書評― シルクロードと唐帝国 (興亡の世界史) 森安 孝夫
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ブログ引越し&見直しの再掲です。元は09/12に書いたものです。
まとめると、この時代の歴史とは遊と農という二つの異なる文明間の衝突と結合の繰り返しによる遊農融合による新文化・政治の創生、新時代のための基盤作りとなった時代だった。そして結果生まれた定住・遊牧を取り込んだ新システムは歴史の主流・基礎となっていった。
○遊牧民と農耕民の交わる接点を「農牧接壌地帯」と呼ぶ。横長に広がるここを制すれば、王朝は繁栄し、失えば征服王朝などに対する戦乱の最前線になる。
○漢民族=農本主義などということはなく、中国農本主義の誤りを指摘し、北部では牧畜の方が生産が高かった。
○遊牧王朝は常に経済基盤が脆弱であり、旱魃、霜雪などの自然災害に極めて弱い。第一突厥帝国やウイグル帝国および大元ウルスも全て自然災害で滅びている。遊牧帝国は自然災害、疫病による家畜の大量死といったときに、経済的な基盤である農業地がないと存続できない。
―といったような興味深い指摘も数多い。突厥史を深く知りたい人間にとってとても優れているといえる。ただ、時系列的に淡々と述べられているものではないので、この時代や歴史に詳しくない初心者にとっては少し読みにくいかもしれない。むしろ井沢元彦氏*1のような平易に順を追って解説していくものの方が珍しいといった方がいいだろう*2