てくてく とことこ

15/12/18にアメブロから引っ越してきました。書評・時事ネタ(政治・社会問題)で書いていく予定です。左でも右でもなくド真ん中を行く極中主義者です。基本長いので長文が無理な方はお気をつけを

中嶋よしふみ氏の経済分析を読んで

 前回の続きで、最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること という記事がリンクにあって、読んだので、それについてもコメントを。

 本文中において、中嶋氏は、この最低時給では生きていけない・生活できないから、最低賃金を引き上げよと主張する運動について、最低賃金を引き上げれば、その分の支出を企業はバランスを取らないといけない。つまり、解雇でバランスを取る・失業率が上がると指摘しています(※続きの文中では、マンキュー教授を例にあげて、この考えは経済学の常識だと。またそれと同時に、今現在その例外を研究する経済学者の大竹氏やアラン・クルーガー氏の実例もあげています)。

 最低賃金を引き上げれば、改善されるのか?問題が解決されるのか?中嶋氏はノーと言います。雇用問題と社会保障問題を履き違えている・混同していると。事例に上がっている高校生が父・母が働けない。自分が家族を支えるしかない。それで850円は安すぎる―というケースでした。これは、生活保護介護保険をもらうべきケースであり、時給の問題ではないと。

 しかし、じゃあこの高校生が生活保護をもらえるか?氏の別記事で、警察OBが生活保護の水際作戦で採用されている件と、超簡単な突破方法 という記事があり、行政書士に文章を作ってもらって、提出すればそれで生活保護がもらえるというようなことが書いてあります。しかし、水際作戦で多くの人がもらうことを諦めているという現状があると言われていると思うのですが、そんなに簡単なのでしょうか…?

 今困っている高校生がいて、生活保護よーこせ!というデモをやった場合、生活保護に対する拒否反応・アレルギーがある風潮では、叩かれる可能性がある。デモが失敗する可能性が高い。そこでまず、取っ掛かり・ワンステップとして時給を上げてくれ!と世界的なファーストフード時給アップでもに便乗するというのは理にかなった作戦ではないでしょうか?(そこまで深く考えているかどうかは別として。また上で書いたように中嶋氏が主張するように生活保護がもらえるならば、この前提は即崩壊しますが)

 「エキタスさんだけでなく、先日のシールズのデモなどを見ていても、自らの主張に根拠を持たせて多くの人に受け入れられる形にする……という当たり前の事をやらないケースが最近多くみられるようになった」
 ―ということでわざわざ反論を書いたとのこと、確かにこのエキタスという団体が、「内部留保」など経済学的な誤りをしたり、深い知見がないように見えるのでそれについては同意見ですね。

 デモ・政治運動の主張が無知に基づいていいわけではありません。もちろん、最初は無知でいいです。ただ反論にはしっかり答えて、勉強して知見を深める姿勢は必要不可欠ですね。

 ただ、疑問に思ったのが、なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか? という文中で、スイスは一人あたりGDPが高く、物価も高い。だから可能であり、日本では不可能というもの。経営者の高額報酬をぎりぎりまで減らしても、従業員全体の時給アップに振り上げれば上がる時給は微々たるもの。賃金上昇は経済成長でしか達成できない。その基本を無視する主張は意味が無いと。

 また、3つの類型を上げて説明します。アメリカ型は従業員が雇用のリスクを負う自己責任型。北欧型は国=国民が雇用のリスクを負う国民型(重い税負担なので高負担型の方が適切か?)。そして日本型は企業がリスクを負い、そのため解雇規制が強い。日本企業の場合、企業がセーフティネットの役割を果たしている(企業型)と。(「安定した雇用」という幻想。~雇用のリスクは誰が負うべきか?~ )

 どちらかにするかはさておき、そのようなシステムを参考にしなければ、日本の企業が賃金を安くすること、ブラック企業化は止められないといいます。ブラック企業化がどうして起こるかというと、日本の企業の場合、いったん雇用してしまえばその社員に4億円の負担を負う。簡単に解雇が出来ない。

