てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

続、『ヤマトンチュの大罪―日米安保の死角を撃つ!!』

 前回の小川和久著 『ヤマトンチュの大罪―日米安保の死角を撃つ!!』―の続きになります。

 韓国・比などの基地は脅威対処型の基地にすぎない。日本は戦略的根拠地で次元が違う。脅威がなくなれば実際そうなった比のように、朝鮮の米軍もなくなる。しかし日本のような戦略的重要地はむしろ増強される。今後もなくなることはない。燃料・補給などロジスティクスの観点からその重要性は言うまでもない。湾岸戦争ロジスティクスを担った戦略的根拠地だった日本の重要性は、約7万人送り込んだ英と比べて、どう低く見積もっても英の3~5倍に相当する。それくらい後方支援という任務は重要。無知だからこそ日本は貢献していないという声を真に受けてしまう。数々の文献に日本の貢献が記されていないのは、国防総省の公式記録に記されていないが故とも言える。「日本外し」で意図的に書かなかったのか、日本の軍事的貢献を取り上げないでほしいという日本政府との談合の結果なのか記されていない。議会が税金の使い道をきっちり調査するという感覚から突っ込んで調べていれば、こんなことにはならなかっただろう。これも民主主義機能不全の結果。湾岸戦争は第二の敗戦である。

 米のチャーマーズ・ジョンソンなどリビジョニストは日本の安保タダ乗りを主張する。これは自衛隊が米を守っているということを理解していないが故*1。米を敵に回すのは日本も敵に回すこと、抑止のハードルを上げることを理解していないが故。
 自衛隊の空軍は世界第15位程度だが、そのアンバランスな戦力で米軍基地を攻撃するリスクを高めている。空軍力を図るものとして敵国を爆撃する能力、制空権を取る能力と並んで敵を自国に侵入させない要撃戦闘能力・要撃密度がある。日本のその能力はイスラエル・米に並んで三位。海軍も対潜水艦戦(ASW)に特化している。掃海能力が世界一で肝心の攻撃的戦力が抜け落ちている。これもシーレーン・米の戦略ルートを守ることを念頭に置いているため。

 防衛予算と基地予算、あわせて約5兆で米の戦略的根拠地を支えている日本が最も双務性が高い国であることは論をまたない。西太平洋からインド洋の戦略分担比率は米6:日4になる。外務省北米局の高官が「でたらめ言ったら困る。横須賀はスービックの50分の1程度の役割でしかない。日本から撤退することはあっても比から撤退することはない」と言った。根拠を尋ねたら米がそう説明しているからとのこと、現地に足を運んでいなければ国防総省の公式資料に基づいたものでもなかったという…。米の政府の当局者と安保の確認作業をする機会があったのでそのことを尋ねた。やはり予算は二次的なもので戦略上の重要性が第一だと認識していたとのこと。

 このような戦略的重要な要衝から撤退はありえない。セキュリティー・バキューム(力の真空)はありえない。ビンのキャップ論・日本の軍国主義が復活するというのも歪な軍隊の戦力を見ればありえないことは一目瞭然。むしろそのように撤退をちらつかせて米の駐留を望む声を上げさせるのが目的。ベトナム戦争後のカーター政権の撤退論で韓国のみならずアジア諸国から駐留維持を望む声を引き出したのがいい例。むしろこのような論にデータなど示してきっちり反論できない日本の問題。

 95年、仏・中が核武装に踏み切ったのは核=政治力の裏付けがあるから。88年、印は核武装を関係国に通達した。翌年中国は印のラジブ・ガンジー首相を招待し歴史的和解に踏み切った。政治的価値・効力がある以上核武装の誘惑は常に付きまとう。その国が米にとって核を持って良いか悪いかで「良い核」か「悪い核」か判定される。米にとってインド・パキスタンイスラエルは「良い核」イラク北朝鮮リビアは「悪い核」。ソ連にとってはこの良し悪しが逆になり、ソ連にとっての「悪い核」の国々をなんとかして味方に引き込みたい。「良い核」にしたいという外交が行われた。

