描き手さんが、こういう作品を描くので少女にモデルを依頼してポーズを取らせるということは、うーん…どうなんでしょうね?

 そういうのも法的には問題なくても色々めんどくさそうなので、芸術系だったり、違った雑誌とかのカメラマンさんと仲良くなって資料として調達できるようにコネ・パイプを作っとかなきゃいけないということなんでしょうかねぇ?