 簡単に解雇が出来ない故に、不況になれば派遣や新卒採用を絞るという形にならざるをえない。賃金を払えなくても解雇できなければ、労働者への一人あたりの負担を増やすしかない。ブラック企業で辛い労働状況下にあっても、社員が辞めないのは、退職しても再就職が出来ないから。その職場にいても地獄、やめても再就職が出来ないという地獄がある。同じ地獄なら今の職場にしがみつくしかないと。

 労働者が逃げないから、企業の方でもそのブラック化は止まらない。結果ブラック企業化は構造的に、必然的に起こるものだと(収益の減った企業は解雇でその調整ができない、倒産しないために従業員に過剰負担を強いる。前回のブラック士業の話は、なんとか一人でも職場から蹴落としてやろうという環境があるという話でしたが、このシステムは、なんというか蜘蛛の糸の話を連想しますね。犠牲者なくしては生き残れない構造があるので。)。

 少子化問題も同じ、女性が出産・育児のための再就職が出来ないから、構造的に結婚・出産が減る。労働問題・人口問題と二重の問題で日本型労働・雇用保障制度は転換を迫られているわけですね。

 なるほど、しかし、ではアメリカでファーストフード賃金アップ運動が起こった結果、賃金は上昇しましたが、それをしなければ果たしてどうだったでしょうか?経済成長した。あとはほっといても彼らの賃金があがっていたでしょうか?政治運動として声を上げる必要性があることは揺るぎない事実だと思います(エキタスという団体への批判を書いただけで、そこまでの話はしていない。そういう話をするなら、また別のロジックがあるということかもしれないので、それをもって氏を批判というか非難をするつもりはありません)。

 また、筆者の主張に結構同意するところがあるのですが、では、今後企業にセーフティーネット負担をやめさせるとして、アメリカ型・北欧型、他のどんなタイプでも良いですが、どういうタイプを選択すべきなのか?それを聞きたいですね。社会保障重視ならA型、経済成長重視ならB型とか、色々あると思うので、そういう話を聞きたかったですね。

 むしろ、ポイントとしてはそこであって、そういう話をすべきだったかと。また、一人あたりGDPをもってして豊かである・ない。日本は相対的にでも貧しい国になったとする主張はどうでしょうか?

 貧しい・豊かの指標としてめったに食べないビッグマック指標というものが有効か?と言われてもピンと来ないんですよ。エンゲル係数とか、貯金・娯楽消費への支出などを総合的に見たのならばまだわかりますが。

 ファーストフード店だけに絞って論じていると思うのですが、むしろポイントは、何回か書いたと思いますが、物価に反映させてでも人件費を高くすること。一部業界だけでそれをやれば、業界が衰退してしまうのでできないので、法制化して一気にやること。それによって労働時間の短縮を促し、かつ内需依存型経済のブーストをすることだと思うんですよね。

 人件費を高くすれば、空洞化が進む&機械化が進むと言われますが、機械化によるものは、それも税金かけて社会福祉に還元するとか対策があると思います。また、空洞化と言っても、中国のような単純労働の提供口が減っている。サービス業については空洞化は出来ませんからね。不法移民労働でもさせないかぎり。

 成立しなくなる産業を諦めて、おもいっきり過剰に人件費を高める、保障する制度に移行する。物価も事例にある国のように倍・数倍になることを許容する。それではダメなんでしょうか?素人考えで、そういう方が今の社会にまだ上手く適応すると思うのですが。


 民主党がどうして、消費税増税にあっさりシフトしてしまったのか?という謎があったのですが、もともと大きい政府志向だったからという理由だけではなく、こういう転換(北欧型など)を進めようという思想が党内に根強いということなのかもしれませんね。

 だからといって、言うまでもなく、官僚の言いなりになってホイホイ増税をやろうというセンスの無さが免責されることはありませんが。それにより政権崩壊にまで至ったのですから、何をか言わんや。国民から増税してセーフティネットを充実させるという北欧型の選択肢以外に、そもそも高物価・高賃金社会だったり、労働・雇用の自由化だったり、色んな選択肢が存在していなかった。10年・20年前の流行りの学説のまま思考停止してしまっていたのではという恐れがありますね…。自民党を見れば、やはりそういう思考停止・成長停止の傾向があるので、民主党もさもありなんという感じですよね…。