 平和主義・非核政策を外交に掲げる日本は一時的でも国交を断絶して強い抗議をするべきであった(それ自体に疑問はないが、断絶後どういう風に国交回復をするのか、振り上げた拳をきちんと降ろさせる、着地させる方法はいかようなものなのだろうか?)。豪・NZと核実験を非難してきたのにもかかわらず、仏に常任理事国入りを求めて特使を送った。外交的誤りである。

 仏国民に訴えかけるのに仏製品不買運動のようなものはあまり効果的ではない。それで倒産企業でも出そうものなら逆効果、相互の友好を損なうだけに終わる。新進党の意見広告「核実験が最初に破壊するのは仏への信頼である」という大国のプライドをくすぐるのはセンス抜群。中国に対しても友人としての相手を思った忠告でない限り、このような抗議は効果を発揮しない。危機管理の基本は人を見て法を説く事、国際関係でも同じ。

 日米安保の根本的認識を誤っている指導層。朝鮮国連軍という認識の欠如。核開発疑惑についての安保理での経済制裁。中露は積極的ではない。韓日米で安保理を回避して独自制裁は可能。効果を発揮しなければ、次の段階として軍事制裁の性格を含む海上封鎖になる。そうなるとPNR(引き返し不可能地点)になる危険性をはらむ。海上封鎖からそれをかいくぐろうとする北の艦艇との小競り合いが実戦にエスカレートする可能性がある。軍事制裁となると安保理決議が必要になるため、強力な経済制裁は出来ない。

 半島での有事には国連安保理決議がいる。日米安保条約と米韓相互防衛条約には国連安保理の決議が必要という歯止めがかけられている。在日・在韓米軍は「国連軍基地」として位置づけられており、8カ国からなる朝鮮国連軍の合同会議は形骸化したとは言え現在でも存在している。国連地位協定5条2項には、日本国内の基地を朝鮮国連軍が使用することが明記されている。そして24条・25条には国連軍が撤退しない限り、在日米軍基地の朝鮮国連軍としての基地という性格は消えないことになっている。安保条約6条で米軍の基地の使用を認めているものの、1条で国連憲章に定めるところという国連の歯止めがかかっていることがわかる。国連憲章のほうが日米安保よりも優先する構造になっている。だから沖縄のホワイトビーチには日章旗星条旗と並んで国連旗がある。米韓相互防衛条約があろうと、国連軍の性格を持つ在日米軍基地を(注:安保理決議抜きで)半島有事に使用することは不可能。

 社会の官僚化による民主主義の不在。米では一人平均40人いる政策秘書。議員に年40万ドルの手当がある。だから優秀なブレーンに支えられた有力な議員は政策を立案でき、一人で政府の方針をひっくり返すことも可能。また会計検査院のようなチェック機能、ジャーナリスト・シンクタンク・アカデミズムなどの問題の指摘。軍事問題に精通した人物が足りない。

 最後に氏による「平和国家モデル」の提唱がある。歴史認識に基づく戦後処理、南京のような賠償に踏み込むことで信頼醸成をするというプランがあるが、それ自体は賛成するものの、しっかり賠償しても信頼醸成・日本の不信感といったものが解決されるとは思わない。中韓のそれは日本の対応のまずさというより、彼らの自身に内在する問題だから。また相互原則、日本が賠償するのは同じように自国の罪・戦争犯罪に向き合う国に限定するという歯止めが必要だろう。

 凶状持ちであるから信頼回復は難しいとあるが、他国の実利などを無視した視点のような気がする。勿論この時点ではこの見方で対して問題はないのだろうけど。中国の台頭で日本のプレゼンスが求められるようになったように、彼ら自身の国益によって日本への見方は変わるに決まっている。ものの見方が日本中心主義的にすぎるのではないか?まあ本のテーマからそうなるのも致し方ないのだろうけど、もっと「平和国家」がいかに日本の戦略としてふさわしいのか、実利をあげられるのかという話が欲しかったかも。
 1996年という時代的制約があれど、今に通じる論理があるので非常に興味深い本でしたな。続き読もうと思って12月くらいから続き全然読んでないなぁ…。そういえば(^ ^;)。

*1:流石、小川氏自衛隊は本質的には「米」衛隊であるということをよくご存知ですね